見出し画像

娘とふたりで初詣。神様に報告した事。

最長で9連休となった今季の年末年始は、
ある意味僕にとっては地獄のようだった。

不倫妻を家庭に持ちながらも、夫婦の問題に娘を巻き込むまいといつも通りのコミュニケーションを心掛けるのはかなりのカロリーを消費する。

それが平日であれば、
日中は仕事をしているし朝と夜だけでいいわけだが、
冬休みともなると日がな一日気苦労の絶えない毎日が続く。

もはや僕は家庭ではなく、時代錯誤な過重労働の職場に安息を感じていた。


お正月にはどこの家庭も、夫婦どちらかの実家に帰省するものだろうが、
うちは妻の実家が色々と訳ありな為、家族みんなでお邪魔するというような状況ではなかった。

僕の実家はというと、両親はすでに他界しており、
少し年の離れた姉がいるものの、彼女も遠くへ嫁入りしてしまった為すっかり疎遠になっている。

僕の家庭には朗らかな「実家」というものがない。

孫に甘々な祖父母。
こたつに集まってみんなでやるトランプ。
いつもよりいいお肉を入れた鍋をつつきながら親子で乾杯。

みたいな、ステレオタイプの実家を夢みたりもしたが、ないものはない。

長期休暇のたびに少し足を伸ばして家族で旅行に行ったりもしていたが、
夫婦関係が未解決のままどこかへ出かける気にもならなかった。

とは言え、まだ小さい娘との貴重な日々をこのネガティブな空気のままやり過ごすのは、
娘の将来にとっても良くない気がした。

僕は娘を連れて日帰り旅行に行くことにした。
少し足を伸ばして、隣の県の有名な神社へお参りすることにした。

妻には、「その間好きにしてていいよ」と告げて僕らはふたりで車に乗り込んだ。

「なんでママは来ないの?」と聞く娘に、
「体調が悪いんだって。」とだけ答えた。

道中、娘が退屈しないようポケモンの動画を見せていたが、
あまりに長い渋滞の中で、動画にも飽きてしまったらしい。
タブレットでYouTubeを垂れ流しながら、窓の外を眺めていた。

「パパはママと喧嘩してるの?」
窓から目を離して僕に顔を向けると、おもむろにそんな事を聞いてきた。

娘ももう、気がついていた。
当然と言えば当然で、僕ら夫婦は以前にも増して家庭内での会話を減らしてしまっていた。

「リコンするの?」

リコン、という言葉が娘から飛び出るとは思わなかった。
どこで覚えたんだろう?

まさか妻が何か言っていたのだろうか。
苦笑いしながら娘に聞いた。

「なんで?ママが言ってたの?」

「仲悪いとリコンするんだよ。」

僕の質問に答える事なく、娘は謎の持論をぶつけてきた。

「仲が悪くても離婚なんてしないよ。
離婚したら○○(娘の名前)とパパは一緒に暮らせないんだよ?」

「そうなの?
でも、いつもみたいに朝は会える?」


当然だが、娘は離婚の意味をわかっていなかった。
そして、娘にとって僕は、朝にしか会えない存在だった。


「パパがもっと早く帰ってきて、
一緒にお風呂入ったりご飯食べたり出来たら嬉しい?」

離婚の話を逸らしつつ、僕は今まで怖くて聞けなかった質問を娘に投げかけた。

「うん」

迷う事なく頷く娘は、僕と会話しながら垂れ流しのポケモンを見ていた。



実は、僕は昨年末に決めたことがある。
僕は今年転職する事にした。

妻との関係をどうしたいのか。
それはまだ分からない。
それこそ離婚も選択肢にいれつつ、お互いの考えや方向性をすり合わせて行かなければならない。

でも、いずれにせよ、今の過重労働の環境ではなにも前に進まない。
もしも今回の妻の不貞に僕の過重労働が一つの要因になっているのだとしたら、
それを是正してからでなければ対等に話もできない。

そして、僕にとって何よりも大切なのは子どもだ。
この子を守りたいと強く思う。
この子にひとつでも多くの優しい思い出を作ってあげたい。

僕はある意味、ネグレクトだった。
妻に全てを丸投げして、働くことが家族を守ることだと思っていた。
いや、思おうとしていた。

もう逃げちゃいけないんだと思う。
現実逃避の過重労働は僕を幸せにしてくれない。

まずは職を変えて、環境を変える。
家庭に向き合える自分を作るんだ。

その結果、離婚するならそれでいい。
子どもが妻に連れて行かれても、それでもいい。

もう手遅れだろうと、歪ながらも作り上げてきたこの家庭に、
もう一度しっかりと向き合う事でしか、
納得できる結末は迎えられない。

できる事をひとつずつ積み上げていくしか、
今の僕にできる事はない。


娘とお参りして、神様にそんな事を報告した。

帰り道、イチゴ飴を食べながら娘は寝てしまった。

妻には、ベビーカステラをお土産に買って帰った。

いいなと思ったら応援しよう!