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報道デザインの仕事とは

 こんにちは。読売新聞デザイン部です新聞社では、大勢のデザイナーが働いているのをご存じでしょうか。今回は、新聞社に欠かせない報道デザインの仕事を紹介します。

 新聞社で働くデザイナーは、グラフィックによって「ニュースを可視化する」のが仕事です。株価の動きや売上高の比較は、グラフがあれば一目でつかむことができます。関係者が何人もいるような複雑な事件の構図や政治の動きも、チャート図で示せば全体像を理解できるでしょう。難解な医療記事も、臓器や身体の図解があることで、理解を助けます。
 デザイン部は読売新聞のほか、読売KODOMO新聞、読売中高生新聞の記事のイメージイラストや連載タイトルのワッペンといった小さな図版から、新聞紙面いっぱいを使った大型のインフォグラフィックなどを担当します。紙面と連動したオンラインのコンテンツデザインを含めれば、1か月に数百点もの大小様々な報道グラフィックを制作しているのです。

 それでは、デザイン部で働くデザイナーへのインタビューを通じて、報道デザインの仕事をお伝えしていきます。


広がる報道デザインの仕事

                       佐久間友紀デザイナー

 まずは報道デザイナーとして20年超のキャリアがある佐久間友紀さんに、報道とデザインについて語ってもらいましょう。佐久間さんは大学の政治経済学部を卒業後、2000年に入社し、デザイナーとしてスキルとキャリアを積んできました。新聞紙面のグラフィックだけでなくWebデザインも手がけ、読売新聞オンラインに様々なコンテンツを掲載しています。

佐久間デザイナー:私が入社した頃、図の制作はパソコンと手描きの両方で行っていました。現在はほとんどがデジタルでの作業です。また、紙面に占めるグラフィックの割合は20年あまりで格段に増え、デザイナーは新聞制作において重要な役割を担っています。デザイン部が担当するビジュアル連載「見る」は紙面を大きく使ったインフォグラフィック企画で、月に1・2回のペースで10年以上続いています。

 

※ビジュアル連載「見る」の紙面は以下から

 読売新聞は「新聞withデジタル」を掲げ、紙とデジタルの両輪でニュース報道にあたっています。このため、ここ数年で、デジタル上での魅力的なコンテンツ制作を目指してスキルも向上させてきました。取材記者、フロントエンドエンジニア、コーダーの皆さんと連携しながら、動画や3Dをはじめとした多様な表現・技術を取り入れ、業務の幅が広がっています。

 最近手がけたデジタルコンテンツをひとつ紹介します。Web情報への接し方について問いかける「情報的健康 日米韓3か国調査」です。2024年8月に公開しました。

 

 「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。偏った情報の取り入れ方を示す言葉ですが、その説明をアニメーションで制作しました。閲覧者の目に留まるよう、グラフや写真にもちょっとした動きをつけたり、「健康」というキーワードを食事と絡めて、健康的なイメージのある和食の画像をアクセントに添えたりしています。
 デジタルコンテンツ制作には様々な手法がありますが、今回はスマホ画面をスクロールしてどんどん読み進められる「スクローリーテリング(Scrollytelling)」を意識して制作しました。

 

紙とデジタル デザイナーの役割は同じ

 佐久間デザイナーによると、紙面とデジタルのデザイン業務には、それぞれ強みと弱みがあるそうです。紙面は大きいけれど絵を動かせない、デジタルは動かせるけれどスマホの画面は小さい。新聞は読者一人ひとりのもとに宅配されますが、デジタルコンテンツは作っただけでは誰の目にも留まらないーーそんな風に説明してくれました。
 それでもデザインにおける根っこの大事なところは紙もデジタルも同じなんだそうです。「何がニュースなのかを理解し、読者が知りたいのは何かを想像する。そしてデザイナーはそこにどう関わるかを考えることが大事なんです」(佐久間デザイナー)。
 では、佐久間デザイナーが手がけた紙面・デジタルそれぞれから、デザイナーの仕事例を挙げてみます。

①東日本大震災、グラフィックで被災体験を再現

2016年2月17日付 読売新聞朝刊

 東日本大震災の報道では、震災から5年の2016年に「震災5年-あの時-」という連載企画で、被災された方々の体験をグラフィックで紙面に再現しました。あくまでも「イメージ図」ですが、取材した記者の膨大な取材メモを読み込み、当時の現場の様子を詳しく調べることで、臨場感や説得力のある「イメージ図」となるように心がけ、「震災を忘れない」というメッセージを込めました。
 
2021年にも「東日本大震災10年 記憶」の大型企画で、同様のグラフィックを作成しました。

2021年2月22日付 読売新聞朝刊

②「三笘の1ミリ」 観戦しながら図版制作

 2022年のサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会では、日本対スペイン戦で、三笘薫選手のラインすれすれのクロスが「三笘の1ミリ」として話題になりました。
 テレビで観戦しながら、新聞の読者はそのプレーを詳しく知りたいはずだと考え、プレー直後から、ボールがどこまでラインを超えれば「出た」ことになるのか――がわかるグラフィックの制作に着手しました。この図版を読売新聞オンラインで速報すると、検索サイトからも非常に多くの人が閲覧しに来ました。デザインがネット上でもヒットを生み出せることを示した事例です。

2022年12月3日付 読売新聞朝刊


③“野球少年”の来歴をWebコンテンツに

 2023年にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催された際には、「代表選手はどんな野球少年だったのか知りたい」と思いました。そこで、大谷翔平、村上宗隆、佐々木朗希の3選手の少年時代と過去の大会のハイライトを絡めたWebコンテンツを企画し、運動部記者、エンジニアと一緒にまとめました。

 

佐久間デザイナー:日々のニュースの複雑さを解きほぐし、可視化してわかりやすく伝える。急な事件の報に対応し、短時間で情報を整理して届ける。災害の記憶やスポーツの決定的瞬間など、あらゆるニュースをテーマに印象的なデザインを提案する――。全て報道デザインの使命であり、面白さです。
 新聞社の扱うニュースは多岐にわたり、私たちの生活と結びついています。記事を目にする誰かのために、嬉しいニュースは思い切り賑やかに、辛いニュースにはそっと寄り添う……そんなデザインを志しています。

 

若手デザイナー2人にインタビュー

 次に、若手デザイナー2人に、日々の仕事やキャリアについて話を聞きました。谷嵜純太さん、滝沢南実さんは、いずれも2019年に美大の造形学部デザイン学科を卒業し、新卒で読売新聞に入社しました。

同期入社の谷嵜デザイナー(左)と滝沢デザイナー

Q 読売新聞のデザイナー職になったのはなぜですか

谷嵜:大学では、グラフィックデザインを専攻し、文字を中心とした作品を制作していました。本の装丁や「活字」に興味があり、商業デザインではない分野で働いてみたいと思っていたところ、新聞社でデザイナー職を募集していると知り入社を志望しました。
 Illustrator、Photoshopなどのデザインソフト・ツールのスキルはもちろん、大学で学んだデザインの基礎的な知識は大いに生きてきます。学生時代に培った分野を活かせる場面もたくさんあります! 

滝沢:読売新聞のインフォグラフィックに興味を持ったからです。難解な内容でもビジュアル的に整理すれば幅広い人が理解できる紙面になることがわかり、自分もこんな仕事がしてみたいと思いました。
 入社して、大きなグラフィックも、1年目からどんどん任されました。2021年9月26日付の「見る」(下図)では、月に初めて降り立つかもしれない日本人宇宙飛行士を募集する、というワクワク感が伝わるように作成しました。

 
 

Q これまでどんなデザインを担当しましたか

谷嵜:日々の紙面で使われる図版のほか、大型特集面などの図版を担当しています。
 まず、日々の紙面で使われるグラフィック類を四つ紹介します。その日のニュースの理解を深める図表や、衛星写真を組み合わせた地図、また、自分の個性や画風を生かしたイラストを描くこともできます。

 
 

谷嵜:次に、紙面を大きく使う大型図版を説明します。連載「生成AI考」は2024年の年間企画で、24年7月17日付の紙面(下図)では、生成AIが選手の動きを瞬時に解析する様子を描きました。23年5月5日付の「新型コロナ」特集紙面は、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が見直されて日常生活が「戻る」のを前に、見開きの新聞紙面全面を使って制作しました



 
 


官公庁や外部の企業と読売新聞がタッグを組んで進めるプロジェクトなどで、デザインを任されることも

滝沢:私もニュース紙面のグラフィックから説明します。左下の地図は、能登半島地震で被災した小中学生の現状が分かるように、色や数字を使って地域ごとに整理することを意識しました。右下の図は、米大統領選で民主党候補がカマラ・ハリス氏に代わってから支持率の差が小さくなったことを、イラストとグラフを用いて視覚的に表現しています。
 中高生新聞に掲載するグラフィックや、家庭欄のイラスト、特集面の連載カットなどでは、得意なイラストを生かしています! 読者の年齢層や内容に合わせたデザインにすることを意識しています。

 
 
 

Q 報道デザインを志す学生さんに一言お願いします

谷嵜:関心のある分野、得意な表現、スキルや知識は、デザイナー一人ひとりで異なると思います。ポートフォリオには、学生時代の作品や力を入れたこと、興味関心のあること……など、やってきたことを幅広く載せてアピールしてくれるといいと思います。

滝沢:報道デザインは日常生活に溶け込んでいるため、就活では意外と見落とされがちかもしれません。けれど、自分の個性を業務に活かして成長できる魅力があります。あまり堅く考えすぎず、ぜひ飛び込んでみてほしいです。

 

終わりに


 報道デザイナーの仕事、やりがいは伝わったでしょうか。少しでもイメージが膨らんだならばうれしい限りです。デザインは想像力をもってニュースを図版にし、相手にメッセージを伝える仕事です。可能性は無限大です。
 読売新聞デザイン部は、報道デザイナー(嘱託社員)として一緒に働く人を募集しています。興味を持っていただけた方のご応募お待ちしています!

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