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廃止ではなく、あえて「改革」を選ぶ。成長の通過点としてのコンテスト『水コン』に込められた思い【お茶の水女子大学】

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「『改革』という選択肢を取ることで、ルッキズムやジェンダーを考える場所として、議論の場に水コンがなって欲しいという思いがあります」

【連載第三回】連載「ミス・ミスターコンって何がダメ?もう一度考えてみませんか?」では、昨今のコンテストを巡る議論・懸念点に向き合いながら、大学内におけるコンテストのあり方を一度、考えていく。

水コン2022のファイナリスト。左から、三月しょうさん、飯田チアリさん、坂口真依子さん。
写真=お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム提供

「成長」をコンセプトにしたコンテスト

ルッキズムや男女二元論の観点から、廃止の議論になるミス・ミスターコンテスト。

「廃止」という選択を取る大学もある中、コンテストの在り方を問い直し「改革」を試みる大学もある。コンテストを通じて「性別や容姿に囚われない人間の魅力を発信する機会の提供」を目指す、お茶の水女子大学・水コンもその一つだ。

運営はファイナリストが切磋琢磨する姿をお茶大の学生に見せることで、「行動を起こすきっかけ」「目標を見つけてほしい」と思いをこめる。また、批判・議論の対象となるコンテストの在り方を見つめ直して欲しいという考えだ。

2021年の改革を経て

「女性像やお茶大生像を、出場者にも観覧者にも強制しないコンテスト」を目標として水コン2021。水コン2021終了後のアンケートでは、「新しい水コンがもっと見たい」「コンセプトのおかげで出場せずとも勇気をもらった」など水コン2021を応援する意見が寄せられた。

その一方で、「外見の美しさを努力する姿も見たい」「外見を磨く努力を否定しているのではないか」などの従来のミスコンを求める声や、水コン2021を批判的に見る声も見られたという。

「去年の水コンへの反応を踏まえ、水コン2022の運営メンバーで話し合ったところ、人の魅力の中で外見だけを排除するのは、なんか違うというか...。外見の努力も認めたいという意見が多かったので、外見の努力も成長の中に含めることになりました。」(水コン運営委員会)

「見た目を磨くことも成長の一部である」と考える一方で、「顔を審査基準に入れた」わけではない。あくまでファイナリストの「成長」を可視化するのが、水コン2022が目指すところだ。

水コン2021のファイナリストたち。
写真=お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム提供

ルッキズムの問題、お茶大生票

従来とミスコンと水コン2022の決定的な違いとして、水コン運営委員会はこう話す。

ファイナリストが、容姿に限らない様々な自身の魅力を発信する点です。容姿以外のものが基準となる企画を行ったり、協賛については脱毛など、固定概念に基づく女性らしさを強調するようなものは受けないとしています。また、従来のミスコン・ミスターコンとは異なるものであるということを示すため、ミスコレサイトを通さない独自の運営形態を取っています

※ミスコレサイト:日本全国で開催される大学コンテストを掲載するポータルサイト

また、ファイナリストを選ぶ上で容姿が評価に入らないように、選考における配慮を行っている。応募者全員が記入するエントリーシートでは、顔写真なしの提出を求めた。自由記述に画像・動画を添付することができるが、基本的には運営団体から容姿が分かるものを提出することをお願いすることはない。

主催者によるZoom面接では顔を見せることになるが、それは応募者の喋っている時の表情や、審査員との会話を円滑に進めることが目的だ。ファイナリストは、活動内容の具体性、活動への意欲、成長目標などを審査し決められる。

水コン2022では上記の4種類の投票枠が設けられている。
写真=水コン2022の公式ページより

では、ファイナリストの中からグランプリを選抜する際の過程でルッキズムを排除することはできているのだろうか?グランプリ選抜には投票があり、ファイナリストの活動内容を元に評価するように求めているが、投票するのは学内外の人間だ。

ミスコンと水コンの違いがあいまいな人。ある特定の外見が好きな人も投票に参加している可能性はある。

解決案として、水コン2022運営は「お茶大生票」というシステムを設けた。

「やっぱりミスコンが好きな人、女の子を見たい方々の票も含まれることになりますが、わたしたち(運営)のメインのターゲットはお茶大生なので、水コンでは『お茶大生票』というものを設けております。徽音祭の一週間前からお茶大生限定の投票期間を設け、お茶大生の票の割合を少し大きくすることで、水コン2022本来の趣旨を見失うことのないよう努めております。」(水コン運営委員会)

「廃止」を選ばない理由

水コン2021の委員会メンバーの様子。
写真=お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム提供

「廃止」という選択もある中、昨年に続き「改革」を重ねる水コン。その裏には運営メンバーのどのような思いがあるのだろうか。

広報担当・河内さんは、あえて「改革」を重ねる意義をこう話す。

「私たちが活動していることで、ルッキズムに興味がない人たちにも『ルッキズムという問題があるんだよ』という問題意識を持っていただくのが理由の一つにあります。ルッキズムを考える場所としても水コンは存在していると思っています。」

渉外担当・勝部さんは「廃止することは、言ってしまえば簡単」と指摘する。水コンを見た学内外の人たちによって、様々な意見が生まれること自体に意義があるからだ。

「私は大勢の人の前で顔を見せて活動すること自体がすごく勇気がいることだと思っています。必ず批判であったり評価をされる場に自ら飛び込んでいくということにも意義があるのではないかと思っていて。その姿を見せる機会があることは、すごく重要なことだと思っています。」

水コン2022は、2022年10月31日時点でファイナリストの1人の辞退を受け、3人のファイナリストが活躍している。今年選んだ「改革」はどのような一石をお茶の水女子大学、社会に投じるのだろうかーー。

水コン2021のファイナリストたち。
写真=お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム提供

執筆者:原野百々恵/Momoe Harano
編集者:三井滉大/Kodai Mitsui

インタビューを受けてくれた方:お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム。メンバー=伊藤詩乃(学部3年)、黒瀬愛佳(学部3年)、伊藤映南(学部2年)、勝部李歩子(学部2年)、河内宥菜子(学部2年)、佐伯結香(学部2年)、松本凜杏(学部2年)。


連載メンバーからのコメント

原野百々恵(執筆者):当記事の取材・執筆を通じて、特に印象に残った言葉が二つあります。一つ目は「廃止することは言ってしまえば簡単」という言葉です。毎年改革を重ねていく水コンの姿勢を素晴らしいと思う一方、廃止するという選択を簡単だとも思えません。ミスコンやコンテストという形態を取っているからこそもらえる協賛や繋がるコネクションはあると思います。「長年続く伝統」「楽しみにしていた!」という声もある中、廃止へ持っていくには相当な覚悟が必要なのではないでしょうか。

二つ目は「ルッキズムを考える場所としても水コンは存在している」という言葉です。運営チームの皆様がルッキズムや固定概念に基づいた女性像を問題視し、試行錯誤を重ねている姿勢を取材をする中で強く感じました。事実、協賛相手、ミスコレサイトへの掲載をしない方針、「お茶大生票」というシステムの導入などの形で体現されていると思います。一方で、ファイナリストを選ぶ基準はなぜ公開されていないのか、水コンとミスコンの違いを認知されるために十分な広報がされているのか、という疑問も浮かびました。水コン2022が選んだ「改革」がどのような意見を生み、その意見を受け止めて来年はどの様に変わるのか、今後も注目していきたいと思います。

清水和華子:物議を醸しだす問題になっていることから廃止にした方がいいと安易に考えてしまっていたが、廃止にすることでのデメリットも考慮して最適解を求めようとする姿勢に自分の中での極端な考えを改めさせられた。ある一つが正解なのではなくて、皆で考えることが大切なのだと気づかされた。

三井滉大:ミスコンへの風当たりが強い中、開催形式を工夫している様子が伝わってきた。主催者の「ルッキズムに興味がない人たちにも『ルッキズムという問題があるんだよ』」と伝えるという視点は、従来のミスコンでは見られない考えだと思う。水コンのように、学生自らで考え、答えを出して、開催形式を再考する動きが広がることを祈る。

市川南帆:ミスコン開催の是非が問われる世の中を受け入れ、十分に議論せずに結論を出してしまうことに抵抗する姿勢を感じた。廃止はいつでもできるが、「今」するべきなのか。考えたい。

金井薔那奈:お茶大生全員がミスコンと水コンとの違いを理解し、中身を重視する投票をするかといったらそうでは無いと考えたため、ルッキズム排除の解決案としての「お茶大生票」制度には疑問を覚えた。とはいえ「様々な意見が生まれることに意義がある」というのはその通りなので、お茶大生が水コンを共に創り上げていくという意識の上ではいい制度だと思った。


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