化粧(毎週ショートショートnote)
8月上旬の合同合宿を除けば学校に登校することがない私は、合宿が終わったその足で薬局に立ち寄り、ヘアーカラーを購入。色はさんざん悩んでオレンジ色に。
その夜親指程の太さの束を左右に二つ作ってその部分だけ染める。そうバイト先の先輩の真似。きれいに染まるかな、ドキドキ。
鏡の前に座り、いつもよりも丁寧にドライヤーで髪の毛を乾かしながら髪の毛を広げてみる。染めたところにオレンジの薔薇が現れ、髪の毛が元の位置に戻るとそれは消える。
うん、イメージどおり。
私はウキウキしながら、みんなで集まろうと約束した花火大会までの日を数えた。
その日はあっという間にやってきた。待ち合わせの場所に行くと、アイは両手両足の爪に星を灯し、サーヤは瞳と唇をゲーミングにして、マナなんて両腕と背中が大きく空いた服を着て、エレクトロ金魚を泳がせていた。
「あれ? リカは?」
「ここだよ、ここ」
声がした方向にみんなで顔を上げると、トンボの羽を生やし、空に浮かぶリカの姿があった。
「人混みで花火が見えないかもしれないと思ってトンボの羽を生やしたけれど、空中で留まるのって結構たいへんなの」
「じゃあ、降りたら?」
「それが、使用して一週間は、ポールのような物にしか止まれなくなっちゃうのよ」
人間離れした化粧は、どれも使用して効果は一週間続いてしまう。
日が落ちてから会う約束してよかったと私は胸を撫で下ろす。
髪の毛にオレンジの薔薇を染めてから、日中は蝶や蜂が時には鳥が髪の毛に寄ってきてしまうのだから。
お題はこちらの「ひと夏の人間離れ」から。