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【2023ニンジャソン夏】これまでのマスラダ・カイの歩みを振り返る【ニンジャ読書感想文 】
!!注意な!!
この記事はニンジャスレイヤー第四部シーズン4ラストまでの大きなネタバレを含んでいます。
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シーズン2の終盤で自身の所業を理解したニンジャスレイヤーことマスラダ・カイは、続くシーズン3の終盤で一つの決断を下した。
それは「カノープスのやろうとしていた事を引き継ぐ」事。
無数の危険と希望が渾然一体となって渦巻くケオスの都! 唯一の故郷と呼べる場所! 家族と呼べるものがいた場所! かつてアユミが、カノープスが守ろうとしたもの!「これは、おれだ!」
貪婪の都ネオサイタマ。そこでどう生きるべきか。
きっとカノープスもその暗中模索の中に居ただろうし、マスラダが歩みを追う形になるのは自然に思えた。
けれども。
マスラダの見るネオサイタマと、カノープスが見ていたネオサイタマには一点、確固たる断絶がある。
『オリガミ・アーティストとしてのマスラダ・カイ』がそこに存在するか否かである。
カノープスにとってオリガミ・アーティストのマスラダ・カイは、かけがえのないただ一人の家族だった。
だがニンジャスレイヤーにとってオリガミ・アーティストのマスラダ・カイは消えない傷であり、遠い遠い過去なのだ。
シーズン3でオリガミを握り潰したのが象徴的である。
「スゴイ、上手」ヤモトは率直に呟いた。だが、マスラダはそれをすぐにまた握り込んでしまった。手を開くと、黒い炭がパラパラと散った。「……勿体ない」「いいんだ」マスラダは呟いた。だがそれは拒絶ではなかった。彼の言葉は穏やかだった。
それで良いのだろう。わざわざ自分から傷を開く必要なんてない。マスラダ・カイはニンジャであり、ニンジャスレイヤーである。マスラダは己をそう規定していたし、読者としても納得していた。
のだが。
シーズン4の進行に伴い、二つの要素によってこの状況が一変する。
一つ目はニンジャのグラフィティ・アーティスト、ザナドゥとの出会い。
はるばる地球の裏側からネオサイタマへやって来たザナドゥは、己の能力全てを用いてアートを作る事に没頭するニンジャだった。
今までマスラダが遭遇した事の無い生き方もさる事ながら、そのアートの素晴らしさにマスラダは感銘を覚えた。
二つ目はアブストラクト・オリガミの出現。
カリュドーンのイクサの度に生じる正体不明のオブジェクトは、それを見る者に感銘を与えた。更にその感銘を覚える者の中には、マスラダがリスペクトを覚えるアーティスト、ザナドゥも居たのだ。
そうしてシーズン4終盤、アブストラクト・オリガミを核としたザナドゥのウキヨエは、崩壊するネオサイタマを繋ぎ止める礎となった。ニンジャスレイヤーとしての因果が、オリガミ・アーティストのマスラダ・カイを必要としたのだ。
加えてそのオリガミは、マスラダ自身がリスペクトするザナドゥが太鼓判を押すほど素晴らしいものだったのだ。
「また何かしようぜ」「何か?」「作ったほうがいいと思うぜ、アンタのオリガミ。スゲエから」「それは……」マスラダは息を吐いた。「とにかく、疲れた」
学生時代、荒んだ生活を送っていたマスラダは、オリガミとの出会いによってそれを「やってもいい」事に気付いた。
時を経てニンジャスレイヤーとなったマスラダは、捨てた過去を改めて拾う事が出来るのか。
もう一度「やってもいい」と思う事が出来るのか。
シーズン5はその点にも注目していきたいと思う。
ギャラリーのオーナーに聞くと、ストリートアートの世界には、こういう経歴の人間がいくらでもいるのだという。そういうものなのか。マスラダは己を包む霧が晴れたような感覚をおぼえた。生まれながらにして閉ざされていると思っていた道が、不意に開けた。やってもいいのだ。おれも。