安全地帯の外へ
「ビィーーーーーッ!」
霊柩車が出発する。
まるで、終戦記念日のサイレンが響き渡り、黙祷するような感覚で外に出た。
もう亡くなったはずのあの方が、旅立つ。
あぁ、ありがとうございました。
ふと横を見ると、右側には10年近く前に出会ったお医者さん。左には、これまた学生時代に出会った産業技術系の偉い先生。
そして、あの霊柩車で旅立つのは大学の創始者、学長だ。
右隣のお医者さんに話しかける。
いろいろお世話になりました。今は何とかやっています。ありがとうございました。
この人は、何でここにいるんだろう。学長と関係ないはず。
そういえば、私も。
そんなことを疑問に思い始めたかどうかわからないうちに、目が覚めた。
子どもの脚は枕に乗っかっていて、相変わらず3人の隙間に寝ているような状態だったが、目覚めは良かった。曇りの予報が、少し陽も差す。
昔会った人たちに、感謝を伝えたいのかな。
夢占いは、わからないけれどちょっと検索してみると、
深追いしないタイプなので、これを持って占い師に相談しようとかは思わないのだけれど、いつもなら忘れてしまうような夢の内容を書き留めておきたいと思ったのは、思い当たることがあるからだ。
なんだろう。
いま、とても清らかな空気が流れている感じがする。
ポジティブ心理学を学び始めて3年近く。
実は最近とても高額で「自分なんか」が手を出して良いとは思えなかった講座に申し込んでしまった。
ただのお母さんな自分。
ただの事務職員の自分。
こういうのはさ、コーチングを生業にする人とか、大企業の管理職とか、学校のカウンセラーとか…がステップアップのために受けるものなんじゃないの?
「良い転機と信じて良い」
夢占いが本当かどうかよりも、そう自分に言い聞かせる。申し込みが出来たことで既に何か解決していた。
この数年、いや、お金を持ち始めた時からずーっと、「お金がない」という病だったけれども、本当にないんだけれども、そんな呪いをもう解いていいような気がしている。
どうして申し込めたのか。
私にとって「いま」だったんだ。
最近やたら「挑戦」という言葉が気になる。
申し込んだ日は、ちょうど仕事をお昼で切り上げて、自分のために午後を使おうとしていた日。そこでたまたま説明会をオンタイムで聞けた。
今の仕事に就いてから月数千円を給与天引きで貯蓄していたものが、ちょうど講座と同額だった。
直前に家族全員次々に流行りの病で陽性反応。18日間自宅療養し、「やりたいことは先延ばしにしないでやろう」と思い至っていた。
人間関係で「救済者」になりがちな私を変えたかった。
枠を外して考える。
実家にいたころ早く家を出たかった。
学生寮に住んでいたころ、一人暮らしに憧れた。
アパートに住んでいたころ、一戸建てが羨ましかった。
一戸建てを手にしてみたら、今度はこの土地で一生暮らしていくという縛りから、身動きが取れなくなった。
順当に手に入れてきて気が付いたのは、枠の中で落としどころを考える自分。
今の私は、「5年後の理想の未来」が今と変わらない映像が出てくる。ただ子どもたちが大きくなっているだけ。
あるものに目を向けて、感謝して、十分素晴らしい世界にいることを実感できるようになった。
だけど、やっぱりどこか安全地帯に居続けていて、ちょっとだけ外に出てみたくなった。
幸い、また留学とか海外移住しなくても、心を外に向けることはいくらでもできる。
自分が霊柩車に乗るときは、もう少し先だと思いたいけれど、悔いのない人生でありますように。
最高に幸せだったと言えますように。
そして私を導いてくれた人たちのように、小さくてもいい、誰かの幸せに貢献できますように。
あぁ、そうか、今日は義父の月命日だ。
私たち夫婦のために惜しみなくお金を使える人だったなぁ。
自分の学びにお金を使ってもいいかな? いいよね!
最後に学び仲間の言葉をメモ。
「何にお金を使うかは、どう生きるかだと思って!」