ポケット大増殖(毎週ショートショートnote)
〔宙時15:17、K-53地点付近で宇宙嵐感知。推定レベル4〕
宙路を整備と保全を行う人工知能機体タルタルーガは、走行中の宙船を宇宙嵐から守るために一斉に出動した。
その宙船は、宙路K-51地点を通り過ぎた。
「予定より早く到着できそうだ。これなら依頼主に、超特急料金を上乗せしても文句は出まい」
船長ラ・ビートはほくそ笑み、自動運転モードをいいことに、お茶の時間にすることにした。
地球を飛び出した人類は、月に人工衛星に居住地を構え、地球、月、人工衛星を電子網を張り巡らした宙路で繋いだ。
宙路士は、その宙路で荷を運ぶのだが……
〔宙時15:17、K-53地点付近で宇宙嵐感知。推定レベル4〕
ラ・ビートは舌打ちをし、淹れ立てのコーヒーにラズベリーパイを手に、運転席に戻り、手動運転に切り替え速度をあげ、感知地点を超高速で走り抜けようとしたのだが、
「くそっ、鈍亀め!」
鈍亀。それはタルタルーガの宙路士スラング。彼の船の前後左右を固められ、ポケット状態にし、船を強制停止させられる。
淹れ立てのコーヒーが舞い、ラズベリーパイが彼の顔に命中する。
そうして程なく、地響きを立てながら、電子網をすり抜け襲う宇宙嵐……
――どれだけの時間が過ぎたのだろうか。
〔全宙路、走行可能です〕
ラ•ビートは見た。鈍亀に四方を囲まれ、宙路上に止まる船、船、船……
――その様は鈍亀による、ポケット大増殖といって過言はない。
※お題の中の“ポケット”は、
「陸上競技などで、前と両脇を他の選手(またはコースの端)に囲まれた状態のこと。ポケットに入った選手は前の選手を抜くことができなくなり、非常に不利となる(Wikipediaより)」
の意を使用しました。
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また、今回のお話は、以下の話の姉妹編として書き下ろしました。
宙路士 ラー・ビト
2022•7•4 加筆修正