白熊ぽん 掌編小説2編
moeさんが私の俳句を素敵な物語に組み込んでくださいました。
私も、なんとか作ってみました。独立した思いのこもった俳句を、あえて同じストーリーに落とし込みました。
riraさん、moeさん、素敵な俳句をお借りし、ありがとうございました。
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riraさんの俳句三句から着想を得て
忘れられない、貴方との日々。優しくて、不器用で、真っ直ぐな貴方。病めるときも健やかなるときも、傍らに貴方がいた。ぼろぼろの私を救おうと、貴方は手を尽くしてくれた。ただ私が答えられなかっただけ。
「大丈夫。」
もう、大丈夫。これ以上縛りたくない。精一杯の強がりで、貴方を解放した。貴方はきっと、すべてわかった上で、私のために去っていったの。
私はまだ、元通りにはなれない。きっと、もう元通りにはならない。それでも、窓から差し込む暖かな光を浴びながら、渡すはずだったマフラーを、今日も編む。貴方への思いを込めて、一編み一編み編んでいく。貴方との思い出が、私を生かしてくれている。貴方が好きでいてくれた私を、少しずつ取り戻したい。ああ、貴方、どうか、お幸せに。
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moeさんの俳句三句から着想を得て
時雨だった天気は、深夜に雪に変わり、明け方には積もっていた。甘い優しい匂いが、まだ部屋に満ちている。包み込むようなその煮豆の匂いが、寒さを和らげてくれる。昨晩何度か茹でこぼして、コトコトとやわらかくなるまで煮た豆を、マフィン型に入れた生地に埋めていく。オーブンでむくむくと膨らんで、バターのいい香りが室内に広がる。紅茶を用意していると、インターフォンが鳴った。
「辺り一面雪景色だったよ。」
「寒かったでしょう。さあ、上がって。」
「んー、いい匂いがする。」
「ふふ、手洗いうがいしてきてね。」
室内に戻ると、焼けましたよ、とオーブンの音が鳴る。ミトンをはめて扉を開けると、おいしそうなマフィンが顔を覗かせた。少し洒落たケーキ皿に乗せ、煮詰めた蜜をかける。フォークとカップとソーサーを、部屋に入ってきた彼と机に並べて紅茶を注ぐ。
「いただきます。」
「はいどうぞ。」
ドキドキしながら見つめる。
「んー、おいしい!」
「よかった。」
私もぱくり。うん、おいしい。煮豆がほくほくで、煮詰めた蜜が優しい甘さ。マフィンによく合う。
「見てー!雪だるまできたよー!」
外から幼子の声が響く。窓越しに、弾けんばかりの笑顔が輝く。あの子の目線の先にいるのは、慈愛に満ちた微笑みを湛えた両親か。
彼と見つめ合う。お互いに笑って、またマフィンを頬張る。いつか私たちにも、あんな日が来るのだろうか。彼を少しでも引き留めておきたくて、紅茶のおかわりを淹れるのだった。
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