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錦織くんに学ぶ、新事業を生み出す組織に必要なものは「抜け感」ではないか説

仕事柄、新しい事業を生み出す条件や方法論を考えることが多い。

リクルートやサイバーエージェントに代表されるような「あそこは事業創造のDNAがあるよね」という会社の取り組みに注目したり、フジフィルムのように事業転換を図った企業の裏側を調べたりもしている。

もちろんそこから学ぶことはたくさんたくさんあるが、実質的には、「新規事業を生み出せる組織を創りたい」という段階において、事業創造がうまく行っている会社の取り組みをまねてもうまくいかない。

なぜなら、土壌が違うからである。


この土壌というのは目にみえないけれど、めちゃくちゃ大きな影響を持つ。


例えば、社員は新しい事業を創る、ということに積極的かどうか。

挑戦することに没頭し、それが喜びだというパラダイムがあるかどうか。

成功する保障のない新規事業の取り組みを、「まあやってみようよ」と言えるかどうか。

「それって儲かるの?」という誰にもわかるはずのない問いを投げるのではなく、「それで喜ぶ人がいるの?」と核心をついた対話ができるかどうか。


そうした土壌があるから、前述の取り組みは機能するわけであって、土壌づくりをすっ飛ばして取り組みだけを持ってきても機能するわけがないのは明白である。


では、事業を生み出すために適した土壌とはどのようなものなのか。


こんなことを考えていたときに、DeNAの南場さんが4年前に書いた記事を目にした。

【『日経ビジネスアソシエ』 2016年1月号に掲載】


ご自身のパートナーを早くに見送った経験から、自ら手掛けた遺伝子検査サービス「MYCODE」の立ち上げの”すったもんだ”を描いたという日経ビジネスアソシエの連載にこんな記載がある。



※以下抜粋)結局、人も運も暗より明へ、寒より暖へ集まるのだと思います。世の中には優秀な人はたくさんいるけれど、大きなうねりを作り出せる人は、優秀なだけでなく、人柄に大きさやおかしみがあるのではないでしょうか。
 私はいろいろなアスリートのファンですが、その中でも錦織圭くんに格別な魅力を感じるのは、まさにそのポイントです。もちろんテニスの才能は世界一だと思うし、ストイックに鍛錬を重ねているはずです。コートで見せる鋭い視線や、形勢を立て直す際のセルフコントロール力など、本当に神々しい。しかしほかの選手にない錦織選手の魅力は、インタビューや特集番組で垣間見ることができる、あの自然な抜け感ではないでしょうか。(中略)オンとオフのギャップが良いと表現する人もいますが、とにかく人柄に幅を感じさせます。全人格がストイックで固まっているようなアスリートが多い中、特別に人を惹き付ける天賦の何かがありますね。(抜粋終わり)

この、「自然な抜け感」という言葉は、確かに錦織選手の魅力を表しているな、と思った。

勝利を目指してすべての日常を競技に捧げる選手とは違う、錦織選手には良い意味での遊びがあり、息苦しさがない。

「抜け感」と表現されたそれが、人を惹きつけるだけではなく、彼のしなやかな強さを創ったのだろう、と同時に思った。


新事業を生み出す組織に必要なものは、「抜け感」ではないか。

よく、新事業の兆しのかけらもないことを嘆く会社に出会う。それらの会社には特徴がある。

・既存事業での圧倒的な成功体験。

・大きいこと、速いこと、正確なことに強いコミットメントがある組織風土。

・問題解決に本当に熱心で、最短距離でゴールにたどり着くことを良しとする。

・効果効率、生産性を高めることに知恵を絞る。

・ひとりひとりの業務時間で何を成し遂げるのかが明確で、その範囲の中で優秀な社員による創意工夫がなされる。


もちろんこうした会社が悪いわけではない。とっても強くて、機動力のある組織で、きっと素晴らしい顧客貢献をしているはずだ。


ただ、新事業は生まれてきにくい。


びしっとコンクリートを敷き詰めた地面から、色とりどりの花が咲かないように、新しい息吹が噴き出る余地がないのだ。

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新事業を生み出す組織に必要なもの、それは「抜け感」ではないか。


設計されすぎた・管理されすぎた組織からは新事業は生まれない。(だからか、michinaruには日本的大企業からのご相談が多い。)

遊びや余白を残すことで、新事業が生まれてくる隙間をつくることが必要なのだ。


抜け感があると、組織は以下のようになっていく。


●安心して失敗できる心理的安全性を帯びていく

●ロジックと同じくらい直感や感性も大事にする

●数字も大事にするが、見えないものを見ようとする

●ひとりひとりの創造的衝動を歓迎する

●柔軟に見切り発車と、前言撤回ができる

●やったことで見えたことから次の道を決める

●唯一無二の正解があるわけではなく、一番良い正解を創っていこうとする

●偉い人の顔色を伺うのではなく、外の声を大事にできる

●うまくいかなかったことをユーモアに変えられる


既存事業と新規事業はゴルフとラグビーくらいゲームの種類が違う。

いま、多くの企業において必要なことは、優れた事業の設計図を血眼になって練り上げることではなく、今までのゲームに最適化してきた土壌に揺らぎをつくることではないか、と思う。

新しい息吹が次から次へと噴き出すような土壌が整ってきたとき、その組織にとって最も機能する新規事業を生み出すプロセスも根付いているはずだ。


皆さんの組織には、「抜け感」はありますか。


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