今日はだれに会おう
2泊3日で、東京に行ってきた。
初日の夜だけ予定がなかったから、「誰かに会いたいなぁ」と、ぼんやり考えていた。20代〜30代のほとんどは東京に住んでいたから、会いたい友だちや親戚はたくさんいる。
しかし結局、近しい友人ではなく、中学時代の同級生である、T君を夜ご飯に誘った。彼とは同窓会のときに話すくらいの仲。Facebookでつながっていたので、DMした。
突然の誘いにも関わらず、即OKの返事。ホテル近くの居酒屋で会うことになった。
なぜ、T君だったのか。それは、どうしても聞いてみたいことがあったから。
「なぜ、ずっと演劇を続けているの?」
「中学時代は運動部だったよね?いつから演劇に興味があった?」
「これからどうなりたい?夢や目標はある?」
「最近、町のお店を投稿しているけど、どんなきっかけで?」
書くことを学ぶほど、「何かに夢中になっている人」がうらやましいと思う。伝えたいことがある人の文章は面白いし、読むと心が動く。
私が知る限り、T君はずっと演劇をやっている。そんなにも夢中にさせる「演劇」の魅力って何だろう。T君の心に、演劇への情熱の種はいつからあって、どんな風に育ったんだろう。
東京・大井町の居酒屋さんで、久しぶりにT君に会った。もう40代後半なのに、彼は中学校のときの面影そのままだ。恥ずかしそうにニヤッと笑う彼の顔を見て、私は「変わらんねー」と嬉しく声を上げた。
立て続けに質問する私に、T君はじっくり考えながら答えてくれた。
1時間半ほど語り合って、ずいぶん彼への疑問が解けた。私の近況報告もして、夜9時前にはお開きした。
ホテルに戻った私は、温泉につかりながら、T君との会話を思い返していた。
「なんか、しっくりこない……」。
それが、20年も演劇を続けられている理由?それだけ?そんな疑問が沸いたとき、T君がこう言ったのを思い出した。
「中学校の文化祭で演劇をやって、楽しかった」
そうか。私にも、思い当たることがあるなぁ。
小学校のとき、マンガを描くのが好きだった。友達と交代で、大学ノートに数ページずつマンガを描いていた。ノートがいっぱいになったら、ノートとノートの背表紙をテープでくっつける。最終的には厚さ5cmくらいの、オリジナルの「マガジン」ができあがる。読者はクラスメイト。みんなが回し読みして喜んでくれた。続編を急かされたりして、人気マンガ家になった気分だった。
いい気になって、イラストの描き方を友だちに教えたりもしていた。点線をなぞるだけの、ワークシートをつくったり。
あのときのモチベーションは、マンガを読んでくれる友だちだった。「この時間が、何の意味になるか」なんて、考えてもいなかった。マンガを描いている時間、読んでもらっている時間、ただ楽しくて嬉しかった。
中学生になると、時間はすべて勉強に使うようになった。成績を上げて、望む高校や大学に行きたかったから。大人になったら、時間の使い方の基準は、「意味あるか、ないか」になった。
そうやって生きてきたから、何かに夢中になるのが難しい。何かに夢中になっている人の話を聞きたかった。
楽しいからやる。喜んでもらえるからやる。これって、めっちゃ本質的で、めちゃ尊いんじゃないか?
私にも、そんなときがあったんだ。T君に会えて、「私の心にも尊い部分が、どこかに隠れているかも」と、思えた。わずかな希望に、嬉しくなった。会えて、話せてよかったな。
……のぼせてきたので、そろそろ上がります。
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