廃止ではなく、あえて「改革」を選ぶ。成長の通過点としてのコンテスト『水コン』に込められた思い【お茶の水女子大学】
「成長」をコンセプトにしたコンテスト
ルッキズムや男女二元論の観点から、廃止の議論になるミス・ミスターコンテスト。
「廃止」という選択を取る大学もある中、コンテストの在り方を問い直し「改革」を試みる大学もある。コンテストを通じて「性別や容姿に囚われない人間の魅力を発信する機会の提供」を目指す、お茶の水女子大学・水コンもその一つだ。
運営はファイナリストが切磋琢磨する姿をお茶大の学生に見せることで、「行動を起こすきっかけ」「目標を見つけてほしい」と思いをこめる。また、批判・議論の対象となるコンテストの在り方を見つめ直して欲しいという考えだ。
2021年の改革を経て
「女性像やお茶大生像を、出場者にも観覧者にも強制しないコンテスト」を目標として水コン2021。水コン2021終了後のアンケートでは、「新しい水コンがもっと見たい」「コンセプトのおかげで出場せずとも勇気をもらった」など水コン2021を応援する意見が寄せられた。
その一方で、「外見の美しさを努力する姿も見たい」「外見を磨く努力を否定しているのではないか」などの従来のミスコンを求める声や、水コン2021を批判的に見る声も見られたという。
「去年の水コンへの反応を踏まえ、水コン2022の運営メンバーで話し合ったところ、人の魅力の中で外見だけを排除するのは、なんか違うというか...。外見の努力も認めたいという意見が多かったので、外見の努力も成長の中に含めることになりました。」(水コン運営委員会)
「見た目を磨くことも成長の一部である」と考える一方で、「顔を審査基準に入れた」わけではない。あくまでファイナリストの「成長」を可視化するのが、水コン2022が目指すところだ。
ルッキズムの問題、お茶大生票
従来とミスコンと水コン2022の決定的な違いとして、水コン運営委員会はこう話す。
「ファイナリストが、容姿に限らない様々な自身の魅力を発信する点です。容姿以外のものが基準となる企画を行ったり、協賛については脱毛など、固定概念に基づく女性らしさを強調するようなものは受けないとしています。また、従来のミスコン・ミスターコンとは異なるものであるということを示すため、ミスコレサイトを通さない独自の運営形態を取っています」
※ミスコレサイト:日本全国で開催される大学コンテストを掲載するポータルサイト
また、ファイナリストを選ぶ上で容姿が評価に入らないように、選考における配慮を行っている。応募者全員が記入するエントリーシートでは、顔写真なしの提出を求めた。自由記述に画像・動画を添付することができるが、基本的には運営団体から容姿が分かるものを提出することをお願いすることはない。
主催者によるZoom面接では顔を見せることになるが、それは応募者の喋っている時の表情や、審査員との会話を円滑に進めることが目的だ。ファイナリストは、活動内容の具体性、活動への意欲、成長目標などを審査し決められる。
では、ファイナリストの中からグランプリを選抜する際の過程でルッキズムを排除することはできているのだろうか?グランプリ選抜には投票があり、ファイナリストの活動内容を元に評価するように求めているが、投票するのは学内外の人間だ。
ミスコンと水コンの違いがあいまいな人。ある特定の外見が好きな人も投票に参加している可能性はある。
解決案として、水コン2022運営は「お茶大生票」というシステムを設けた。
「やっぱりミスコンが好きな人、女の子を見たい方々の票も含まれることになりますが、わたしたち(運営)のメインのターゲットはお茶大生なので、水コンでは『お茶大生票』というものを設けております。徽音祭の一週間前からお茶大生限定の投票期間を設け、お茶大生の票の割合を少し大きくすることで、水コン2022本来の趣旨を見失うことのないよう努めております。」(水コン運営委員会)
「廃止」を選ばない理由
「廃止」という選択もある中、昨年に続き「改革」を重ねる水コン。その裏には運営メンバーのどのような思いがあるのだろうか。
広報担当・河内さんは、あえて「改革」を重ねる意義をこう話す。
「私たちが活動していることで、ルッキズムに興味がない人たちにも『ルッキズムという問題があるんだよ』という問題意識を持っていただくのが理由の一つにあります。ルッキズムを考える場所としても水コンは存在していると思っています。」
渉外担当・勝部さんは「廃止することは、言ってしまえば簡単」と指摘する。水コンを見た学内外の人たちによって、様々な意見が生まれること自体に意義があるからだ。
「私は大勢の人の前で顔を見せて活動すること自体がすごく勇気がいることだと思っています。必ず批判であったり評価をされる場に自ら飛び込んでいくということにも意義があるのではないかと思っていて。その姿を見せる機会があることは、すごく重要なことだと思っています。」
水コン2022は、2022年10月31日時点でファイナリストの1人の辞退を受け、3人のファイナリストが活躍している。今年選んだ「改革」はどのような一石をお茶の水女子大学、社会に投じるのだろうかーー。
執筆者:原野百々恵/Momoe Harano
編集者:三井滉大/Kodai Mitsui
インタビューを受けてくれた方:お茶の水女子大学徽音祭実行委員水コン運営チーム。メンバー=伊藤詩乃(学部3年)、黒瀬愛佳(学部3年)、伊藤映南(学部2年)、勝部李歩子(学部2年)、河内宥菜子(学部2年)、佐伯結香(学部2年)、松本凜杏(学部2年)。