招福鍋(毎週ショートショートnote)
初詣もそこそこに長者の息子と小作の息子は、買ってもらったばかりの凧をあげる。
そんな二人の凧に鴨の一団が突っ込んだ。鴨一羽一羽に縄をつけられ、その縄にぶら下がるのは権兵衛さん。
こりゃ、大変なことだ。
えんやとっと、どっこいしょ。
村境に戻る六地蔵さんよ、手伝っておくれやす。
えんやととっと、どっこいしょ。
あらまぁ、なにがおきているのかしら。
それを遠眼鏡で見ていた姫君が、弓の名手与一に命じた。
与一の矢は次々と鴨を射抜き、権兵衛の足はようやく地面についた。
凧が台無しになったと、べそをかく息子らに来年、また買ってやると語りかけると、愉快、愉快と豪快に笑う鬼が現れて、仕留められたばかりの鴨を、雑巾を絞るかのように羽を毟り取り、婆やが沸かした大鍋に次々と放り込む。
こうしてできた鴨汁のなんともうまいことか。
笑う門には福来る。
豪快に笑う鬼は豪快に笑いながら去っていく。
その姿を福の神に変えながら。
これは良いものを見せてもらったと、姫君は子らに新しい凧を贈った。
お題はこちらの「手加減無用鍋」から。