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職務著作

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 2004年1月30日、東京地方裁判所は、中村さんが職務上発明した青色発光ダイオードの特許を受ける権利を日亜化学工業に承継させた対価、つまり、特許権の取得により当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)として、被告会社の独占の利益1208億6012万円に発明者の貢献度50%を乗じた604億3006万円(ただし、1万円未満切り捨て)を認定し、日亜化学工業に対し、中村さんの請求した一部金である200億円の支払いを命じました。

 この訴訟は、2005年1月、控訴審である東京高等裁判所で遅延損害金を含む約8億4000万円を支払うことで和解が成立して終了しました。

 この事件を見て、当時弁護士4、5年目だった私は、代理人はいったいいくらの報酬金をもらうんだろうと気になって仕方ありませんでした。訴訟活動の方には全く興味がなかったという・・・今なら、訴訟活動にも大きな関心を寄せられますので、ずいぶん成長したもんです。

 この訴訟では、特許権が問題となりましたので、発明者である中村さんに会社がいくら支払うべきかが争点となりました。

 しかし、これが著作権だと扱いが変わってきます。

職務著作の概要

 職務著作というのは、会社等の業務に従事する人がその職務上作成した著作物について、雇い主である会社等にその著作権と著作人格権を認めるものです(著作権法15条1項)。

 職務発明の場合は、会社が発明者となることはなく、あくまでも発明という事実行為をした労働者が発明者として扱われます。

 これに対し、職務著作の場合は、その著作という事実行為をした労働者ではなく、雇い主である会社等が著作者として扱われます。

 そして、職務発明の場合は、発明者には発明に対する相当利益を請求する権利が保障されますが(これが中村さんが日亜化学工業に請求したもの)、職務著作の場合はそのような権利は保障されていません。

職務著作の要件

 職務著作になるための要件は以下の5つです。

① 法人等の発意に基づくものであること
② その法人等の業務に従事する者が作成するものであること
③ 従事する者が職務上作成する著作物であること
④ その法人等の著作名義で公表すること
⑤ 作成時において契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

 発明は、発明者の独自のアイデアを形にしたもので発明者個人の功労によるところが大きいのですが、著作物は、例えば従業員が会社の指示で作成した文書であって高度の独創性がなくても書いた人に著作権がある、というのが原則なので、職務著作の制度がなければ業務上作成した文書についていちいち会社と書いた人との間で権利処理をしないといけないことになってしまいます。

 それでは、会社は、従業員の力を使って経済活動をすることが難しくなってしまいます。

 そこで、法人等の取締役会、代表取締役、指揮監督権限を持つ上司等の指示で、従業員等(役員も含む)が職務上作成した著作物については、最初から法人等が著作者になることとされているのです。

高度な創作性のあるものには敬意を

 とはいえ、中には、会社の指示で研究論文を書くようなこともあるでしょう。

 そのような研究論文も、法律上の職務著作に該当するものであれば、会社が著作者となります。

 しかし、その論文の功績が称えられ、会社に利益をもたらすようなことがあれば、会社としては実際に執筆した従業員に相応の敬意を払うことが大切ですね。これは法律の求めるものではありませんが、従業員にさらなる創作を促すためには必要なことだといえるでしょう。

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