見立ての楽しさ、世界を解釈する楽しさをボックスアートを通じて味わってもらいたい
(撮影:藤村健一郎(gallery colb))
今回は個展「点在する旅の長い話」(期間:2018年7月30日(月)~8月4日(土)、場所:ギャラリー椿)を開催中の、若手作家・渡邊のり子氏を紹介します。インテリアにも映えそうなボックスアートを、これまで300点以上手がけています。サイズは掌にも乗りそうな約5cm四方のサイズ。
渡邊のり子氏に制作活動をはじめたきっかけや今後の挑戦についてお話をうかがいました。
空想を膨らませるトリガーになるようなアートを目指す
──作品について教えてください
渡邊のり子です。箱と小物をアッサンブラージュ(立体コラージュ:Assemblage)した作品を制作しています。ボックスアートと呼んだ方が馴染みがあるかもしれません。
好きな作家はジョゼフ・コーネル(アメリカ、1903~1972年)、ロベール・クートラス(フランス、1930〜85年)などです。
1988年千葉県柏市にうまれる。筑波大学芸術専門学群総合造形領域 卒業(撮影:藤村健一郎)
このジャンルの有名な作家にジョぜフ・コーネルがいます。
■ジョゼフ・コーネル(アメリカ、1903〜72年)
□アッサンブラージュの先駆者
□古く美しいものを採取し、箱の中に計算によらない配置をした。その作品は静謐でノスタルジックな味わいがある
アッサンブラージュという言葉は世間で馴染みがないようなので、自分の作品を説明するときはボックスアートという言葉を使うようにしています。
「ボックスアート」というと、プラモデルの箱絵を浮かべる人が多いようです。私は立体ミニチュアを使い空想世界に旅立っていけるような作品をつくっています。
左作品:2012年「誕生日のあとの森(forest after birthday)」 右作品:2014年「カプセルコテージ(capsule cottage)」
私の作品は3つの要素で構成されています。1つは箱、2つ目は小物、3つ目はタイトル。この3つで見た人の空想を膨らませるトリガーになることを目指しています。
たとえば朝昼晩どの時間帯かしら、宇宙のどこかしら、どんな星なのかしらと解釈できることが自分の作品の楽しさだと思うんです。空想を膨らませる楽しさを作品を通じて人に提供したいです。
作品を見た方から、箱のサイズと材質について質問されることが多いですね。
サイズは箱と小物の収まりの良さ、そして自分との相性を追求した結果、いまの大きさ(W60mm*D55mm*H50mm)にたどり着きました。額装は白塗りの木を使うことが多いです。中身があってのラッピングです。額装と小物のバランスをとるよう心がけています。
渡邊の作品は月刊cocoro(ウェルリンク株式会社発行)の表紙に起用されている。毎号季節を象徴する作品を提供する。2018年7月号は七夕を意識し、「天の川の上(over the milky way)」と題した作品を提供した。まるで夜更けの風が吹いているように見える。
小物は生活の近くにあるものを使います。箱の中で小物同士がひびきあい、本来の役割以外の意味を持つのが面白いと思うんです。これは子どもの頃のミニチュア遊びでつちかった感覚だと思います。例えばネジ。ネジは物を留めるものですが、私の作品では木に見立てることがあります。そういう見立ての楽しさ、世界を解釈する楽しさを味わってもらいたいですね。
Keita Kawabata(作曲・編曲・ピアノ演奏者)のCDジャケットへ作品提供・ジャケットデザインを行った。テーマは夜明け。待ち針とネジがまるで街灯や電信柱、木のように見える
タイトルの付け方にルールは2つあります。1つは私の答えを全部出しすぎないこと。伝えたいことの50%程度を表現するようにしています。
もう1つが言葉選び。選び方は演劇の影響があります。演劇は大学1年生からはじめ2018年までの11年間、舞台美術をメインに関わりました。私にとって演劇は台本を立体におこす作業。ボックスアートの制作に近いものがあります。台本の言葉は背景の広がりがあります。解釈の余地が魅力だと思うんです。登場人物が1つのセリフを話せば、なぜそう話すことになったのか、誰に伝えたのか、どこで言ったのかと、考えを広げる材料がたくさんある。だから、作品のタイトルを付ける際も1つの言葉にたくさんの解釈ができるよう心がけています。
限られた空間に世界を表現する方法に可能性を感じた
──作品づくりが始まったきっかけと、いまのスタイルになるまでを教えてください
今のスタイルで作品をつくることに目覚めたのは大学2年生のとき。ジョセフ・コーネルの作品を知ったときでした。
それまでは美術鑑賞をしても「可愛い」「キレイ」「いいなあ」と思い浮かぶまででした。
ジョゼフ・コーネルの作品はそこから踏み込んで、何が良いのか自分の中で腑に落ちる感がありました。さらに、彼の作品を見てこんな作り方があるんだ!と思ったんです。私には2つ衝撃がはしりました。1つは物を箱に入れる当たり前の行為も作品になりうること。2つ目は意味があると作品といえること。そうして限られた空間で世界を表現する方法に可能性を感じたんです。
それ以降、自分でもボックスアート作りを行うようになりました。
箱の材質ひとつとっても、木、金属、紙、お菓子のパッケージ、と試す材料はたくさんあります。大学時代に試行錯誤し、いまのスタイルに落ち着きました。
幼少期に遊びの中で空間デザインの楽しさと見立ての面白さを知った
思い返すと、子どもの頃から小さな空間に世界をつくることを続けています。
覚えているのは幼稚園児の頃。
お絵かきで小さな世界を描いていました。枠の中に何があるか考えるのが好きで、たとえば家やキャンピングカーの荷台に何を置くか想像し、画用紙や牛乳パックに描くんです。
もう少し大きくなると立体で遊ぶようになりました。今でも覚えている当時好きだった遊びが2つあります。
1つはシルバニアファミリーで遊ぶこと。シルバニアファミリーといえば一般的にままごと用の玩具ですが、私はままごとはしません。
遊びのメインは人形の家の中の家具配置。人形がどんな家に住みたいのか(自宅、別荘、実家、お城......etc.)そのためにはどんな雰囲気と家具が良いのかを考えながら配置します。シルバニアファミリーは私だけのオリジナルの家=空間を作る楽しさを教えてくれました。シルバニアファミリーではほかにも、家具を電車や乗り物に見立て、人形を載せる場所と荷物を載せる場所を決めていく遊びも楽しかったですね。幼稚園児〜小学校高学年まで長く遊びました。
もう1つの遊びは、段ボールで自分だけの特別な空間を作ること。この遊びをしていたのは小学校1年生〜3年生の頃です。
私の実家は農家。出荷用の段ボールがたくさんありました。段ボールを棚のように並べ自分専用の空間を作り、どこに何をディスプレイするか想像することが遊びでした。
高校生になり進路を考える時期には「空間デザインの世界にいきたい」と思うように。筑波大学芸術専門学群で美術を学ぶ道へ進みました。
連作づくりに挑戦。テーマは「旅」
──今回の個展のテーマと今後の目標を教えてください
今回の個展では2010年〜最近の作品を13点展示します。新しく挑戦したのは連作。テーマは「旅」です。どこの世界を旅しているか、何と出会ってどんな物語があったか想像してほしいです。
今後は、飾る部屋にも影響を与えられる作品を目指したい
これからの作品づくりで試したいことは2つ。1つはいろいろな展示スペースを試すこと、もう1つは作品のテイストを増やすこと。
これまで300点以上の作品をつくってきました。これだけ作品をつくると、ひとつひとつへの愛情の濃淡があります。
制作中は気づかないのですが、展示用や雑誌用にセレクトしているとどうも選ばない作品もあります。そういう作品はつくって満足してしまったものです。世間に見せられるもの・商用に耐えうるものと、自己満足で終わってしまう作品には違いがあります。その違いは構成できる世界の広さだと考えています。自己満足の作品は、ボックスアートの世界が安直で解釈を拡げる楽しさがありません。
今後はボックスアートで表現できる空想の楽しさを保ちつつ、箱をこえて飾られる部屋にも影響を与えられるような作品にしたい。持ち主の部屋に飾られてどう見えるのかをもっと意識しようと考えています。
いまの作品はエイジングをかけた表現にしていますが、それ以外にも魅力的にみせる方法はあると思います。たとえば蛍光色を使うこと、額装に水玉・ストライプなどのポップな要素を入れることを考えています。展示スペースも制約を設けたり、逆に大きな部屋を使ったりし、作品がどのように見えているのかどのように見せることができるのか実験したいと考えています。
2014年の作品。友人へ贈った結婚を祝うボックスアート。青いアンティークのドアノブを家に見立てたと言う
企画・執筆:村山早央里(ライター)(2018/07/30)