新東京ビル/アーティストインタビュー(野田ジャスミン)
こんにちは!YOMAFIG.です。
新東京ビルオフィスフロアにおいては、誰もが気軽にアートを楽しめる空間として、2024年5月にリニューアルがなされました。
アートに関心はあったけれど、あまり触れる機会のなかった方もより一層アート鑑賞をお楽しみいただけるよう、館内のアートをご制作くださったアーティストご本人に作品の見どころやアートの楽しみ方を伺ってみました!
ー新東京ビルにかけられている作品について、どのような作品なのか教えてください!
私は、主に陶芸作品を制作しているのですが、この作品は唯一の陶芸素材ではない平面の作品(シリーズ:emboss 2018~)になっています。普段扱う陶芸は何百何千年と残る可能性を持っていますが、今回制作した楮紙(※こうぞし:和紙の中でも繊維が粗く強度の高い紙。ふんわりとした厚みと空気含みがあります)の作品は、それに対比して作品そのものが希薄で、年月の中で薄れてしまう危うさを持っています。
私は、そんな儚さをもつ平面作品を通して、記憶の中にある希薄なイメージやそれらが消えゆくこと、忘れられていくことを共通のテーマにして制作をしています。
展示場所がオフィスビルである新東京ビルと聞き、通路を行き交う人(ビジネスパーソン)や時間(ライフワーク)から「珈琲」が思い浮かびました。
珈琲を飲むという営みは、朝の一時や休憩時間など悠々とした時間であるにも関わらず、振り返るとほとんど記憶に残らない点が 膨張した後に収縮する宇宙とも似た”時間拡張的”な存在だと考えており、今回はその“時間拡張的”な珈琲をモチーフに取り上げ、忙しない時間の中でも微かに累積される記憶(印象)にリンクできないかと考えました。
この作品では厚みのある楮紙に珈琲の枝葉のシルエットのエンボス加工を施し、その上から珈琲の花や蕾、実の部分を絵の具ではなく実際に抽出した珈琲で着彩しています。エンボスで生まれる凹凸の陰影を用いた断続的な表現を取り入れており、エンボス部分は「いつか消えていくもの」を、珈琲で着彩した花や実の部分は「わずかに残る」ものを象徴しています。
この作品に限らず、作品は一定の場所で長く飾ることで、次第に記憶の中で当たり前になり、そこにあるにも関わらず見えなくなっていく現象があると私は考えています。そうした、認知が薄れることや、忘れられること、非日常が日常の一部になっていくことを考え、ふとした時にもう一度認識する。多くの作品が展示されているからこそ、私は存在が不確かな作品の有り様を選び、制作しました。
タイトルの「emboss / the morning #1」は、繰り返し過ぎ去ってしまう一日の始まりを意味しています。一度で終わらず、何度も作品と出会い直せるようなそんな営みが生まれることを期待しています。
ー作品をどのように眺め、どのように楽しめば良いでしょうか
鑑賞されなくなっていくことを想定した作品になったので、直接眺め続けることよりも、作品と対面してから、通路を通り過ぎながら目的地に到着するまでの間の頭の中で鑑賞してもらうような、別の部屋でコップ底の結露が机に残っているのをみてそこに珈琲を飲む時間があったこと思い出すようなそんな作品になったらいいなと思っています。
過ぎていくその瞬間が別のところで概念的に繋がっているのかもしれないと感じてもらえたら嬉しいです。
ーすこしアートに興味が出てきたけれど、どこで作品を見たり買ったりすれば良いかわからない…そんな方におすすめのアートの楽しみ方やアドバイスがあれば教えてください!
私はアニメや映画、ポップカルチャーが好きです。どこかで芸術作品はそういったエンタメ作品とは違うような認識になってしまいますが、結構地続きなのではないかと最近は考えています。
一人で楽しむのもいいですが、映画を見た後に誰かとその内容について話したり、YouTubeで解説動画や考察動画を見たり、そういう時間の中でゆっくりと咀嚼して自分の経験になっていくような感覚があります。
ここ数年は、特に鑑賞者が勝手に深ぼっていける作品が好きで、それをゆっくりと紐解いていくのもとても楽しいです。苦手だと感じていたこととかをなぜ苦手なのか考えたりするのもとても面白くて、そうやって得た気づきが、いつの間にか自分のスキルになっていくのがわかって積み重ねていくだけが成長や努力じゃないんだなあ、と感じています。
芸術って楽しみ方(楽しませ方しかり)をまだ出し尽くされていない気がしていて、それを見つけたり生み出したりするのが実は一番楽しかったりします。