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「東京レインボープライド2022」の問題とは?当事者が感じた “平和ボケ” と “男性優位性”。【イベントレポート】

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2019年に高校卒業して日本に来た私にとって、「東京レインボープライド2022」は参加した初めての大規模LGBTQ+イベントだった。楽しかった三日間となった一方、問題もたくさんあると感じた。


写真=Yomcott Media TRPの会場の様子。                                           

No Rain, No Rainbow

中国で中高一貫で全寮制の学校を通っていた私にとって、2022年の4月22日〜24日までの間に開催された「東京レインボープライド2022(以下、「TRP」で略称)」は参加した初めての大規模LGBTQ+イベントだった。パレードには参加できなかったが、イベント会場の各ブースへ遊びに行った。多くのLGBTQ+の人とアライ(アライ=「味方、LGBTQ+を理解する人」)と出会い、仲間からのエネルギーに満たされ、とても楽しい三日間だった。

一方で、私を悲しませ、そして考えさせる出来事が沢山あった。その中で最も注目を集めたのは、おそらくLGBTQ+差別をしている企業の出展だ。それについては、すでに数多くのメディアに報道されているため、この記事では詳細を扱わないことにする。

東京レインボープライド2022」は、日本最大級のLGBTQ+のイベントで、2022年4月22日(金)〜24日(日)、代々木公園にて開催された。2000名程の参加者が渋谷・原宿を行進するパレード、パフォーマンスやトークショーが行われるステージ、協力団体や企業による展示のブースが設置された。新型コロナウイルス拡大防止の観点から、オンラインとのハイブリッド型で行われ、パレードは抽選で人数を制限して実施された。

TRPに出展する企業は、宣伝目的が強く実態が伴っていないのではないかという指摘は開催前からされていた。ハフポスト日本版の記事では、プラチナムスポンサーの『アクサ損害保険』が、「パートナーシップ制度」を利用しているゲイのカップルに対して保険料を減額する「配偶者限定特約」を認めなかった例を紹介している。大型スポンサーにもかかわらずLGBTQ+フレンドリーではないことを指摘している。

本稿では、私が外部のLGBTQ+コミュニティやLGBTQ+活動に関する考えを、イベント当日の経験と交えて述べていく。

写真=Yomcott Media TRPの会場の様子。                                        

LGBTQ+コミュニティ内部の格差

TRP当日。会場である代々木公園のイベント広場に行ったことがなかったので、ちょっと道に迷った。代々木公園から陸橋を降りると、最も賑わっていた会場の中心部が右の方に見えた。気になっていたマッチングアプリの会社のブースであった。どれも私が利用したことのあるもの、もしくはよく耳にするものだ。

マッチングアプリを利用した犯罪も少なくない昨今、アプリに好印象をあまり持たない人もいるだろう。しかし、使い方次第では、出会いを求めるにはピッタリの便利なツールだ。特にLGBTQ+の人にとって、マッチングアプリはカミングアウト(カミングアウト=LGBTQ+の当事者だと周囲に伝えること)やアウティング(アウティング=第3者が許可なく当事者のセクシャリティを公開すること)の危険を回避しやすい。言うならば、LGBTQ+にとってアプリで出会いを求めた方がより“安全”とも捉えられるだろう。LGBTQ+向けのマッチングアプリの会社が、TRPのような大きなイベントに出展できるということは、LGBTQ+コミュニティの益々の発展の象徴とも見られる。

しかし、もう一つ気になったことがある。それは、これらのマッチングアプリの多くは「ゲイ男性向け」のものであることだ。私が見逃しただけかもしれないが、レズビアンを対象としたマッチングアプリ会社のブースは一つもなかった1。そのような状況を、どう読み解くべきだろうか。

1編集者注:TRPブースリストによると、ゲイ専用のマッチングアプリ「Jack’d」、ゲイ専用の結婚相談所「ブリッジラウンジ」、オールジェンダー用のTinder、同性パートナー用の紹介サービス「リザライ」がブース出展した。ゲイ専用のマッチングアプリやマッチングサービスは複数出展していたのに対し、その他のセクシャルマイノリティのみに特化した企業は見られなかった。

家父長制の社会の既得権益者は常に男性であるということは、LGBTQ+コミュニティにも影響を及ぼしている。ゲイというアイデンティティーの持ち主は、性的少数者というマイノリティー性を所有しながら、男性というマジョリティ側の立場にも置かれている。男性というマジョリティ性による特権を持っているために、経済的な利益を受けやすいゲイ男性は、LGBTQ+の人においては社会の注目を集めやすい存在である。

また、ゲイ男性向けのマッチングアプリの一部は出会い、交流の場を提供するだけではなく、他にも様々なサービスを提供している。HIV検査、HIV検査の相談のサービスを提供するなどの素晴らしいものもあれば、そうでないものも実はある。

例えば、TRPのダイアモンドスポンサーである中国から発足したBluedという名前のゲイマッチングアプリは、以前代理出産が未だに違法であるはずの中国で、そのサービスを提供していた。実際、Bluedのホームページの求人募集要項には、「……ゲイカップルのための代理母サービス等様々なサービスを提供しております」と堂々と書いてある。

読者の皆さんが代理出産に対してどう思っているのか分からないが、私は代理出産に強く反対する立場だ。代理出産が合法的なものと見なされることは、妊娠できる体を持つ人間の身体が、お金によって取引される対象となりうるということだからだ。ゲイカップル向けのマッチングアプリ内で、代理出産のサービスを提供することは、購買能力を持っているゲイカップルが、お金で妊娠できる体を持つ人間の身体を支配し搾取するということだといっても過言ではないだろう。

「セクマイ女性」アプリと「セクマイ男性」アプリの違い

※セクマイ=セクシャルマイノリティ

ゲイ向けマッチングアプリに関してもう一つのモヤモヤは、利用者プロファイルの多様性がかなり限られているということだ。

以前、レズビアンの友達とお互いの利用しているマッチングアプリについて話したことがある。そこで彼女から教えてもらった、セクマイ女性向けのアプリの「多様性」に驚いた。彼女によると、セクマイ女性向けのアプリでは、「自認する性」と「性的指向」の両方を記入する欄が設けられている。

例えば、「自認する性」が女性で、「性的指向」が女性に向くパートナーを探すレズビアン女性のユーザーもいる。また、「自認する性」がノンバイナリー(自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティ)で、「性的指向」がアセクシュアル(他者に性的欲求を抱かない性自認)と書いて他のセクマイ女性の友達を作るために利用するユーザーもいる。

写真=筆者の知人 Zoeというセクマイ女性用のアプリのプロフィール。                          

その一方、セクマイ男性用のマッチングアプリのプロファイル情報は、かなり「偏っている」と言うべきだろう。「自認する性」と「性的指向」を書く欄はなく、その代わりに設けられたのは「属性」欄だ。「タチ」「ウケ」「リバ」などのゲイコミュニティの中に用いられるアナルセックス(アナルセックス=アナル(肛門)を用いて行われる性交渉)の際の役を表すものでしかない。

まるで、ユーザーの全員は「出生時に割り当てられた性別が男性で、性自認が男性で、性的指向は男性に向く」という暗黙の前提が存在しているようだ。「セクマイ男性向けの」マッチングアプリは存在せず、「ゲイ男性向けの」アプリばっかりだという現状だ。

写真=筆者 9Monstersというゲイ男性向けアプリのプロフィール。                         

実際、私自身の性自認もどちらかというとノンバイナリーに近いので、そのようなゲイ男性向けのアプリを利用する際に排除される対象となっていると感じたことがある。

LGBTQ+の人にサービスを提供する会社の出展は素直に喜ばしいことだ。しかし、「ゲイ男性向けのマッチングアプリの出展は多いが他のLBTQ+向けのアプリの出展はほとんどない」という事実に関しても、考え直す必要があるのではないだろうか。

「平和ボケ」していた自分

最後に、LGBTQ+コミュニティがどのように外部からの者に対応すべきかという話をしたい。

私が4月23日(土曜日)にTRPに参加した時、ヘイトスピーチを堂々と発言していた白人男性を見かけた。イベント会場に入るためにお金はかからないので、誰でも参加ができる状況だった。見た目からすると、その白人男性は50代前後で、身長も190cm以上ある長身。英語で暴言を吐いてくる彼を見て、最初少し怖かった。「何か言い返さなくちゃ」と思ったら、近くのブースのスタッフが直ちにボランティアの方を呼びに行き、それを見た白人男性の人がその場を去った。

TRPというLGBTQ+イベントにヘイトスピーチをする人が突入する可能性を、私は全く考えはしなかった。それは、常にLGBTQ+コミュニティにいて、信頼できる仲間たち(先輩)に守られてきたからだ。

LGBTQ+コミュニティの先輩たちが、どのように戦ってきたのかを自分の目で見ていなかった。そのせいで、「平和ボケ」の若いLGBTQ+として生きてきた。社会に出たら、差別的な考えを持つ人、攻撃してくる人は山ほどいると、改めて気づかせられた。

ところが、反撃するために用いられるべき手段は決して暴力ではないとも、TRPのスタッフの対応を見て強く感じた。ヘイトクライムに対して、「目には目を歯には歯を」というやり方を使ってはいけない。

LGBTQ+研究の授業で、1980年代のアメリカでエイズ患者の権利を求めるためにアクト・アップという団体が起こした運動のドキュメンタリー映画(Act Up)を見た。デモ活動に参加した人々が、警察に連行されていったシーンがあった。

暴力的に扱われたにもかかわらず、彼らは身体的抵抗をせず、ただスローガンを大声で叫び続けていた。暴力は、恨みの連鎖を続けてしまうからだ。私たちは、他の人を排除したり抹殺したりすることで生きる権利を手に入れるという戦い方を取るべきではない。仲間と支え合って、進んでいく。それこそ、私たちの戦い方である。

筆者提供

執筆者袁盧林コン/Lulinkun Yuan
編集者清水和華子/Wakako Shimizu原野百々恵/Momoe Harano

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