結婚式ゾンビ(毎週ショートショートnote)
俺は困り果てていた。
嘘の結婚話を客に持ちかけていたことがバレて、ホストクラブを首になり、この日も金になるようなものはないかと街を彷徨っていた。
そうして、それを見つけたのだ。ビルとビルの狭間の裏路地の真ん中に落ちている赤い封筒を。
それを見た瞬間、俺の頭の中に、ある習慣が横切った。
――冥婚――
女性が未婚のまま亡くなると、道端に遺族が紅包、つまり赤い封筒を置く。通行人がそれを拾うとそれを監視していた遺族が出てきて、死者との結婚を強要されるというそれ。
だが、ここは東京だ。封筒からのぞく札束は、今まさに喉から手が出るほど欲しくて仕方ない。
俺は素早くそれを拾い、裏路地をでたらめに歩き、後を付けてくるいる者がいないことを確信し、ようやく少し開けた場所でそれを開けた。
封筒の中の帯封がついた札束は、紛れもなく本物。
だが、札束と一緒に数枚の写真があり、俺を囲むように散らばった。
その写真は、俺に捨てられ命を絶ったと小耳に挟んだ女達で……
「ねぇ、私と結婚しようと言ってくれたでしょ?」
「嬉しいわ。さあ、永遠の愛を誓いに行きましょう」
「この愛は、死さえ別つことなどできやしないわ」
写真の中の女達がウェディングドレス姿で現れ、俺を朽ちた教会へと引きずっていき……
ゾンビと化した俺の頭上から、ウエディングベルが鳴り止まない。
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2022•7•5 加筆修正