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アイ・メイク・ユー・贅沢で完璧なラブソング

ついにこの曲と対峙する時がきた。楽曲が偉大すぎて向き合うことが出来なかった翔くん初のバラードナンバー「アイ・メイク・ユー」。ずっとこの曲について書きたいとは思っていた。なかなか重い腰が上げられず、この曲に触れることができなかったが、いよいよチャレンジしてみようと思う。

翔くん曰く、この曲はデビュー当時からあったそうだが正確にどの時期に作られた曲なのだろう。解散前に満を辞してリリースしてきたこの曲。初めて聴いた時の感想はただ一言「やられた…」だった。だってもうこれ反則級の曲ですもん。翔くんの男らしいしゃがれた声で歌い上げるこの曲は男でも心を鷲掴みにされる。

この曲通して一貫して流れる雰囲気はどこか寂しげなところ。まるで別れた女性に向けて切ない男心を歌っているように感じるが、歌詞をよく見てみると…別れてないじゃん。しっかり付き合ってる恋人へ「オレが帰るまで待っててくれよ」と翔くんの自分勝手全開で女性を悲しませている一方的なラブソングではないか。

ひとりぼっちで女性を部屋に待たせる翔くんは男っぽいし、いつ帰ってくるかも分からない翔くんを待っている女性もまた翔くんに惚れ込んでいるのが分かる。なんとも人たらしな翔くんなのであった。

冒頭で翔くんが語っているが、「男が船なら女は港。そう、男はいつも夢を追いかけて、どこまでもどこまでも行ってしまう。女はいつもそんな男をハラハラしながら、そしてそんなに男を夢中にさしてしまう夢みたいなものにちょっぴり嫉妬しながら、それでもずっと待っている。二人きりでいるために恋をしたのに、いつもひとりぼっち。だけど、分かってほしい男の気持ち」なんである。

この曲が作られた正確な時期が分からないので、翔くんが恋人を放っておいてまでハートを燃えさせて熱くなれるものはなんだったのかは分からない。個人的には横浜銀蝿のレコーディングやツアーなどでなかなか家に帰れない状況を想像する。そしてテレビやラジオで横浜銀蝿の曲が流れたら俺のことを思い出してくれと言っているような気がする。

ロックンロールだけではなく、クルマや仲間に夢中になる翔くんのことだ。もしかしたら横浜銀蝿の活動以外のことで家に帰れないということも想像できる。それはそれで翔くんらしくて面白い。

部屋で待つ女性も大切だったが、心を熱くするロックンロールやクルマ、そして仲間が翔くんをアクティブにし、自分が夢中になる方向へと向かってしまう。ある意味この曲は、翔くんのカッコ良さを表している。恋人ができると仕事や趣味、仲間をおろそかにする男がたまにいるが、翔くんは絶対にそんなつまらない男ではない。また、恋人に対しての申し訳なさを含んでいるところがまた良い味となっている。

オレはあまり歌詞カードを読まないタイプで、特に中学生の頃はサウンドとルックスの格好良さが重要で歌詞の内容は二の次だった。だから、この曲を聴いた時は、歌詞の内容など考えもせず、なんとなく別れた恋人を忘れられないセンチメンタルな歌だと勝手に思っていた。「俺の唄を聴いた時に 思い出して笑って」なんて、まるで翔くんが死んでしまっているかのような表現だなぁなんて当時中学生のオレは考えていたりもした。そんな切ない空気感がこの曲にはあるような気がしたのだ。大人になって歌詞の内容を意識するようになるとこの曲での翔くんの人たらしの夢追人な部分が詰まっていることに気づいた。

ではなぜ、歌詞の内容をいまいち分かっていないのに「やられた…」と感じるほどこの曲に惹かれたのか。それはやはり翔くんの歌だろう。絞り出すように出すしゃがれ声が心に刺さるのだ。なんといってもクライマックスはサビの「俺の唄を聞いた時に 思い出して笑って…」の部分のリフレインだろう。あのリフレインを中3のとき初めて聴いて心が震えたことをはっきりと覚えている。

横浜銀蝿では「ぶっちぎりR」と「ぶっちぎりVII」の2バージョンが存在する。大きく違うのはイントロ、アウトロ。ベースラインも違っている。「ぶっちぎりR」のバージョンの方がリズムはゆったりとしており、「ぶっちぎりVII」のバージョンの方があっさりとしている。細かい部分でいうと「ぶっちぎりR」でのバージョンは曲を通してピアノが効果的に入っていて、「ぶっちぎりVII」のバージョンではピアノの代わりにギターのアルペジオが鳴っている。翔くんの歌はどちらを選べないほど快心のボーカルである。嬉しいことに「ぶっちぎりVII」でもしっかり歌を録り直してある。

「ぶっちぎりR」のバージョンでは、曲が終わって余韻に浸っていると、ボイスチェンジャーで変えた小さな声で「完璧だべ」と一言入っているが、この曲は本当に完璧だ。おそらくレコーディングした時のメンバーの手応えも相当なものだったに違いない。なんと言っても、「ぶっちぎりR」はT.C.R.横浜銀蝿R.S.として解散する月に発売された最後のアルバムだ。そのラストを「アイ・メイク・ユー」で締め、曲終わりで「完璧だべ」というメッセージ。この瞬間にこれまで実感出来ていなかったT.C.R.横浜銀蝿R.S.の解散を実感して涙が溢れた中3のオレなのであった。あの時はひとり部屋のスピーカーの前に正座して聴いていた。これがT.C.R.横浜銀蝿R.S.からの最後のメッセージだと思うと少々緊張すらしていた。あの時の感覚は今でもはっきり覚えているし、感激した気持ちも薄れていない。今でもこの曲を聴くたびに中3の時の空気感が思い出される。


  雨がたたく ガラス窓
  せつない想い胸にしずめて
  Just Lady I make you lonely girl 

  そばにいて やりたいけど
  燃えるハート わかって欲しい
  Just Lady
  Please give me many time

  ひとりぼっちの夜は
  あまりにさみしいけれど
  俺の唄を聞いた時に
  思い出して笑って…

  風が冷たい 醒めた夜
  つらい心 ひとりあたため
  Just Lady
  Why don't you remind me out

  甘い言葉 かけたいけど
  熱い想い 許して欲しい
  Just Lady
  I love you foever

  ひとりぼっちの夜は
  あまりにさみしいけれど
  俺の唄を聞いた時に
  思い出して笑って…

  俺の唄を聞いた時に
  思い出して笑って…


さて、この「アイ・メイク・ユー」は、横山みゆきさんにカバーされているのは有名な話だ。実際のリリースは横山みゆきさんの方が先ではある。

横山みゆきさんのバージョン、これがまたかなり良い。実際にはこのバージョンのレコードは持っていないのだけれど、今でもYouTubeで聴くことができるので、聴いたことのない方はぜひ聴いていただきたい。

歌っている歌詞は横浜銀蝿のものと同じなのだが、翔くんとは違う女性ならではの柔らかさがある。丁寧に一つ一つの言葉をそっと乗せるように歌うみゆきさんの歌はとても伸びやかで、これもまた心に刺さるのだ。翔くんのバージョンでは特にサビが心に刺さるが、みゆきさんのバージョンはAメロのメロディーが心に染みる。

翔くんが歌った恋人へのわがままな気持ちをみゆきさんが歌うとまた違った感じに聞こえるのが不思議だ。翔くんのバージョンよりも寂しげな雰囲気は薄れ、まるで翔くんに対して「好きなことを思いっきりやってらっしゃい」と言っているかのような(実際には言ってないが)、母性のようなもので包み込まれている。聴いていると心が洗われていくようだ。

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翔くんと横山みゆきさん。この2人のシンガーによってこの「アイ・メイク・ユー」は多くの人の心に残る名曲として刻まれた。ラジオ番組「パックインミュージック」で共演し、おバカなことを言って笑わせてくれていたこの2人によるそれぞれのバラード。あのラジオでのキャラクターとはギャップが大きく、またそれがこの曲の良さを引き立て、2人がラジオDJではなく素晴らしいシンガーであることを再認識させてくれる。余談だが、YouTubeで見つけたのだが、どこかのライブで嵐さんボーカル、TAKUアコースティックギターでの「アイ・メイク・ユー」があった。これはなんのライブだろう。嵐さんが歌ってるのが貴重だし、観客の大合唱も泣ける。翔くん不在の時のライブか?

この「アイ・メイク・ユー」という曲は、男目線で語りながらも、女性の寂しい気持ちをとてもうまく表現されている実によくできた曲だと思う。ファンキーなロックンロールでガツンとかましてくれる翔くんの魅力とは違う翔くんの人間としての深さのようなものを感じさせてくれる。翔くんの恋人へのわがままな想いを詰め込んだとても贅沢で完璧なラブソングとして永遠にファンの心に刻まれる名曲なのである。

今回のコラムで銀蝿一家考察コラムは50回目となりました。始めた頃はこんなに沢山のコラムを書けるとは思っていなかった。沢山の人に読んでいただき、このコラムやTwitterでコメントをいただくのが嬉しくて書き続けることができました。50回という区切りを記念に、今まで手を出せていなかった大名曲の「アイ・メイク・ユー」にチャレンジしてみました。読んでいただき感謝しています。少し時間は開くかもしれませんが横浜銀蝿40thの活動期間中はこのコラムを書き続けたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。


青くてごめん。
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