2021年2月13日に発生した福島県沖の 地震・現地調査速報

横山 芳春 博士(理学)

①地震の概要
 2021年2月13日23時18分、福島県沖を震源としたマグニチュード7.1(その後M7.3に修正)の地震が発生しました。被災された方には心よりお見舞いを申し上げます。
 この地震では、宮城県蔵王町、福島県相馬市、国見町、新地町で震度6強を観測したほか、東北地方、関東地方の広い範囲で震度4以上の揺れが観測されました。気象庁のデータベースによると、国内の地震で震度6強を観測したのは2019年6月に発生した山形県沖の地震以来、またマグニチュード7以上の地震は2016年4月の熊本地震本震以来のゆれでした。著者は、発災後の現地状況について記録し、今後の地震防災に役立てることを目的として大きな地震の直後に現地入りすることを推進しており、今回も2月14日朝に、震度が大きく海沿いに低地帯が広がる福島県浜通り、相馬市~新地町付近の調査を実施しました。

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福島県沖を震源とする地震の震度分布 気象庁HPより

 調査範囲は、下図の赤点線で示した範囲です。色分けは「20万分の1シームレス地質図」を示しており、薄茶色が盛土層、水色が概ね低地の河川・海岸平野堆積物、黄緑が台地構成層、薄黄色が泥岩層などとなっております。主に水色で示す低地域が揺れやすい地盤と想定され、松川浦西岸の低地帯を中心に、横山による目視調査を実施しました。調査は車で移動して、被害が見られる、想定される場所などでは停車して周辺を歩いて目視調査を実施いました。網羅的な調査や機材を用いた観測等ではありませんが、発災後18時間以内の現地状況をとどめるものとして、今後の地震防災に何か役立つことがあれば幸いです。

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大まかな調査範囲(赤点線で示す範囲)
国土地理院「地理院地図」に20万分の1シームレス地質図を表示

②液状化の被害
 地盤の液状化は、ゆるい砂の層があり、地下水の水位が浅い場所に、強い地震のゆれが来た際に砂粒同士の結びつきが失われて水と砂が地表に噴出、地盤沈下などを発生させ家屋の不動沈下等につながる現象です。2011年の東日本太平洋沖地震では、千葉県、埼玉県、東京都にまで液状化が発生したことが知られています。
 今回の地震では、相馬港の複数個所で地表に砂と水が噴き出している噴砂が認められました。手に取って観察してみると、粒のそろった細かい粒の砂が主体でした。液状化の発生しやすい条件のそろった砂であると考えられます(ただし、地表に噴き出した砂は、液状化した層から細かい砂分が多く噴出しているケースもあります)。
 今後の調査でより広範囲で液状化現象の発生個所や被害状況なども明らかになってくることが想定されますが、広範囲で複数の住宅が著しく沈下して大被害、ということは見た範囲内では認められませんでした。いっぱんに、太平洋岸では冬季は降水量も少なく、地下水位は一番低い時期とされるのでこの影響があるものかなど、今後の検証が待たれます。

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③家屋の被害
 調査範囲における家屋の被害としては、住宅とみられるもので倒壊などの被害は認められませんでした。家屋に目立った被害としては、瓦の落下です。古い瓦屋根の木造在来工法の家屋も多く、至るところでブルーシートがけが行われておりました。15日は強い雨の予報であり、早期に対応が進むことを願っております。
 なお、今回の地震の揺れは、既存住宅に著しい被害を与えることが想定される「キラーパルス」というやや周期の長い波ではなく、これよりやや短周期の波が卓越していたために、耐震性が低いことが想定される古い瓦屋根の木造在来工法の家屋でも著しい被害には至らなかったことも想定されます。今後は地盤の揺れやすさや周期特性も踏まえた検証が求められます。
 一見すると被害が軽微な家屋でも、構造躯体にダメージが及んでいることなども想定され、必要に応じた応急被災度判定、ホームインスペクション等が進むことが望まれます。当面は同規模の余震にも注意が必要をお願いいたします。

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④そのほかの被害

・泥岩の斜面の崩落 松川浦西岸の塩釜神社付近では、泥岩の斜面崩落が認められました。ニュースでも大規模な斜面の崩落が放映されておりますが、松川浦周辺には同様の泥岩層が点在しており、複数個所で崩落やひび割れが認められました。住居のすぐ裏手に斜面があるケースも多い地域で、奇岩と海食崖の雄大な景色をもたらす地層ですが、今後の余震を含む地震や大雨の際には注意が必要なケースがあります。

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 余震などで崩落が進むおそれもあり、しばらくは近づかないこと、とくに住宅の裏手に崖がある場合は崖の反対側、可能なら上階で寝るなどの対応が必要と考えられます。このような泥岩のがけは、三浦半島(横須賀市、逗子市)などでもたびたび崩落しております。被害を受ける側だけでなく、敷地内の斜面(に限らず擁壁やブロック塀なども)が崩れて人に被害を与えてしまう可能性もあります。


・石燈籠の転倒
 塩釜神社の境内では、石燈籠1基が点灯していました。重心が高い石燈籠は地震の揺れにより転倒しやすく、いっぱんに短周期のゆれは石燈籠や墓石などが共振しやすく、被害が出やすいとされています。墓地や寺社などで地震の揺れに見舞われた際には、石燈籠や墓石、また鳥居や古い構造物などからなるべく離れた位置で身を守ることが求められます。

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・港湾部の段差等
 相馬港や、松川浦北部の松川浦港では、港湾部の複数の箇所で長い距離で段差や亀裂が発生している現象が見受けられました。

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・橋脚部の段差
 新地町の盛土上の道路橋では、橋脚部に段差が生じていました。同様の段差は、複数個所で発生しており、交通に支障が出ているものは既に復旧工事が完了しているケースもありました。調査範囲内では、顕著な陥没や大きなひび割れなどは見受けられず、道路交通にも特段の支障はないようにみられました。

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 このほか、ブロック塀の落下、水路のズレ、道路の段差、店舗外装部の落下などの被害がみられました。ただし被害はいたるところで多数という様子ではなく、甚大な被害は見受けられませんでした。

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⑤総括
 今回の地震は揺れの周期が短い成分が卓越した地震であり、家屋の著しい倒壊などを見かけることはありませんでした。相馬市や新地町では東北地方太平洋沖地震より大きな揺れに見舞われていたようですが、家屋などに甚大な被害を与えるような揺れでなかったものと考えられます。ブロック塀や擁壁などにも、甚大な被害はみられませんでした。

 防災科研が公開している、「KiK-net山元(MYGH10)」観測点の速度・加速度応答スペクトルを示します。これによると、0.4秒程度が卓越周期を持ったごく短周期の地震波であるとみられ、1.0~1.2秒程度が卓越した熊本地震、兵庫県南部地震などより既存住宅が被害を受けづらい揺れであることがうかがえます。

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  防災科研「2021年02月13日 福島県沖の地震による強震動」より

 地震による揺れ自体は大きく、ゆれの継続時間も長かったことから、たとえ短周期のゆれが卓越し、最大速度も大きくない地震動であることを前提に、過去の地震と比較しても大きな被害に至らなかった要因についてはたいへん気になります。
 松川浦周辺の低地は比較的地盤のゆれやすさは大きく、卓越周期も長めであることが想定されます。古い在来工法の木造住宅の周期もまた長めであることを想定すると、地震動との共振は避けられても、揺れ自体は大きく増幅されていたことも想定されます。

 しばらくは、余震による重量物の転倒、倒壊、移動、瓦の落下や、大雨を含めた土砂災害、斜面崩落なども懸念されます。ご家庭やオフィスでは、家具・什器の転倒、落下、移動防止措置が有効です。
 揺れの大きかった地域だけではなく、揺れの小さかった、感じなかった地域の方も、是非平時のうちに家具の地震対策や、家の耐震性の検討、また家や職場、学校や通勤・通学路など周囲の安全確認、避難所や必要な避難物資の確認などをお願いしたいと存じます。

地盤災害ドクター 横山芳春

<SNS> 
https://twitter.com/jibansaigai

<経歴>
https://note.com/yokoyama1128/n/ne906bc5252e4

<研究論文など>
https://note.com/yokoyama1128/n/na6e545d44d9b

<メールアドレス>
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