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プロシオン ~お気に入りの万年筆を語る

はじめて万年筆を使ったのが2023年11月の頭。
そしてプロシオンを使い始めたのは2024年1月1日。

プロシオンは、万年筆歴2か月目に使い始めたものだ。
それも、12月に購入し、1月から使い始めようと決めて大切に保管してあった。
万年筆デビューをしようと決めてから一人で繰り広げた擦った揉んだは以下の記事に書き綴らせて頂いている。

こうしてデビュー万年筆をやっとの思いで決定し入手。それはそれは楽しく万年筆生活を開始したわけなのだが、それと同時に今度は、自分が万年筆に慣れて来たら使い始めたい相棒探しの旅が始まってしまったのだ。

筆記体験に関する拘りを見つめなおす

拘りがある、と気づくことができるのは本当に好きなものに出会ったときだと思う。
これは、比較的最近気づいたことなのだが、どうやら私はジェットストリームが苦手だ。

だが、ずっと使っていた。
インクがすぐに掠れる昔のボールペンしか知らなかった頃、彗星の如く現れたのがジェットストリームだった。

ものすごい圧力でインクを押し出す、するするとした滑らかな書き心地……!これは革命だった。ボールペンといえば、消えないのはいいが、謎に掠れてそのへんの空きスペースでグルグルやるのが当たり前だった。

ジェットストリームは、そんなストレスから解放してくれた特別な存在だった。

それからというもの、特別新しいものを求めることなく使っていた。その自覚すらないままに、だ。

だがあるとき、文具店でボールペンを片っ端から試し書きして順位を投票するというボールペン人気投票企画をやっていたことがあり、各社自慢のシリーズを実際に書きまくった。

そして気づいた。私の中でジェットストリームはナンバーワンでは、ない。

ちなみに今の私が選ぶ、ボールペンのナンバーワンは、ユニボールワンのシリーズだ。これには三菱鉛筆さんに完敗と言わざるを得ない。ジェットストリームもユニボールワンも、三菱鉛筆の商品だからだ。

ジェットストリームを選ばない人間の好みはこの辺りだろう、というのを完璧に把握しているらしい。インクは潤沢に出るが決して滑りすぎず、紙にのっている感じがある。とにかくガリガリ引っ掛かればいいと言っているわけではないので、ここの塩梅は非常に難しいところだろう。

好みというか派閥というか

以上のことから、少なからず『書き心地』というものには派閥がある。そして、どうやら私は書きごたえ重視派だ。

万年筆の書き心地にも種類がある。
よく言われるのが『ぬらぬら』だとか『さりさり』だとかいうやつだ。

日本人は擬音が得意なので、これだけで何となく感覚を共有できてしまうのがすごいところなのだが、あえてもう少し細かく表現するなら

『ぬらぬら』は
インクがもっと潤沢に出るようになったジェットストリームの感覚に近い。必然的に『さりさり』系よりも字幅は太めになる。

『さりさり』は
よく尖らせたBくらいの鉛筆に近い。インクの出方は必要十分程度に抑えられており、細めの字幅になる。

飽くまでもこれは感覚の話なので、この表現に対して違和感を感じる方もいることだろうが、私の中での感覚はおおむね以上のようなものとなる。そして、私は後者の書き心地を推していることがおわかりいただけるだろう。

好みを反映してくれるメーカー

さて、私は相棒を日本製の万年筆にするつもりでいたので、この段階でメーカーは「PLATINUM」でほぼ決定だった。

共通認識かどうかは分からないが、サリサリとした紙の感触を楽しむことができる調整をしているのはPLATINUMだ、と評価している人が複数いたからだ。

ただ、すぐに決断することができなかった。何故なら万年筆界に踏みいって間もない頃の私は、PLATINUMというメーカーのことをほぼ知らなかったからだ。サイトを見る限り、筆記具玄人の人達が手にする高級文具メーカーという風に感じられた。

実際のPLATINUMは、最も安価な万年筆を販売しているメーカーでもあったのだが……。

そうとも知らず、安価でカッコいいデザインの万年筆「Cocoon」が有名なメーカーであるPILOTから出ていることに目を奪われていた。

価格で並べるならPLATINUMのプレジール対PILOTのCocoonだった。シンプルに値段だけで見ればプレジールのほうが安価だったがデザインは圧倒的にCocoonが好きだった。

なめらかな流線型のフォルム。安心のブランド力。しかも2000円程度という低価格で、より安価なプレジールと比べても1000円しか違いがない。

デザインに1000円なら払える。
全然払える。
愛用していくもののデザインはめちゃくちゃ大事だ。

『PILOT』or『PLATINUM』

安価でデザインも最高なら、PILOTのcocoonに決めてしまってもいいのではないか。

私の中で、そんな結論がチラつく。
だが、いや、まて。本当にそれでいいのか?相棒だぞ。

……余談だが、この段階の私は、それ以降は特に万年筆を買うつもりがなかった。
今の私が、当時の私にアドバイスするなら、

どっちも買えば?安いし。

だろう。
悩みに悩んだ末、結局PLATINUMを選ぶことにした。

自分のことは自分が一番分かってるじゃないか。
私自身、かなり癖が強い人間で「皆そう言ってる」とか「皆好き」みたいなのは全然ハマらないことが多い。ふーーん。で??だ。
きっつ、この人。と思われてるんだろうなと思いながら、いちいちそんなことを気にしていられない。

そう考えた時に、PILOTはあえて表現するなら「みんな好きなやつ」なのだ。

え?PILOTでぃすってます??って言われそうなので弁解しておくと、PILOTの万年筆も使っているし別にディスるほどの悪い感情もない。
何なら大幅値上げ前にキャップレスも買っておいたくらいには普通に信頼している。

例えるなら。
PILOTはデキる仕事人間のようなイメージだ。

真面目で、頭が良く運動もできる。性格も良ければ顔もいい。安心して一緒に仕事ができる。この人と一緒に仕事をしたくない人なんていないだろう。ましてや嫌いということは、本当に滅多にないはずだ。

そして、中にはそんな人とこそパートナーになりたいと思う人もいるんじゃないだろうか。PILOTの万年筆を推す人はそういう人達なんじゃないかと私は勝手に思っている。

私も、PILOTさんの万年筆がペン立てにあれば安心だ。ただ、推すにはクセが足りない。本当はすごい良いやつなのに言動で損しちゃうんだよなー、みたいな……私はそういうのがいいのである。

そういうわけで、一種の癖を求めた結果、期待を込めてのPLATINUMだ。

手元が滑りすぎない、書いている感のあるシャラシャラとした書き心地。持ってみる前では想像するしかなかったが、紹介していたその方の表現だけでめちゃくちゃ期待値が上がっていた。

よし……プロシオンにしよう。
値段で言えばプレジールの方がお手軽だけど、ちゃんと思い切ろう。ビビるな私……!プロシオンの方がデザインがカッコいいし星の名を冠しているところも素敵じゃないか。そういう思い入れの部分、愛用していくには大事な要素だ。

そうしてプロシオンは私のもとへやってきた。自分が万年筆の扱いに慣れてくる年明けに解禁すると決めてそっとドレッサーの奥に封印した。
今から思えば、1万円しない万年筆に対してかけるにしては期待が重かったなと思う。だがそのときの私にとってはなかなか思い切った高額なお買い物だったのだ。

結局フライング開封

で、実は白状してしまうと、年明けを待ちきれず大晦日、寝る前のリラックスタイムですこーし試し書きをして、それはもうとんでもなく心地の良い書き心地にため息をついたりしていた。

この日のために、色々な安い万年筆で手を慣らしてきたわけなのだが、それが故なのか何なのか、段違いに良かったのだ。

こちらで何か考えるまでもなくするっと素直に出てくれるインク。私好みの、無駄にジャバジャバ出ることのない程よく絞られたインク量がしゃらりと紙にのっていく感触。しゅるしゅる、という耳に心地の良い筆記音。

もちろん、それまで使っていたものが数百円~2000円くらいまでの品物だったことを思えば突然倍以上の価格帯のものになったわけなので、そもそものランクが違うのは間違いない。

しかし、この瞬間の感動で私は間違いなく万年筆の沼にハマったと言える。今までだって別に不満があったわけではない。

だというのに、こんなに違う!あまりにも違う!

好みの書き心地だとかなんだとかいうどころではない。
その感触を味わうために何でもいいから書きたいと思う。
使うために書きたい。
こんなことを思ったのは初めてだった。

想像しようのなかった未来

そうして出会った相棒。
これで私の万年筆探しの旅は終わるはずだった。

だが先ほども書いた通り、私はこれで万年筆の沼に落ちたのだ。
この6000円の万年筆で最高の体験を得た。
先人の話によれば、高ければいいというわけではなく逆に何万もするものを使っても、安い万年筆の方が好きということはあるとは聞いていた。

だがしかし。
そうは言っても自分で体験してみなければ分からないではないか。
6000円は高い買い物ではあったが、別にそれ以上が絶対に出せないわけではない。

さてそんなことを考え始めた私は、それからも引き続き各社が繰り出して来る新作万年筆を眺める日々を続けることになるのだった。

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