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新東京ビル/アーティストインタビュー(石原 梓)

こんにちは!YOMAFIG.です。

新東京ビルオフィスフロアにおいては、誰もが気軽にアートを楽しめる空間として、2024年5月にリニューアルがなされました。
アートに関心はあったけれど、あまり触れる機会のなかった方もより一層アート鑑賞をお楽しみいただけるよう、館内のアートをご制作くださったアーティストご本人に作品の見どころやアートの楽しみ方を伺ってみました!

石原 梓
1989年 大阪生まれ。2012年 京都精華大学芸術学部造形学科洋画専攻卒。
川や池、お風呂などの身近な水辺の風景を習慣的にスケッチし、それをもとに個人的な経験に基づいた作品を制作。空と水の色を写したムラなく透明感あるグラデーションを特徴とし、作品シリーズごとにマーブル、デカルコマニー等、多様な手法を取り入れる。

ー新東京ビルにかけられている作品について、どのような作品なのか教えてください!

今回二つの作品シリーズを展示させていただいております。
一つ目、スクエアのキャンバスの「White black and gray」は、滋賀県の琵琶湖と東京都の不忍の池から色とモチーフを得て描きました。

White black and gray

琵琶湖で空と湖面の境目がなくなる景色を見て癒された経験があり、こんな絵が描きたいなと思ったのが描き始めたきっかけです。
扱っているモチーフは水たまりと蓮。色は空と雲の色です。水たまりは沢山の人や物や動物が砂を削ったり押し込んだりしてできたもので、歩きやすい場所や、鉄棒やブランコの下には大きな水たまりができます。沢山の物がその場所を通ったけれど、個人や一つ一つが特定できない感じが、当時の自分の思いと重なってこの作品は生まれました。

また、画面の上下に伸びる白黒の植物は不忍の池の枯れ蓮のトレースで、デカルコマニー(紙と紙の間に絵の具を挟み、再び開いて作る合わせ絵)で制作しています。この水たまりを構成する一つのシンボルとして画面に印しました。「自分はここにいるよ」って言いたかったのかもしれません。当時はさみしかったしね。

二つ目の「知っているのに触れたことのないものへ」は、それぞれのものがそれぞれのスピードで出会ったり、出会わなかったりしている絵を描きました。

知っているのに触れたことのないものへ
知っているのに触れたことのないものへ


水の上に浮かんでいるチリのようなものが流れに身を任せている様子です。真ん中に浮かぶ線で表された形も、そのチリの中の一つです。
これは、お風呂に入っている時の自分のお腹や太ももだけを水面に出したりしてスケッチした形を抽象的にしたものです。絵の色は空と雲の色です。画面の上の小石のような小さな粒は、川に流れ着いたものや沼に浮かぶ葉っぱ、雲の色を参考にしてマーブル状にして散りばめました。

石原さんの作品には地平線があり、奥・手前のレイヤー構造がはっきりしていて、時が停止しているような、その地平線が無限に続くような、時間と空間の悠久さに癒されるような感覚になります。
いろんな作品シリーズをもつ石原さんですが、この地平線や時間の経過に関する思想は全作品に共通しているようですね。

YOMAFIG.

ー作品をどのように眺め、どのように楽しめば良いでしょうか

「眺めたい時に眺めて下さい」というと、ぶっきらぼうに聞こえるかもしれませんが、休みたい人には休んでほしいし、仕事を頑張りたい人には「頑張って!」と応援したいと思っています。

私の作品は水辺の風景と密接に繋がっていて、小さな時からよく淀川の堤防で遊んでおりました。スケッチを描き出したのは大学生くらいからです。水辺が自分にとって一人になれる場所、ボーっとできる場所で、そこが自分の絵が描きやすい場所になっていきました。

私の作品の特徴でもあるグラデーションは、刷毛で何度も画面を撫でることによって描かれています。そして、何度でも描きなおしができる加工を画面に施して像を浮かび上がらせています。一発で描くには私の手は不器用なので、同じ画面上で何回も描きなおしながら良い線を残しています。つまり上手に描けなくても描ける手法で描いています。この方法は手を故障したときに生まれました。自分はビジネスのことは詳しくありませんが、きっと皆さんの仕事もそうじゃないかなと思います。多分。

私が水辺でぼーっとしているときはほとんど何も考えていなくて良い幸せな時間を過ごせているのではないかと考えています。そして、逆説的ではありますが、その時間をアートで作ろうとしているのかもしれません。
目の疲れている時は、目のピントを合わせなくていい。私が空と湖面の境界がなくなる風景を見て癒されたように、「見る」というより「遠くを眺める」ような感覚で味わっていただけるといいかなと思います。

「一人になれる環境を作る」「得意でなくてもできる方法がある」「一見不運な出来事から打開策が生まれる」というのは、アートにもビジネスにも大切な気づきなのかもしれません。
これまでは水辺にスケッチに出かけていた石原さんですが、最近は山へもスケッチに出かけているそう。新しい作品の展開がとても楽しみですね!

YOMAFIG.

ーすこしアートに興味が出てきたけれど、どこで作品を見たり買ったりすれば良いかわからない…そんな方におすすめのアートの楽しみ方やアドバイスがあれば教えてください!

最寄りの美術館を検索することをおすすめします。実際に行ってみるのもいいかもしれません。あとはギャラリーに行ってみてください。でも、ギャラリーはちょっと入りにくいと言う人が多いのでやっぱりまずは美術館をおすすめします。

美術館は様々なジャンルのアートを展示しており、また何かに特化している美術館もあります。もしそこで心に残る体験ができたら、ミュージアムショップでその展覧会の画集があるかもしれないので探してみてください。その画集にいろいろと書いてありますので、作家名などを検索してみてください。その作家を扱っているギャラリーを見つけて、もしその時にその作家の個展が足を運べる場所で開催されていたらラッキーですから、行ってみてください。そこではきっと作品を購入することができます。

美術館以外でも実は、作品はいろいろな場所に飾られています。飲食店等、何気なく飾られているものたちをよく見てみてください。あなた自身の趣味趣向がどんどん枝分かれしていって、大きな区分に過ぎなかったアートがあなた自身のかけがえのないものとつながる時が来るかもしれません。興味が持てたらその先に歩みをすすめてください。持てなかったら別のことを試してみてください。

美術館を巡っていくうちに、自分の中の漠然とした括りだった「アート」が自分の好みや経験に合わせて細分化され、解像度が上がっていく。そんな体験自体もアート鑑賞の一つの楽しみですね。

石原梓さん、ありがとうございました!

YOMAFIG.


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