
「天国がくると思っていた」旧統一教会を信じ続けた10年。元信者がカルトから抜け出した理由とは?
/違和感ポイント/
安倍元総理大臣の銃撃事件以来、注目を集めている「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」。合同結婚式、霊感商法など「異様」だとも捉えられる教えや思想に、入信者はなぜ従うのか。旧統一教会に10年間入信していた元信者に話を伺った。

安倍元総理大臣の銃撃事件以来、注目を集めている「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」。逮捕された容疑者は、「旧統一教会に家庭を壊された」として、教会と繋がりを持つ安倍元総理大臣への恨みを犯行の動機としている。
合同結婚式、霊感商法など「異様」だとも捉えられる教えや思想に、入信者はなぜ従うのか。旧統一教会に10年間入信していた元信者・小林さん(60歳男性・仮名)に話を伺った。
自分の「醜さ」と向き合いたかった。
小林さんが旧統一教会に入信したのは今から約40年前、1983年だ。当時、理系私立大学の三年生だった小林さんは、サークル活動を装った旧統一教会のメンバーに「勧誘」をされた。同大学の別学部に所属する、人当たりの良さそうな勧誘者にお願いされアンケート調査を受けた。
アンケート調査の結果から、一度サークルに遊びに来ないかと誘われ、行った先でビデオを見せられた。ビデオには「あなたは救われる」と言う耳慣れない言葉が出てきた。「変だな...」と思いつつも、それを真剣に信じて、真顔で熱心に語る勧誘者の姿に感化された。
ーー「変だな...」と思いつつも、感化された理由はどこにあったのでしょうか?
小林さん:「世間知らずだった」部分はありますが、それ以上に、自分の悩みに対する回答を旧統一教会の教えに見つけたからだと思います。当時、私は自己中さや気の短さ、誰かに抱く恋愛感情を性欲と勘違いしていないかなど、自分の中の未熟さや醜さに真剣に悩んでいました。
回答を探して、キリスト教の聖書や哲学書を読んだりもしていたのですが、難しくて何を言っているのか理解できませんでした。一方で、旧統一教会の教え方は、簡略化されていて、分かりやすかった。内容も丸っきり嘘だったら信じなかったと思いますが、儒教、仏教、易教などの教えが混じり、一側面だけ見ると、既成概念としてあった『普通の教え』だと思いました。
最終的には自分の罪が救われるには、キリストの再来であるメシア(創始者・文鮮明氏)の許しを受けなくていけないという文脈に行き着くのですが...。
ーー「文鮮明氏=メシア」という教えは説得力がないと感じてしまうのですが、それでも旧統一教会の教えを信じ続けた点はどこにありましたか?
小林さん:そうなんですよね、よく考えれば人間がメシアであるはずがない。しかもそれがなぜ、文鮮明氏である必要なのかも分からない。普通に考えればそうなのですが、出だしから学ぶと、文鮮明氏がメシアであることがピッタリとくっつくような論理的な理論ができあがるんです。
旧統一教会の教えについて、色々な宗教家とディスカッションをしたこともありますが、誰も反論できなかったのです。現役の牧師さん(キリスト教・プロテスタント教会の聖職者)でもお手上げでした。たかだか宗教を勉強して1〜2年の学生を現役の宗教家が反論できなかったんです。それは、旧統一教会が旧統一教会の理論を通すために特化した、いわば「理論武装」を目的とした思想体系だからだと思います。
そうなると、20代前半だった当時の僕は「あぁ牧師さんでも認めざるをえない真理なんだ」と思うようになっていました。反論できないからと言って、その教えが真理なわけではないのですが。あとは、この世に「天国がくる」という希望も与えられていました。そのために自分は(宗徒として)戦うべきだ、そうすることで「自分の罪は救われる」とも信じていました。

正義ほど怖いものはない
入信し、小林さんは熱心に活動をし始めた。授業がない大学の夏休みには隊を組み、朝から晩までお茶やカードを売って資金集めをした。宗教についての勉強会にも参加し、何年か経つと講義をする機会をもらうようになった。講義をする立場に就くことは、ピラミッド構造の旧統一教会では、「出世するような感覚」だったと話す。「出世」できるかどうかは、勧誘した信者の数で決まる。勧誘活動にも取り組んだが、多くの人がカルトと分かると、小林さんを恨んで辞めていったという。
ーー入信していた当時、旧統一教会の活動に対して疑問や違和感を感じたことはありましたか?
小林さん:それがないんですよね。オウム真理教のメンバーで猛毒で人を殺した「地下鉄サリン事件」があったと思いますが、今から考えると、旧統一教会がオウムでなくて良かったと思っています。逆に言えば、私がオウムに入っていたら同じ間違いをしていたかもしれません。そのくらい「なんでもしないといけない」という気持ちがありました。だからこそ、個人、社会、国を壊す団体であるカルトは、名前を変えても注1解散させなきゃいけないと思っています。
注1:旧統一教会は世界平和統一家庭連合に名称を変更している。
ーーカルトを宗教の一つだと思っている人からすれば、「解散=信仰の自由を奪われている」と感じるかもしれません。カルトと宗教は違うと思いますか?
小林さん:思想が今の社会に対してどのようなアプローチをとるか、という点で宗教とカルトは違うと思います。「救い」をどのように実現するかという点において、カルトは綺麗な言葉を使うけれど、社会、自分自身の生活、周りの人間を壊す方向にいかざるを得ないのです。特定の個人や集団を幸せにするために、個人が捨て石になっていきます。
ーー入信したことにより、家族や友人との関係はどのように変わったのでしょうか?
小林さん:家族関係、友人関係は全て壊れました。そもそも家族関係よりも宗教関係を優先させろ、という教えを受けていたので。寂しさよりも、最終的に家族、世の中を幸せにする道はこれしかないと思っていました。みんなを害そうと思ってやっていたわけでないです。今から思えば、正義ほど怖いものはないと思います。
小林さんの母(87才)にも取材をする機会を得た。当時を振り返り、小林さんの母は「人様に迷惑をかける息子を止めようと、息子と顔を合わせるたびに『やめろ、やめろ』と言い続けました。最終的に、旧統一教会の寮に入ると家を飛び出した息子を家族四人で縄に縛ろうともしました。そんな様子を見ていたご近所の方々からは『あの家はおかしい』とも言われましたが、見栄を捨ててでも息子を取り戻そうと必死でした」と話した。
ーー小林さんから見て、旧統一教会の信者たちに共通する点はありましたか?
小林さん:「こういう人が入りやすい」という共通点はないと思います。ただ、人間は誰しも色々な悩みを抱えています。まさにその苦しんでいる時に、声をかけられるかどうかの違いだと思います。鍵と鍵穴のように、そういう運命の巡り合わせなのかとも思います。でも、その「運命」の確率も、旧統一教会が布教活動を熱心に行なっているかにかかってきます。自民党との関係性が明らかになり、衰退していたと思っていた旧統一教会が、これほどの勢力を持っていたことには驚きました。

誰もが思想を持っている。
ーー最終的には「抜ける」という選択を取られました。それはなぜですか?
小林さん:辞めようと思い始めたのは、30歳過ぎくらいです。思い始めた理由の一つは、これ以上この教えにはついていけないと思ったからです。「お前は教えについてこれていない」「〇〇できないからダメ」と言われ続け、常にお互いを裁き合っている環境が、ものすごくしんどかった。
もう一つの理由としては、課せられるノルマ(新規入会者数)を達成しないと許可を得られないことが沢山ありました。例えば、ある程度頑張っていれば合同結婚式に参加することは許されるのですが、結婚した相手と「結婚生活」を始められるわけではなかったです。合同結婚式から「結婚生活を始めていい」と許しが出るのが、1年後なのか10年後なのか分からない。ノルマが達成できないために、「結婚生活」を許されず、子供を産めなくなっている人もいました。
教え上は正しい生活に絶望感しか感じなくなりました。あったのは「自分達が選ばれた人間」という「選民意識」ですが、それに対しては20代半ばから良い感情を持っていませんでした。
ーー脱会して約30年経った今、旧統一教会に対して後悔や恨みなどの感情はありますか?
小林さん:旧統一教会のせいで、友達もキャリアも時間も失いました。大学卒業後は、研究室に残って研究を続けるつもりでしたが、旧統一教会を理由に断られました。親や友人からは「道を外した」「迷惑をかけた」ともよく言われました。私自身も間違ったことは認めますが、旧統一教会に対して恨みはありません。誰かを恨んでも仕方がないと思います。21歳の自分は、世間知らずだったと思いますが、入信という判断は自分で選んだ過ちだとも思っています。騙されて傷つく人はかわいそうだと思いますが、自分に対してはそうは思っていません。
ーー最後に一言、読者の方々に伝えたいメッセージなどがあればお願いします。
小林さん:誰しもが思想や考えを持っていると思います。自分の持っている思想や考えが、どこからきているのか。それが宗教なのか、メディアなのか、人なのかを時々立ち止まって考えてみることが大切だと思います。
執筆者:佐藤夏美(外部ライター。大学生。興味分野は政治、ジェンダー、メンタルヘルス、人種差別)。
編集者:Yomcott Media編集部