契約ではどうにもならない関係(労働基準法の強行的効力)
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
今日は、労働基準法の“強さ“について、です。
労働基準法は、当事者間でその内容を変えることができないほど強く、その定められた内容がそのまま労働契約の内容になってしまうほど強いのです。
労働基準法の定め
労働基準法には、以下の定めがあります。
(この法律違反の契約)
第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
労働基準法の定める基準に達しない労働条件を定めても、その基準に達しない条件は無効になります(強行的効力)。
無効になったら、その部分について条件がなくなるのではなく、労働基準法で定める基準が当事者間の労働条件になります(直律的効力)。
このように、労働基準法は、強行的効力と直律的効力を持つ、かなり強い法律なのです。
たとえば、労働時間の規制や賃金の支払い方(毎月1回以上の定期払い)などは、強行的効力を持つ典型的な強行法規です。
また、労働基準法以外にも、労働関係法規には、労働者の権利を守るために強行的効力を持つものがあります。
パートタイム・有期雇用労働者法
例えば、パートタイム・有期雇用労働者法には、有期雇用労働者と正社員の待遇に、不合理な違いを設けてはならないことが規定されていますが(パートタイム・有期雇用労働者法8条)、これも強行法規であるとされています。したがって、有期雇用労働者を正社員との間で不合理な違いを設けることは、たとえ当該有期雇用労働者が了解していたとしても、無効となります。
しかし、具体的にどのような違いが不合理なのか、どうすれば合理的になるのかについてまでは、法律には規定されていません。
したがって、具体的な判断をするに当たっては、裁判例を参考にすることになります。
昨年10月に立て続けに出された最高裁の判決(大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件)は、賞与、退職金、扶養手当、有給の夏期・冬期休暇、年末年始の勤務手当について、契約社員と正社員との間で差を設けることが合理的かどうかについて判断していますし、それまでにも、ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件という有名な判例もあって、そういう判例の集積によって、どのような違いが不合理な扱いになるのかが明らかになってきています。
ただし、パートタイム・有期雇用労働者法には、直律的効力を持つ条項がありませんので、同法に違反したことで無効になった労働条件については、改めて同法に違反しない条件を策定し直す必要があります。
その際には、『同一労働同一賃金ガイドライン』を参考にしてみてください。
脱法行為には注意
法律に反しなければいいという単純な話ではないことには注意が必要です。
脱法行為とみられるような場合には、法律違反として無効になります。
例えば、管理監督者には労働時間・休憩・休日に関する規制の適用がありません(労働基準法第41条2号)。
しかし、日本マクドナルド事件で、名ばかり店長の管理監督者性が否定されたことがあったように、「君は今日から管理監督者だからガンガン働いてもらうよ。残業代もつかないよ。」と言ったとしても、実際のところは管理監督者とは名前ばかりで一般従業員としての職務と変わらないことをさせているなら、脱法行為であると認定されて、残業代の支払いを命じられることになってしまいます。
実直経営だけでは・・・
まじめに経営しているつもりでも、法律や裁判例を知らなければ痛い目に遭います。
是非とも、信頼できる弁護士と社労士のダブル使いで、トラブル知らずの経営をしていただきたいです。