美と希望と目覚めと。VOGUE アナ・ウィンターからのメッセージ
マスク姿のキスシーンのポルトガル版、1人でも多くの命を守るために奮闘している医者やナースのユニフォームの色であり、彼らへの敬意のメッセージに込めたという「白」一色のイタリア版。
編集部は世界の中でもとりわけ感染が深刻化しているN.Y.。VOGUEの本家であるアメリカ版はどうでてくるのか? 編集長のアナ・ウィンターは何をしてくるのか? このタイミングで何を発信するのだろう?
私はずっと気になっていた。
US『VOGUE』のスペシャル・イシュー
数日前にアナのブログが公開された。
スペシャルイシューのテーマは「Our Common Thread-CREATIVITY IN A TIME OF CRISIS/世界共通のスレッド-危機に直面する今、創作に求められていることとは?」。
進行していたテーマをすべてナシにして(これぞ、アナの強さ!)、今、この状況下でクリエイター達がどのような生活をしているか記録してもらい、それを一冊に束ねて、完全リモートで制作。
表紙は、巨匠・故アーヴィング・ペンの撮影した一輪の薔薇(静物カットを表紙にするのは50年以上ぶり)。「美と希望と目覚め」、そして「私たちは太陽の方を向いて、光を探すべき」という意味をこめたのだという。今、世界中でコロナと向き合っている私たちに求められている生き方の提示している。メッセージの強さ、的確さ。
アナ・ウィンターのこと
アナと言えば『プラダを着た悪魔』のイメージで語られることが多いけれど、やはり彼女を知るならドキュメンタリーがおすすめ。編集長としての彼女がよく分かる『ファッションが教えてくれること』。ビジネスマンとしての才覚がよく分かる『メットガラ ドレスをまとった美術館』。彼女の比類なき才能は、審美眼もさることながら、そのタフネスなのだと感服するしかない2本。
↓この動画は彼女のファッション観がよく分かる(約6分)。
いつも完璧すぎる隙のないファッションに身を包んできたアナ。現在、もちろん彼女も自宅で過ごしているわけだが、そのアナの自宅スタイルが『VOGUE』のinstgramで公開され、ビックリ! ニット+スウェットパンツ!!
アナがこの装いを露出するだけで、かなりの強いメッセージ。そして、かなりの情報量。Stay home,Stay relaxy, Stay healthy……∞。
戦争中の暮しの記録
戦時下の「庶民の日常の記憶」を集めようと、「戦争中の暮しの記録」の投稿を呼びかけました。高度経済成長に沸く日本において、あの暗く、苦しく、みじめだった戦争の記憶は、もはや思い出したくない、忘れてしまいたい過去のことだったでしょう。ところが、総数1736編という驚くべき数の原稿が寄せられ、当時の編集長の花森安治と編集部員たちは、全身全霊を傾けてこの企画に取り組み、一冊に編み上げました。
今この状況下のN.Y.から放つ渾身のUS版『VOGUE』のコンセプトを知り、この一冊を思い出した。まるごと戦争中の暮しの特集を特集していたこの一冊を。図書館で隅々まで読んだこの一冊を。教科書で知る戦争とは違う、戦争がそこには詰まっていた。
今日、薔薇が咲いた。毎年、だいたいGW中に咲いていたので、今年は少し早めに咲いた。
日々刻々と状況が変わっている。予想はできても、この行き着く先を誰も知らない。「暮らし」や「記憶」、「感情」の断片を残すという小さな作業は後世にとっても意義がある。今、世界中で書かれているであろうブログやSNSのつぶやきやそして日記帳に書かれている走り書きでさえも。それくらいの日々を私たちは生きている。そして、その日々は、美と希望と目覚めと。太陽の方を向いて、光を探しながら、であるべきなのだと思う。
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