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2023年6月2日 アメリカ環境・資源経済学会(AERE)で発表しました。

横尾です。
2023年5月30日から6月4日の旅程で、Association of Environmental and Resource Economists (AERE: 通称・アメリカ環境・資源経済学会)の2023年次夏季カンファレンスに参加してきました。

コロナ禍の2年間はオンラインで開催され、昨年から対面での開催が再開したこの学会。
今年はアメリカ・メイン州ポートランドで開催されました。


今年のAERE開催地はメイン州ポートランド

ポートランドは海沿いの港町で、アメリカ東海岸の地元の方にとっての観光地・保養地といった雰囲気でした。

メイン州ポートランドの街並み(その1)
メイン州ポートランドの街並み(その2)

とても素敵な街でした。
筆者がこれまで行ったアメリカの街の中でもかなりお気に入りです。
シーフードとブルーベリーが名物の街で、学会の合間においしい魚介類料理をいただきました。
ロブスターや蠣が名物ですが、その他にも白身魚や蛤などもお刺身でいただけます。

素敵なオイスター・バー:Eventide
素敵なシーフード・レストラン:Scales

オイスターが売りのオリエンタルでフュージョンな感じのレストランEventideで「ロブスター・パン」というメニューがあったので注文してみました。
カニクリームコロッケパン的なのを想像していたのですが、全然違いました。
ロブスターの身を和風?のドレッシングであえて小葱をまぶしたものが、白いパンの上に載っていました。
見た目に驚きましたが、味がとても美味しくてさらに驚きました。

Eventideのロブスター・パン

発表内容

さて、私自身が今回の学会で発表した論文のタイトルは"Estimation of intergenerational fairness preferences: Evidence from a randomized survey experiment in Japan"というものでした。

気候変動問題をはじめ、放射性廃棄物の最終処分など多くの環境問題が「現在世代と将来世代の利害相反」を伴うことがあります。
現在世代がいま行動を変え、制度を変え、投資をすることで環境問題が緩和されるかもしれない。
それによって将来世代が損害を被らなくてすむかもしれない、便益を得られるかもしれない。
しかし、現在世代がこれまでの生活や経済を大きく変えるのは負担となる。

こういった「世代間の問題」という側面が少なくない環境問題にあります。

さて、現代の環境政策やライフスタイル・シフトに「賛成する人」もいれば、あまり「前向きではない人」「関心が無い人」さらには「反対する人」もいらっしゃいます。
こういった環境政策への賛否や行動変容をする人・しない人の違いはどこからくるのでしょうか?
その背後にはどういった考え方や心理があるのでしょうか?

筆者は環境政策や環境に配慮した行動の背後にある「価値観・選好」や「リスク認知」を明らかにすることを研究テーマの一つとしています。
こういった選好・認知を調査し、定量的・確率的な指標として見える化し、それをもとに多様な価値観・認知を持つ人々の比較や国際比較ができればと考えています。

1970年代生まれが同世代と1990年代生まれ世代を比較する

さて、経済学の理論の中には、「次の世代」や「子孫」に対して利他的な選好を持つ人を想定した数理モデルが複数があります。
しかし、このような「将来世代についての選好」を定量的に計測するという試みは皆無でした。
そこで、この「将来世代に対する選好」を計測しやすい形の数理モデルとして定式化しなおし、その指標をアンケート調査によって実測してみるという試みを筆者はしています。
今回の学会では、その「将来世代に対する選好」の抽出方法の提案とウェブ調査会社にご協力いただいて実施した日本在住の1970年代生まれの方々の「1990年代生まれ世代に対する選好」を調査とそのデータを用いた推計の途中経過を報告しました。

(なお、この研究の結果についてはまだ分析途中ということもあり、将来のまた別の記事で詳しく紹介させてもらいます。)

発表したセッションは盛況

AERE2023のプログラムはこちらから確認いただけます。
筆者が登壇したのは6月1日の午後のセッションでした。

横尾が学会発表した会場(セッション開始前の様子)

上の写真はセッションが始まる前の休憩時間の様子です。
この時はまだオーディエンスの数がまばらです。

しかし、この後、次々と聴衆の方が増えて行って驚きました。
30席ほどの小さな会議室だったのですが、私の後に発表したYale大学の環境経済学者が有名人だったこともあり、立ち見が30人以上増え、最終的には合計60名を超える聴衆になっていって驚きました。

私のセッションでは4人の環境経済学者が順番に発表しました。
私はそのトップバッターでした。
私が話し始めてからも次々と人が部屋に入って来て、聴衆が増えて行き、自分の参加セッションの注目度の高さを感じて、発表途中から徐々に緊張してきてしまいました。
焦って途中で英語を間違ったりもしたのですが、どうにか時間内に発表をまとめられて安堵しました。

AERE2023全体への感想メモ

この学会に参加して感じたことを、私が主催者の一人でもあるJ-TREEという環境・資源・エネルギー経済学者のコミュニティで共有しました。
あくまで専門家向けにまとめたメモなのですが、上記はクローズドなコミュニティですので、参考までに下記に同じ情報をアップしておきます。

以上、長くなりましたがAERE2023参加レポートでした。

ここから、環境経済学者向けAERE2023感想メモ:

全体について

・コロナ前2019年あたりと比べるとシニアよりも院生の報告者が多い印象
・昨年のEAEREは中国からの参加者が皆無だったが、今年は中国からの参加者もいらっしゃるし、北米留学中の中国人留学生がとても多く感じる

トピックについて

・アメリカの学会だけあって、IRA(インフレ抑制法)への言及がイントロの随所で見られるように
・EV、家庭用太陽光発電、バッテリー、ヒートポンプといったトピックが増えた印象
・PFASの水汚染も注目を集めていた
・政策がもたらす分配的な側面に注目した研究もあり
・印象として、アメリカと中国の研究の割合がやや増えたか。それ以外の地域が減った印象

手法について

・やはり実証研究が支配的
・一方、理論+数値計算ものも見かけた
・実証で王道と感じるのは産業組織論的な分析
・途上国でのフィールド調査・実験はコロナ前から比べて減った印象
・とはいえ手法には多様性が出てきたように感じた。コロナ前の一時期はプログラム評価全盛だったがそれと比べて

データについて

・10年前と明らかに違うのは「衛星画像データ」「テック企業の大気質計測デバイスのデータ」「電力会社の持つ家庭の30分ごとの消費量」など政府統計や自力調査などではない先進的なオルタナティブ・データを使う人がごろごろいる。
・衛星画像データに関してはその名もずばりのセッションもあるし、そうじゃないところでも見かける。

学会のロジやオペレーションについて

・学会ではWhovaというアプリでプログラム共有、さらにはSNS的機能もありこれがなかなか便利
・Whovaによると500人ほどが参加
・Registrationで一応、コロナ予防接種の証明を求められた
・マスクをしている人はまれで1%から3%はいる、という印象。大体、カラフルなおしゃれマスク

おまけ

・コロナ前から始まった有志によるジョギング企画が今年もありました。
・例年、JAEREやREEPのボールペン、マグネットなどが販売促進グッズとして置かれていましたが、今年はなんとフリスビーでした。

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