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自由奔放なハイウェイダンサーの世界

レコードのターンテーブルがない我が家ではレコードを聴くことが出来ない。再発でCD化されていないレコードをどうにかして聴けないものかと考えていたところ、レコードをCD化してくれる業者があることを知って早速何枚か銀蝿一家のレコードをCD化してみた。結果的にはお金も時間もかかるんでターンテーブルを購入した方が良かったとは思うが、とにかくここ何十年ずっと聴きたかったレコードがCDとなって手元に届いたことは嬉しい限り。

早速CD化してみたアルバムを全部聴いてみたわけだがとにかく懐かしい!もう40年近く聴いてなかったアルバム達なんで、こんな曲あったっけか?なんて具合にまるで新曲のように楽しめる部分もあって最高だ。逆に歌詞カード見ずに歌える曲も多々あって当時どれだけ聴いてたんだと笑える。

今日はそのCD化したアルバムからJohnnyのファーストソロアルバム「Highway Dancer」について書いてみたい。このアルバムが発売されたのは1983年5月。ソロデビューの「ジェームス・ディーンのように」が大ヒットして、続く「$百萬BABY」はついにオリコンチャート1位となる。とにかくこの頃のJohnnyの勢いは凄かった。テレビの音楽番組にもひとりで出演してもまったく怯むことなく堂々とこなしていて、銀蝿でのJohnnyとはひと味違った頼もしさがあった。

横浜銀蝿の中では翔くんや嵐さんよりもクールで控えめな印象のJohnny。もちろんダントツで人気はあったがこれほどまでにソロで大活躍するようなイメージは湧かなかった。しかし、素肌に革ジャン、時には全身白の衣装など横浜銀蝿でのJohnnyとは違ったイメージを楽しんでいるかのような活躍だった。ソロの時に使っていた白いストラトキャスターに心底憧れて、絶対最初に買うギターは白いストラトキャスターにすると心に決めていた。

そんなJohnnyが満を侍してリリースしたファーストアルバム。タイトルはまさに土曜の夜のハイウェイダンサーJohnnyのイメージそのまんまな「Highway Dancer」。これがもう銀蝿の枠を越えてとにかく自由なJohnnyに出会えることができる最高のアルバムなんである。横浜銀蝿でのカラー写真は使わないという主義を簡単に覆してみせるソロのJohnny。アルバムでは車を運転するJohnnyの横顔がジャケット写真に使われているのだが、これがとにかくかっこいい。アルバムに使われている写真は全て車と一緒というまさに土曜の夜のハイウェイダンサーだ。

シングル曲はアルバムに入れないという主義は横浜銀蝿と同じで、大ヒットした「ジェームス・ディーンのように」「$百萬BABY」、さらにこのアルバムと同時発売シングル「みにくいアヒルの子」も収録されていない。これだけヒットシングルがありながらもそれを一切収録せず、全曲がこのアルバム用にJohnny自身が書き下ろした曲というのは、この時乗りに乗っていたJohnnyの作曲手腕が冴えまくっていたことがうかがえる。

曲調もかなりバラエティに富んでいてとにかく飽きないアルバムだ。疾走感の塊のようなイントロで始まる「Let's do!」はアルバム一曲目としてかなりゴキゲンなナンバーだ。この曲を聴いた瞬間にこのアルバムへの期待は高まる。

  自分の信じた この道だから
  いつでも全開 めいっぱい行くぜ
  遠回りしたっていいじゃない
  寄り道したっていいじゃない
  かんじんなのは 歩き出すことさ

いかにもJohnnyらしい男らしく前向きな歌詞だ。イントロはかなり疾走感があるが、歌に入るとリズムの変化でちょっとゆったりした雰囲気に変わったりしてなかなか面白い。この一曲目でしっかりと聞き手の心を掴むことに成功している。

畳みかけるように始まる二曲目「チェーン・ネックレス」もアッパーなナンバーでまた素晴らしい。「Let's do!」と「チェーン・ネックレス」の二曲を聴くだけでこの時のJohnnyの勢いが感じられるだろう。変な力みが一切なく、完全にJohnnyの世界に連れていってくれている。しかし、本当のJohnnyワールドはこんなものじゃなかった。この後がとにかくバラエティに富んでいるのだ。これは横浜銀蝿でのJohnnyとは全くの別物だ。

疾走感のある二曲に続いて、雰囲気を変えてしっとりと「キャロライン」を甘い声で歌い上げたかと思えば、「恋のOne Scene」では恋人に頭の上がらない三枚目の男を演じる。さらに「太陽のツイスト」では横山みゆきさんとのデュエットで大人なバラードナンバーを歌い上げる。Johnnyの甘い声が冴えまくっている。ここまでくるとソロだからこその自由な表現を楽しんでいるJohnnyの姿に横浜銀蝿のリードギターの看板が、聞き手の頭から離れている。いい意味でやりたい放題だ。

A面が終わったところで一旦歌詞の話に話題を変えてみよう。作曲は全曲Johnnyで、さらに10曲中6曲をJohnnyは作詞もしている。そして面白いのが他の4曲が松本隆先生が作詞していることだ。松本隆さんとは「$百萬BABY」からのタッグとなるが、これがなかなかハマったようで名タッグとなって、まるでJohnnyと松本隆さんの二人でこのアルバムを作り上げたかのように感じるほどだ。

松本隆さんは元はっぴいえんどのドラマーで、作詞家としては近藤真彦や松田聖子の印象が強烈なスーパー作詞家だ。もちろんアイドルだけでなく大滝詠一、南佳孝、吉田拓郎など本当に幅広い作品を作っている人だ。この松本隆さんが「土曜の夜は俺にまかせろ」とか書いてるんだから凄い。これ、Johnnyの作詞だよね?と思うくらい自然にJohnnyらしさを出してくれている。改めていま聴き直してみると、一曲を通して一つのストーリー仕立てで作詞をするJohnnyと作風が似ているような気がしないでもない。おそらくJohnnyと松本隆さんの相性は抜群だったように感じる。

  心を縛る鎖は欲しくないけど
  夜風が編んだネックレス
  銀のチェーンを外したら
  俺の胸にかけてくれ

これは「チェーン・ネックレス」での松本隆さんの歌詞だ。男っぽくてロマンが溢れている。これもJohnnyにはぴったりの歌詞でかなり好きだ。もしかしたら、Johnnyは松本隆さんの歌詞が好きで影響を受けているのかもしれない。それでソロでの作品の提供をお願いしたとか?そう思わせるほど作風が似ているし違和感がない。


とにかくJohnnyの歌詞に込められているのは男のロマンだ。へこたれない気持ち、好きなものへの探究心、そして好きな女の子にはめっぽう弱いといった男には誰にでもあるような世界が詰まっている。

レコードに話を戻してみよう。B面はまたしてもアッパーなチューン「土曜の夜は俺にまかせろ」で幕を明ける。この疾走感がたまらなく好きだ。先述の松本隆さんがこの曲でJohnnyならではの土曜の夜の世界を非常にうまく表現してくれている。

 
  俺たち今夜は主役だぜ
  スポットライトを浴びて
  ハイウェイ・ワルツで踊ろうぜ
  ハイウェイ・ワルツで決める
  俺たちは流れ星さ

  
夜のハイウェイをぶっ飛ばす自分を流れ星と表現するあたりがとにかくかっこいい。Johnnyが表現する男の世界をものの見事に体現している松本隆さん、流石です。

土曜の夜の流れ星となったJohnnyは突然女の子の前に車を止めて声をかける。"ねぇ彼女!ドライブ行こうぜい!"。 軽い。とんでもなく軽い。あのクールなJohnnyをそうさせるこのアルバムはつくづく自由で楽しい、いろんな表情のJohnnyを見せてくれる。この、Johnnyが女の子をナンパするところから始まる「Wa ha ha」では岩井小百合とそのマネージャー長尾たか子さんがJohnnyからの誘いを断るというコミカルなナンバー。この曲では男友達に女の子を落とす技を指南しようと二枚目ぶるJohnnyだがどうしてもうまくいかず三枚目になってしまうというオチ。あれだけ男前なJohnnyが曲の中でたまに見せる三枚目な部分は個人的に好きだ。

繰り返しになるがこのアルバムはとにかくバラエティに富んでいる。続く「You Say ハイ!I Say イェイ!」ではどこかのんびりしたミディアムテンポだ。バックではバンジョーやピアノの演奏で牧歌的なポップソングとなっている。

アルバムも終盤に差し掛かりアップテンポなロックンロールナンバー「いかしたRock'n Roll Party」へ。お世辞にも上手いとはいえないJohnnyの英語でのコールから始まり、いかしたパーティーの盛り上がりでエンディングへ。B面では同じタイプの曲がないというJohnnyの作る曲の幅の広さを証明してくれる。この「いかしたRock'n Roll Party」のフェードアウトするエンディングでこのアルバムが終わっても十分すぎる内容だがこのアルバムの凄いところは最後に「88の星座」が用意されているところだ。いろいろな表情を見せてくれたJohnnyだが、最後に全てを持っていってしまうくらいの名曲でエンディングを迎えるなんて、本当によく出来たアルバムだ。

この「88の星座」はJohnnyの作る曲によくあるパターンのイントロですでに名曲の匂いがプンプンに漂っている曲だ。曲の作りとしては、イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→アウトロというかなりシンプルなもので凝っている部分は一切なく、間奏もない。シンプルながら心に残るメロディーがこの曲にはある。さらにJohnnyならではのストーリー性とメッセージ性を持ち合わせた見事な歌詞だ。

  今は 誰も知りはしない
  ちっぽけな星だけれど
  いつの日か 一番キラめいてやる

この歌詞にどれだけ勇気をもらったことか。Johnnyの漢気溢れロマンに満ちた歌詞だ。エンディングでこれをやられたら何も言うことはない。イントロと同じエレピのような音のアウトロで曲が終わって部屋が無音になった時のなんとも言えない空気感が好きだ。

ソロアルバムでは自分のやりたいことを自由に表現したいとJohnnyが思っていたかどうかは分からない。しかし、おそらくそう思って曲を作り、歌詞を作り、このアルバムを制作したような気がする。なんたって初めてのソロアルバムだ。横浜銀蝿ではやっていないこともチャレンジしたいと思うのも自然なことだ。聴いてるこっちが驚いたことはJohnnyの引き出しの多さだ。

「ジェームス・ディーンのように」「$百萬BABY」の大ヒットですでに横浜銀蝿のファン層を広げていたJohnnyが横浜銀蝿の枠を軽く飛び越えてみせたこのアルバムは、結果的に横浜銀蝿のファンだけでなく、一般のリスナーをも大量に取り込んでしまうという大成功を収めたわけだ。それをいとも簡単にやり遂げてしまうあたりは、現在でも音楽業界で活躍しているJohnnyの音楽的才能のなせる技なのだろう。

そういえば、レコードジャケットに封入で特典のハンカチが入っていたことを思い出した。かっこよくて使用することをためらい、そのまま袋からも出さずにジャケットには入ったままだった。めちゃくちゃ懐かしい。特典がハンカチというのも横浜銀蝿ではやっていないことをやっていた。

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このアルバムがリリースされた年の大晦日には横浜銀蝿はすでに解散することが決まっていた。解散後もソロアーティストとしてやっていけるだけの力量を見せつけたJohnny。この時点ではまだ横浜銀蝿解散後のことは怖くて考えられなかったが、Johnnyのソロがこれだけ充実していることでかすかな期待が持てたのは記憶にある。

様々なパターンの曲を繰り出したことによって、とっ散らかって何を伝えたいアルバムなのかよく分からない場合があるが、このアルバムはそんなことはない。終わってみればJohnnyのパーソナリティが詰まっていて本当のJohnnyの姿を見せてくれる。何度でも聴きたくなる。そんなアルバムだ。ルックスだけじゃなくて、人間的なJohnnyの魅力にハマった人も多かったのではないだろうか。

とにかく自由に好きなことをとことんやる。まさにハイウェイダンサーのように好きな場所を好きなだけ自由に走り回るJohnnyの姿に男を感じてしまう。横浜銀蝿のリードギタリストとして、銀蝿一家の兄貴分としての楽曲提供、さらにはこのソロでの大活躍。この時のJohnnyの無双っぷりが発揮された自由奔放な「Highway Dancer」は間違いなく名作なのである。


it's only Rock'n Roll

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