フランにご用心
食べる事に関して好き嫌いは無し。
特にスィーツは何でも大好き、と公言する私がフランスに来て以来イチ時期すっかりご無沙汰していたものがある。
フランである。
それまでは、いや、その時まではそんな事思った事は決してなかった。
今までフランとはサクっとしたタルト生地にカスタードプリンの様なものが入っていて上に焦げ目がついている素朴なお菓子のことを言うのだと思っていた。
カスタードプリンは大好きなのでフランスで暮らし始めたばかりの時は探した。
フランスではその名を<クレーム・カラメル>と言うのであるが、スーパーマーケットにあっても、あまり美味しいとは思えなかった。私が期待しすぎていたのだろうか?
パリに引越してから初めて美味しいものと出会えたが、今ではその店のオーナーが代わってしまっていて、クレーム・カラメルはもうない。15区のお菓子屋であった。あの『つるん』として滑らかな舌触りは他ではなかったので残念。
さて話しを戻すと、私は暫くの間そのクレーム・カラメル感覚をフランに求めていたのだ。フランは決して私を裏切らないどころか、あのサクッとしたタルト生地と一緒に口に入れると益々の何とも言えないリッチな気分に包まれるのである。完全にフランを信頼していた。
プレーンなフラン・ア・ラ・ヴァニーユ、これは贅沢な黒いつぶつぶヴァニラが決め手である。ヴァニラ・エッセンスでは代用出来ない。ケーキ屋で陳列されている中でも値段は他に比べてお手頃で、そう、エクレアみたいな庶民的な感じ。ミルフィーユやモンブランみたいにお上品で、その割に上手く食べられなくてなんて言うことが多いケーキとは違う。
とこらがその日はやって来た。
いや、まさか私の身の上にそんな事がやって来るとは思わなかった。あんなに気をつけていたのにもかかわらず…。
人生ものを食べる回数、そして量は限られているのだから残された人生美味しいものだけを食べよう。決して不味いものは食べないようにしよう。
なのに私は食べてしまった。
その時お腹がすいていて、しかも甘いものが食べたかった。時間が遅く、そのケーキ屋しか営業していなかったし、その店の中で選べるケーキの種類も限られていた。
「フランだけは私を裏切らないよね…。」なんて甘い考えのせいで今までも人生痛い思いをしてきたのに、人間死ぬまで失敗の繰り返しは免れないものだ。
家に帰って包装を外してさっそくフォークを入れる…、「なんだ、この弾力は?」そして続いた言葉は「不味い!」であった。生地はともかく、中身がゴムのようなのだ。ショックから立ち直れなかった。
それから暫くはフランから遠ざかってしまった私であった。もちろん大多数のフランはそんなではないと知りながら…。
つい数日前にインターネットでこんな記事を見つけた。「以前はパリでもよく中身が硬い噛みごたえでタルト生地がシナシナなフランがたまにあった」と。それらのことをゴムのような噛みごたえという表現を使って書き表していた。
よく読むと、それは工場での大量機械生産のせいと書いてある。
はあーなるほど、やはりフランでも何でも手作りでなくては美味しくない。
しかも酷いのになると、そんなのが売り切れるまでショーケースに残っているのだから…。
納得。皆さん、パンやお菓子を買うならやはりそういうのは避けよう。
ではどうやって気をつけたらいいのだろう?
例として、いつも近所で申し訳ないのだが(そのぶん観察しやすくて評判も耳に入ってくる)、実はパンやケーキが美味しくて、テレビ番組のコンクールでも優勝した店が近所にあり、そこのフランやキッシュも人気である。
販売店のすぐ横にアトリエを持っていて、出来立てをすぐに店舗に並べる事が出来るのだ。
そこの4〜8人分のフランはやはり美味しい。写真を見ると表面の焼き具合も様々で、早い時間に行くと(撮影の日は午前10時頃)選べるところがまた良い。最初はあまり焼けていない方が良いかなと思っていたが、これがどうして、下の方の良く焼けているのもいい感じだ。これってわざと?とにかく自分の見る目を信じて、絶対妥協してはいけない。たとえ怪しいヒトという目で店員に見られても。
さて、おまけとしてフランのヴァリエーションをご紹介。
① そもそもフランの始まりはローマ時代からだそうで、なぜならその頃から既に鶏卵の生産が始まっていたから。
ただし当時は甘くないフランが中心で、野菜や魚等を中身の材料と合わせて使用していた、いわゆる惣菜みたいなものであった。甘くないフランは現代でも存在している(ほぼキッシュのようなもの)。
② 甘いフランに関しては、現在でもお菓子屋さんによってプレーンのフランの他に杏やココナッツ入りがあって、これが断然イケる。
③ ブルターニュ地方には<ファー・ブルトン>といってフランの中にプリューン入りがある。
プリューンが柔らかいのでフラン生地が多少固くてもイケる。
④ リムーザン地方には<クラフティ>という産物があるが、これはサクランボ入りである。
こうして考えてみると、材料は卵、ミルク、砂糖などと基本的なものだし、手作りでオリジナリティを楽しんでは?
ただし中の生地がゴムにならない様に気をつけよう。
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