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自分でできることは自分でやる

ノルマンディーの現在の家に私が暮らし始めた頃、パリのインテリア本を作っていて、パリジャン宅を取材していた時期があった。ある日、訪れたアパルトマンで取材相手とひとしきり話してから、インテリアの撮影に取り掛かることに。すると、その彼女は電動ドライバーを手にして現れ、「子供のベッドを組み立てなくてはいけないから、後は自由に家の中を撮っていいわよ」と子供部屋に消えて行ったのだ。

まるで「今から料理をするから」と、包丁を手にしているようにドライバーを持った彼女の姿は、慣れているためかとても自然だった。素敵なインテリアで暮らす、絵に描いたようなお洒落なパリジェンヌながら、何でも自分でやるといった姿勢が、まさに格好良かった。

離婚経験者ということもあって家の中のことは自分でやる必要があるのかもしれないし、単に彼女自身、ブリコラージュ(日曜大工)が好きなのかもしれない。とにかく、そんな彼女の姿を見て「そうだよね、女だってブリコラージュをしたっていいんだよね」と素直に思った。

もちろん、ブリコラージュは男の仕事だなんて思っていたわけではないけれど、それまで賃貸のアパルトマンでしか暮らしたことがなかった私は、何といっても自分でブリコラージュをする機会がなかったのだ。そして家人のファンファンは何でも自分でやる人だから、棚の取り付けから家の修理修繕はすべて、頼めばやってくれる。だから何となく、ブリコラージュはファンファンの役目と思っていたところがあったのだ。

ただし、忙しい人だから頼んでもすぐにやってくれるとは限らない。となると、何かを今すぐ変えたいのに1週間、下手すれば1年近くも待たなくてはいけないことも多い。

さらに、人に頼むと自分の思い通りにできるとは限らない。もちろん、作業中に問題が出てきて、計画を変更しなくてはいけないことも多いのだけれど、どこまで手を抜かずに、どれだけきれいに仕上げるかは、個人の意気込みと力量次第。そして嫌なことに、私は完璧主義者でもあるのだ。

プロであるはずの業者に頼んでもそれは同じことで、いくら高い料金を払って作業を依頼したとしても、満足に仕上がることはフランスでは稀。もちろん、職人気質の人も一部に確実にいるけれど、多くの人はお金を払った分に合う仕事をきちんとしてくれない。そして仕事に対し、そんな姿勢でいる人々に指示を出したり、作業のやり直しをお願いしたりするのは、本当に面倒なことなのだ。業者と喧嘩する羽目になる依頼人が多いというのも納得。もちろん仕上がりに完璧を求めるなんて絶対に無理!

となると、ファンファンみたいに自分でやった方が安いし、仕上がりもマシという結論になる。だから、フランスでは自分でブリコラージュをやる人が多いというわけ。そして、ファンファンだろうが、誰だろうが、頼んだ相手が作業に取り掛かるのを待つ間、私は不満を募らせて暮らさなくてはいけないことになる。そんなのはまっぴらごめんである。他人を頼るよりも、自分自身で取り掛かった方が、何といっても早いというもの。

だから私も決めたのだ。

自分でできることは自分でやることに。

毎年、時間がある時に我が家の改装を少しずつ、自分でやっている。何といっても、ファンファンがやってくれるのを待たなくてもいいし(しかも彼は改装しなくてもいいとか言って絶対やってくれない)、自分が心地いいと感じる空間を自分で好きなように作れるなんて最高だ。今まで寝室2部屋に、階段と廊下のペンキ塗りは独りでやってきた。今では棚を取り付けることもできるし、最近ならキッチンの流しの排水管換えだってやってみた。

いろんなブリコラージュをしながら思うのは、どれも決して難しい仕事ではないということ。もちろんプロにはプロのコツやテクニックがあるのだろうけれど、今のネット時代では簡単に作業の動画が見られるし、はっきり言って誰でもやろうと思えばできること。後は、そういった作業が好きかどうかの問題になるわけで、私もファンファンも自分の手を使って何かをすることが、そもそも好きなのだ。だから、何でもかんでも自分たちでやりたくなる。

ブリコラージュの中でも私が気に入ったのが、タイル張り。我が家のダイニングキッチンは6年前に業者に頼んで改装してもらったのだけれど、その時にキッチンに張ったタイルが余っていて、何かに使えないかと考えていた。

我が家では収穫したフルーツを使って大量にジャムを作るのだけれど、キッチンの向かいにあるその作業場となる壁にも、掃除しやすいように同じタイルを張りたいと思った。でも部屋の改装は終わっていたし、壁の一部にタイルを張るためだけに業者にも頼めない。だから自分で張ったのだ(冒頭の写真)。

ペンキ塗りも嫌いではないけれど、というか、どんな作業でも私は楽しめる自信があるのだけれど、タイル張りはより立体的だからなのか、物を作っているという感じがより強い。そして、タイルを必要な寸法に切ってバッチリ嵌った時には、満足感もひとしおなのである。まるでピースを嵌めてパズルを完成させるイメージ。

とにかく、初めてのタイル張りでなかなかうまく出来たものだから、まんまと図に乗った私。そこで、現在進行中の貸別荘(フランス語でジット「gîte」)の改装工事で、タイル張りを担当することを声高らかに宣言したのだ。



ファンファンは他にもたくさんやることがあるし、改装を手伝ってくれているフランソワと、もう一人のうちの従業員はタイル張りには性格的にも絶対向かない。となると、私がやるしかないではないか!


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で、張ったのが2階のバスルームの壁のタイル。床のタイルは業者に頼んで張ってもらったのだけれど、若い男性ながら稀に見るちゃんと仕事をしてくれる人で仕上がりに大満足。シャワーの横にはトイレも設置するので、バスルーム全体の壁をタイルで覆うことにした。シャワーブースの下の白いタイルも私が担当。ファンファン曰く「実験室みたい」だけど、実験室っぽいのは、まさに私の好みなのだ。

7月末に天井のペンキ塗りから始めて、8月いっぱいは怒涛の夏休みとなって作業に取り掛かることができず。9月1週目から再開し、終了まで掛かった日数は計3週間。私自身、納得いく仕上がりではなく、今後の教訓とすべき部分が多々あった。何といっても壁が垂直ではなかったし(フランソワめ~/怒)、約5年ぶり2回目のタイル張りとしてはこんなものでしょうか。


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窓辺には床と同じタイルを張って補強。他の部屋の窓辺すべてに同じモチーフのタイルを張る予定。


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その後、自分の仕事で約1ヵ月中断していた作業は、先週再開して1階のトイレのタイルを張り終えたところ。左右でタイルを張った幅が異なるのは、右側の壁に暖房器具をつけるため、タイルの厚さ分のスペースを取られたくなかったから。トイレの穴も真ん中じゃないし(フランソワめ~/怒)、非対称でもいいやと。

こういう作業を始めると、私はめちゃくちゃ没頭するタイプで、もうやめられない、止まらない! 独りで黙々と作業をしていると、心が洗われるというか、雑念がなくなるというか、まさに至福の時間。さらに、作業回数を重ねるたびに、要領が分かってきてやり方を改善でき、自分の腕が磨かれていくのも分かるのが、何ともうれしい。そして仕上がりに満足するほど、次のタイル張りをやりたくなってくるというもの。

あぁ、楽しい(笑)。

とはいえ、去年末から始めた改装工事ながら、フランソワによって一軒家全体に断熱材を入れて壁を2重にするところまで終わったのが夏前のこと。後はペンキ塗りからタイル張りなど、部屋の仕上げをしていかなくてはいけない段階なのだけれど、現在壁が仕上がったのが2階のバスルームと1階のトイレのみ。しかもトイレの便器はもちろん、シャワーや洗面台、照明など設置する細かい作業がまだまだたくさん残っている。

自分たちで作業をするのは費用を安く抑えられるし(そもそも業者に払えるお金もない)、よりいい仕上がりを目指すこともできるから、できることなら自分たちでやりたいのは山々。しかし、ファンファンも私も自分の仕事があるし、自分たちですべてをやるには何といっても時間が足りない!

来年春のオープンを目指しているのだけれど、それまでに果たして工事が終わるのか。

それが問題なのである。


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