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リュクサンブール公園に行こう!


ここ、リュクサンブール公園に来るたび、とある パリのヴェテランガイドであり、私の大先輩の内のお一人のことを思い出す。私がボルドーからやって来てパリのガイドになりたての頃はこの職業の従事者が異様に平均年齢高くて、面接の時にとある旅行会社のディレクター氏にこう言われたものであった。「パリのガイドも年々若い人が少なくなってしまって、このままいくと数年後には誰もいなくなってしまいますよ。」と、かなり深刻な様子で話されたので、こちらまで心配になってしまった。その時平均年齢は63歳、私だって当時そんなに若かったわけではないが、「あら私遥かに下回ってるわー」なんて思ったのを覚えている。

今では特に度重なるテロ事件以来、大先輩方々は定年退職でごそっと第一線をしりのぞかれ、代わりに私より若い人達がどんどん加わって来た。私はちっとも若くなくなった。

さて、例の先輩とは一時期頻繁にコンビを組む事があったが、その度に一時間でも時間があってどうしましょうかと言うときに、天気が良い時は必ずといって良い程リュクサンブール公園をオススメするのであった。ご自身でもお気に入りだし(私だって好きだけど)、おそらく知り尽くしていて(確かに様々な見どころがあるし)、独自のアイディアをお持ちで、 案内したらすべてのお客様に満足していただく自信があるのだろうな。まあ、公衆トイレもあるし、 これはパリではそもそも貴重な事である。

悲しい事にその先輩はお亡くなりになったので、もう仕事でご一緒する機会はなくなってしまった。もっと彼なりのリュクサンブール公園論を聞きたかった。

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パリには広場、公園、スクェア等人々がのんびりひとときを過ごせる場所がいくつもある。その内このリュクサンブール公園は22ha以上あり、緑も豊富、施設にも恵まれており、いつも小綺麗で、ベンチ、椅子、テーブルも数え切れない程たくさんあるのでサンドイッチ、サラダなどのお弁当にドリンクを持ち込んでピクニックも良いだろうし、またおにぎりなどの日本風お弁当も美味しく感じるだろうな。また、ちょっとしたカフェテリアや売店でガレット、クレープ、アイスクリームなど販売しているので家族で、あるいは友達同士でワイワイもいけそう。

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週末の遅い朝ごはんはブランチ(朝昼兼)がオススメであるが、公園でよく見かけるのがカップルでコーヒー、ジュース、パン、バターにヨーグルトやジャム、それからコンポートにチーズなんかどっさり持ち込んで、元リュクサンブール宮殿やオランジュリー(温室)を背景に、椅子とテーブルを陣取って高級ホテルの朝食気分を味わってだらだら過ごすのも乙な物かもしれない。

そうだ、ここでのひとときを演出するのはあなた次第。こんなものもある。パリで現在存在するメリーゴーランドの中で一番古いのは(何と19世紀のもので、設計したのはあのオペラ・ガルニエをも設計したシャルル・ガルニエである)ここ、リュクサンブール公園にあるのである。残念ながら大人は乗れないけれど。

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テニスしたり、太極拳したり、勿論ジョギングしている人も多勢見かける。もう少し待って春になればミニ植物園なと花がいっぱい。また、広々とした中に木々の緑や深々とした香りに包まれると自然によるテラピー効果で癒やされる。健康を独り占め出来そうだ。

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しかしながらこの公園の素晴らしさはそういった役割りだけではない。パリの歴史も詰まっている。1612年に公園は開園し、その後アンリ4世のもとへイタリアから嫁いで来たマリー・ド・メディシスによって1631年に改築されたリュクサンブール宮殿は現在では(1799年以来)フランス元老院の議事堂となっている。ルーヴル美術館のリシュリュー翼にあの24枚のルーベンスによる大作、<マリー・ド・メディシスの生涯>が展示されているが、元々はマリー・ド・メディシスが自らの栄光を描かせたもので、 リュクサンブール宮殿に飾るためであった。迫力満点すぎて、特に最後に息子のルイ13世と仲直りしているシーンでは母親の偉大さを表すために、縦にも横にも息子よりかなり大きく描かれているのはすご〜く不思議。他にも見応えたっぷりなのでルーヴル美術館に行かれる際はオススメ。展示室に入るとゆっくり座っていられるし、ただ大雑把で良いので、24枚のストーリーや絵の中でどれが誰か位予習しておかれると、さらに楽しめる事請け合い。まあ、この展示室に来たらリュクサンブール宮殿、 そして広大な庭を思い出して欲しい。部屋を出て更に奥に進むと小さなフェルメールの絵が2点、右手にあるし。

また、リュクサンブール公園と言えば19世紀には ヴィクトル・ユーゴとの深い関わりが思い起こされる。先ずは彼がこの界隈でかなりの期間暮らしていたと言う事、結婚式は近くのサン・シュルピス教会、また、この公園が彼の名作<レ・ミゼラブル> の一部の舞台になった、そして現在はやはりこのすぐ近くのパンテオンにて安らかに眠っている等、繋がりが深いのである。

その他この公園で凄いのは106体ある彫刻。<自由の女神>像をはじめとして、ドラクロワやショパンなど、またフランス女王、神話の中のワンシーン等 ヴァラエティに富んだ内容の作品が至る所に置かれているので見ているだけでも飽きないし、椅子をその近くに置いて画家気分でスケッチするのも良いのでは。

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実際、画家達にとっても格好の仕事場であったに違いない。結構多くの画家が題材として選んでいるが、その作品の中からここで私は3点チョイスした。リュクサンブール公園を忠実に描き表している画家は他にいるが、この意外な3人の画家達の作品はそれぞれの個性がでているので私個人としては興味深い。


①ゴッホ

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ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ         リュクサンブール公園の遊歩道         1886年                    クラーク・アート・インスティテュート


新緑の木々の輝かしさから、初夏のイメージがハッキリと伝わってくる。一見単調な感じがするが、人物や遠くに見える建物群の丁寧な描写が他にはない特徴を的確に表している。ゴッホは1886年2月から1888年2月までパリに滞在していたが、その間印象派の新しい傾向についての情報収集を積極的に行い、また1886年の印象派最後のエキジビジョンにも出かけた。同時に、少し前から興味のあった浮世絵などについてもより研究を進めていったのはこの時期であった。さらに多くの画家達との交流を広めていった時でもあった。充実した時を過ごした、貴重な時期であったに違いない。その後彼はアルルに移動しており、画法やスタイルなどガラッと変わっているが、このパリ時代で学んだ事が役に立っているであろう事は間違いない。


②ルノワール

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ピエール・オーギュスト・ルノワール      リュクサンブール公園にて          1883年                    個人所蔵

上のゴッホの作品と比較するものではないだろうが、まずは構成全体に比べて人物の占める割合が大きいこと。特に女の子の表情がはっきり描かれていて、何を言っているのか想像するだけで楽しめる。また、全体の色彩の明るさ、黒色を使う事によって主人公達がぼやけずにバランスよく引き締められている。人々の日常感はよく出ているが、リュクサンブール公園というイメージが薄いような気がしなくもない。ルノワールは敢えてそこ迄意識せずに当時のパリの近所の公園でくつろぐ上流階級の住民の様子を描きたかったのかもしれない。独特の暖かさはまさにルノワールの特徴だ。


③ルソー

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アンリ・ルソー                リュクサンブール公園のショパン記念碑     1909年                    エルミタージュ美術館


実際に最近撮った写真を見てみよう。

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ルソーが描いた場所に出来るだけ近くと思ったのだが、周りも、また彫刻自身も修復後であり、ピンと来ない部分があるが、こうしてみるとルソーの仕事ぶりがよくわかって面白い。ルソーはむしろパリ植物園などを描いていたそうであるが、ここでも木の幹や葉っぱの表現の仕方に彼なりのこだわりが感じられる。人物のうちの特に白いスーツの男性と濃いオレンジ色のスカートの女性は彫刻に見入っている様であるが、現在でもこのショパンの彫刻の近くにいつも5つ6つの椅子が置かれていることがある。ショパンを眺めながら数人で話し合ったりしたのであろう。

今回紹介しきれなかったものがたくさんある。先ずはリュクサンブール美術館。そしてメディシスの泉は現在工事中だったので写真が撮れなかったが、完成すると今までとまったく違うものになりそうだ。彫刻も、ほとんど話していない。それだけこの公園は偉大で、一度は訪れて欲しいところである。

この公園が大好きだった先輩とこう言った話しが出来たらよかった。或いは先輩の口からどんな展開の内容が聞けたかと思うと誠に残念でならない。この公園はとてもパリらしさが溢れており、私でさえも何かしらの一種の愛着を感じる空間なのである。公園とは、奥の深い何かを感じさせてくれるものと言っても決して言い過ぎではないし、その街の顔と言えると思う。

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