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11. 《interview》 次世代教育に励むトロンボーン奏者:ヨナタン・ヴォルチョク 前編

高校のジャズ専科を卒業し、世界を目指してNYに向かう。それがイスラエルのジャズメンにとっての王道だ。そして、その道を歩んだのち、イスラエルに戻り次世代の育成に励む人たちがいる。豊富な経験に基づく質の高い教育が、新たなジャズメンを生み出していく。次世代育成に励む教育者達のなかでも若手で、様々な挑戦を続けるのがトロンボーン奏者ヨナタン・ヴォルチョク(Jonathan Volchok)。ヨナタンの展望を聞いた。

ーー教育に関わってどのくらい? 学校では何を教えている?

教育に携わるようになってもう11年くらい。現在はアンサンブルと即興のことを教えている。
NYからイスラエルに戻って以降、テルマ・ヤリン高校コンサバトリアムリモンでも教壇に立っている。(いずれもジャズを学べる代表校で、テルマ・ヤリンは芸術系高等学校。コンサバトリアムは高卒以上でNew Schoolとの共同課程を、リモンは高卒以降でバークリーとの共同課程を有する。)

ーー教育に関心を持った経緯を教えて。

自分が高校生(テルマ・ヤリン)の時、NYから帰って来た先輩たちがいた。アミット・ゴランエレズ・バルノイユバール・コーエンアモス・ホフマンといった人たちなんだけど、彼らがNYで得たものを教え続けてくれた。(※アミット・ゴランとエレズ・バルノイはイスラエルのジャズ教育を築いた代表的な二人、それぞれ若くして他界。)そのおかげで自分たちは刺激を受けたし、技術的なことだけでなく、アーティストとしての姿勢を学ぶことができた。自分も自分の経験から教えられることを次世代に伝えていきたいと思うようになった。

ーーどんなことを特に伝えたい?

ジャズは自分にとってリズムや楽器で成り立つ単なる音楽ではなく、もっと深いもの。一番大事なのは「自分と音楽との関係」。みんなそれぞれ、音楽との独自の関係がある。知識など他のものはあとからついてくる。自分が音楽にどう関わるか、その問いは難しいけどとても大切なこと。

ーー近年力を入れているビッグバンドを始めた経緯は?

ビッグバンドのプロジェクトは2年半くらい前に始まった。以前自分がNYにいた時の、ディジー・ガレスピー・オールスター・ビッグ・バンド(Dizzy Gillespie All Star Big Band)、ロイ・ハーグローブ(Roy Hargrob)といった大物アーティストのビッグバンドで演奏をした経験から、テルアビブでもビッグバンドをやりたい思いがあった。コロナになり、試しに5,6曲をビッグバンド用に自分で編曲し、実際に演奏してみたらとてもいい感触があった。(それで一緒にNPOを運営しているヤエール(Yael Hadani)に相談した。)

それから毎月アムディーム(ベイト・ハアムディーム)で演奏するようになり、シャイ・マエストロとジャズクラブシャブルールでも演奏し、回数を重ねながら短期間で広がった。そして、1年ほど前にコンサバトリアムからビックバンドを広げる活動をしないかとのオファーを受けて、教育と兼ねて活動するようになった。2年前は12人だったメンバーが、今は18人になった。

このビッグバンドで面白いのは、学生が入っていること。コンサバトリアムのNew Schoolプログラム(※コンサバトリアムで2年、その後NYのNew Schoolで2年学び学位を取得できる課程)の生徒が、彼らにとっては憧れのドラマーのオフリー・ネヘミヤやピアノのヨナタン・リクリスと一緒のステージで演奏する。海外から大物を呼ぶこともあるから、完璧ないいサウンドが求められる。学生たちはそれにちゃんとついてきて、教室では学びきれないことを身につけ成長している。自分も学生たちもとにかく日々学んでいる。何より適度なプレッシャーが能力を引き上げることがある。自分がNYでビックバンドに入っていた頃は21歳だった。隣に座ったスライド・ハンプトン(Slide Hampton)やスティーブ・デービス(Steve Davis)からは多くを学んだ。隣の人が30年以上のキャリアの人、という事実だけでも十分。適度なプレッシャーがあって、いい影響を受けられる。

ビッグバンドをはじめたかったのは、そんな経験があったから。いろいろなジェネレーションの人たちが集まって、互いに学び合える。メンバーにはかつての自分の教え子もいる。当時12歳だった彼女から今では教わることもある。そういう世代を超えた学び合いができるのがビッグバンドの素晴らしいところ。

ビッグバンドでは指揮者でもあり、時に演奏もする。

ーーソロやトリオの作曲とビッグバンド用のアレンジは違うと思うけど。

自分には決まった方法論があるわけではなく、トライアンドエラーでアレンジをしていく。はじめに、楽器が違ったらどのように聞こえるのかいろいろ試してみる。それから管楽器を3本か4本加えて、ソロの弦楽器、時にヴォーカルも入れて、というふうにサウンドを作っている。

今年は5回ほどゲストミュージシャンを招いた。必ず一曲はゲスト自身の曲をアレンジして演奏するようにしている。バンド用に改めて作り出すというのは、白紙の楽譜から、音楽がうまれるということ。そうして生まれた曲をゲストとメンバーみんなが演奏することが自分には夢のように感じる。

ーー作曲はどこで勉強した?

しっかり作曲するようになったのはテルマ・ヤリン高校の時。高校時代は一番好きなことが作曲だった。いまでも作曲は続けているけど、いつも難しさは感じている。演奏は終わった瞬間に消えていくけど、作曲したものはずっと残るものだから。

ーートロンボーン奏者だから吹奏楽器がベースにある?

ジャズだから、リズムセッションが基本で一番大事。リズムセッションが不十分だと、管楽器がよくても音楽がよくても満足できるものにはならない。ドラムのオフリー・ネヘミヤとは長く一緒にやっていて、彼がドラマーというのは恵まれている。ベースはオーレン、ピアノはヨナタン・リクリスで、彼らとはカルテットでも一緒でとても相性がいい。

ーービッグバンドで大事なことは?

デュークエリントンがこう言っている。「ビックバンドでうまくやる秘訣は、他のメンバーたちのために演奏すること」
自分の経験でも、バンドの一員であることを考えることがビッグバンドで必要なこと。自分の音を出していくことは大事、だけどそれがバンド全体にとってどうなるかを考えることはもっと大事だと思っている。

あと、指揮者としてビッグバンドを率いるときに考えているのは、自分がメンバーたちのいい原動力となること。

ーーNPO活動についても教えてほしい

イスラエルのジャズ活動を応援しているヤエール・ハダニとパノニカ(Panonica)というNPOを立ち上げて活動している。基本的な目標は、イスラエルのジャズをサポートすること。ビックバンドもその活動の一つで、アーティストとオーディエンスの両方を盛り上げていきたい。大きな会場を手に入れることも目標の一つ。また、第一線のアーティストからマスタークラスを受けたり、個人レッスンを受けたりする奨学金制度もある。将来的には、イスラエルジャズを世界にプロモートするためのフェスティバルのようなものも企画したい。

ーー財源を確保することは大変ではない?

ほとんどはボランティアで、ヤエルと自分が持ち出し。サポーターもボランティアで、時に資金集めの活動もしている。

後編に続く


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