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スターリングエンジンの自作と性能評価の話

・製作の経緯

ものづくり/機械工学に関わりたい—小さい頃から手を動かして工作することが好きだった私は、中学3年の頃から漠然と、しかし真剣に将来の進路として技術者を志すようになった。これは学校の図書館にあった『風をつかまえた少年』[1]や『新幹線をつくった男 島秀雄物語』[2]を読んで、技術によって社会にインパクトのある何かを送り出したいと思うようになったことや、当時から(現在まで)ハマり続けているBve Trainsim(http://www.bvets.net/)を通して、鉄道車両の力学的な挙動に興味を持つようになったことの影響が大きい。
それから紆余曲折あり、一浪の末に筑波大学理工学群工学システム学類に入学した。それからもうすぐ6年となり、私の大学生活はおよそ高校までの自分が全く想像しなかったいろいろな出来事があったが、総じて非常に実りあるものとなった。これはひとえに先生方と同期のみんなのおかげである。
しかし、中学生のときの自分が思ったほど手を動かしていないことに気が付いた。やはり工学というのだからEngineeringの語源たるEngineを題材に工作してみたい。そういうわけで就活や学会発表が一段落したある日、友人のJJ1GUJ/6君(@jj1guj)に以前所属していたサークルの雙峰祭への出展の誘いを受け、展示品として今回スターリングエンジンを自作することとした。


スターリングエンジンとは?

前置きが長くなったが、今回製作したスターリングエンジンの紹介に移ろうと思う。

・スターリングエンジンの歴史

スターリングエンジンは1816年に、スコットランドのロバート・スターリングにより発明された。社会的背景として、当時普及していた蒸気機関のボイラ爆発事故があり、より安全な動力源が求められていたことが挙げられる。しかし19世紀末期になると今日広く普及しているガソリンエンジンやディーゼルエンジンが実用化され、効率やパワーウエイトレシオに劣るスターリングエンジンは一旦社会から姿を消すこととなった。
スターリングエンジンが再び脚光を浴びるようになったのは1930年代にフィリップス社が研究開発に取り組んだことによる。以降小型発電機や、エンジンをヒートポンプとして利用した冷凍機の開発が行われた。日本でも1982~1987年に旧通産省の主導で開発が行われた。
現在は日本や諸外国で家庭用コージェネレーションシステムとしての商品化や太陽熱を利用した発電システムへの適用に向けた実証実験が進められている。

・スターリングエンジンの原理と特徴

スターリングエンジンの動作原理は非常にシンプルであり、エンジン内部の作動流体を外部の高温熱源で加熱膨張させ、低温熱源で冷却収縮を繰り返すことでサイクルを構成している。(文章で表現しても伝わりにくいので分かりやすいサイトの解説をどうぞ→http://www.kob-sc.uh-oh.jp/stirling/stirlingIntro.html)

これをご覧いただくと分かるように、まず高温熱源によって作動流体が等積加熱される。その後等温膨張し、等積冷却される。ここで、冷却の際に捨てられた熱は再生器により回収され、次の加熱行程で再利用される点がこのエンジンの特徴である。最後に等温収縮され、作動流体はサイクルを繰り返すこととなる。
このエンジンの長所と短所をまとめると以下のようになる

長所
・外燃機関であり、熱源を選ばない。化石燃料以外の太陽熱や地熱、ごみ焼却炉の排熱など多様な熱源を利用可能
→化石燃料を利用する場合爆発行程がないため排気ガスがクリーンになることが期待できる。
・爆発行程がないため安全、低騒音/振動が期待できる。
・(理論上は)カルノー効率を達成する熱機関である。
・外部から動力を与えることでヒートポンプとして利用可能なため、空調や冷凍機に適用可能である。

短所
・エンジンの重量当たりの出力(パワーウエイトレシオ)が他の実用的なエンジンに比べ低い
・実用的なスターリングエンジンでは高圧の水素やヘリウムを作動流体に使用するため、気密性に配慮する必要がある。
・作動流体の加熱の効率や再生器の効率を高めるために高度な技術や材料が必要になり高コストとなる
・ガソリンエンジンなどに比べ制御の応答性に乏しいため、自動車用の動力など負荷の変動が大きい用途には向かない

これらの特徴から、現状ではスターリングエンジンはスペースの制約や制御の応答性を必要とされない用途に限定される。特に有名な使用例として潜水艦の機関としての利用例が挙げられる。[3][4][5](https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ss/souryu/)

そうりゅう型潜水艦(イメージ)

エンジンの設計・製作

いよいよ本題のエンジンの設計と製作に入る。基本的には既往文献[3]やウェブサイト(http://www.kob-sc.uh-oh.jp/stirling/NoBB.html)を参考に基本的な仕様を決定し部品を調達し、現物合わせと試行錯誤で製作した。
基本的な設計指針をまとめると以下のようになる。

・高温熱源はアルコールランプを用いるγ形スターリングエンジンとする。
・高温部分であるディスプレーサは耐熱ガラスの枝付き試験管とスチールウールにより製作する。
・パワーピストンはガラス注射器を加工し、気密性と摩擦損失の低減を図る。
・旋盤やCNCは持っていないので糸鋸や電動ドリルなど一般的な工具で製作可能なものとする。
・エンジンの枠やそのほかの部品は模型店やホームセンターで調達できるものや手持ちの材料で作る。

製作したエンジンの動作を動画はこちらから

諸元をまとめると以下のようになる
形式:γ形スターリングエンジン
ディスプレーサ行程容積:15×80mm(14.1cc)
パワーピストン行程容積:15×40mm(7.0cc)
無負荷回転数:約450rpm
最大出力:約50mW@300~350rpm
最大トルク:約1.6N・mm@250~300rpm
熱効率:およそ0.3%程度(推定)

実際の製作工程

ここまで書いておきながら当日中の公開が難しそうなのでとりあえず暫定でTwitterのモーメントのリンク置いておきます。続きはまた後日

性能予測・評価

(つづく)

雙峰祭での展示

(つづく)

製作と展示を通しての雑感

(つづく)

参考文献

[1]William Kamkwamba,『風をつかまえた少年』, 文藝春秋, 2010
[2]高橋 団吉,『新幹線をつくった男 島秀雄物語』, 小学館, 2000
[3]濱口和洋, 戸田富士夫, 平田宏一共著,『模型づくりで学ぶスターリングエンジン』オーム社, 2009
[4]山下巌 ,『スターリングエンジンの理論と設計』, 山海堂, 1999
[5]大人の科学マガジン Vol.10 ( スターリングエンジン ), 学研, 2006






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