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ビール傘(毎週ショートショートnote)

「善意の傘です。どうぞお使い下さい」
雨の日に、街のあちこちに置かれる黄金色のその傘は、
「……その傘を差して歩いているとさ、ツタに覆われた店の赤提灯を見えてさ、途端にビールを呑みたくて呑みたくて仕方なくなってさ……」
使用者を酒場へと誘うという。
「……中に入ると、俺好みのポップな感じでさ、またそこに行きたいのに、その場所が思い出せないのさ」
――別の人はこう話す。
「……とりあえずと注文したビールは、死んだ親父がいつも呑んでいた物で、飲み乾したとたん涙が溢れて……」
――また別の人はこう話す。
「……友達とコスプレ祭りの終わりに、雨宿り兼打ち上げにと入ったら、同じジャンルの仲間が何人もいて、みんなでバタービールで乾杯したの」
……と、使用者の心情や状況に合った店内へと誘われ、心地よいひとときを過ごすことができるという。
ちなみに使用者が未成年の場合、傘が誘う店は駄菓子屋になり、お子様ビール、もしくはビール模した物を買うまで、店から出られなくなるという。



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