季装(毎週ショートショートnote)

蝉の声がすっかり消え失せ、夜になると虫の音色が美しい。黄昏時が長く長く長く、陽が落ちると瞬く間に夜の帳に閉ざされる。
と、鼻にツンとくるこの匂いはキンモクセイだ。ああ、今年もキンモクセイ盗賊団がくる季節が来た。
キンモクセイ盗賊団は、晴天の日の昼夜問わずツンとする匂いをあたりに撒き散らし、夜闇に紛れて蒼を盗む。
桜や椎に楓に銀杏。冬の訪れの前に葉を落とす木々から蒼を盗み、それを山の合間の池へと運ぶ。
キンモクセイ盗賊団の頭は冬の女王。樹木の蒼は池の水に溶け出し糸となり、蒼を失い落ちた桜や椎に楓に銀杏、それらが織り込まれ、やがて女王の衣装になる。
そうして冬の女王の内から春が芽吹くその時まで、女王の御身を包み込む。


お題はこちらの「キンモクセイ盗賊団の池」から。
“〜の池”部分を無理矢理組み込ませたような話になってしまったではないか。