初期「ぶっちぎり」2枚の圧倒的説得力
横浜銀蝿のアルバム「ぶっちぎり」「ぶっちぎりII」の2枚は非常にシンプルでよくできたアルバムだ。歌っていることは、仲間と楽しく遊んでいるだけの話が多い。不良のヒーロー的存在だったとはいえ、このアルバム2枚を聞く限り、不良の要素は夜中に遊んでいることと車で飛ばすことくらい。映画に出でくるような喧嘩や揉め事、万引きや窃盗、人を脅すことも騙したりすることもない。
踊ったり車で走ったり、健康的に仲間と遊んでいるだけだ。なにも問題になるようなことはやってない。ただし不健康といえばその行動が夜中に繰り広げられていることくらいか。
なにが言いたいかというと、このアルバムを聞く限りは、いうほど横浜銀蝿はワルじゃないということだ。いわゆる不良・非行・暴走族の憧れというほどの存在に、少なくとも本人達はなろうとはしていない。
もっと、ライフスタイルとして仲間と車で走ったり、街のディスコで踊ったり、たまには恋したり。当時の若者の生活や人生をただ楽しく歌っていたということだ。
この2枚のアルバムに言えることは、当時の夜遊びの空気感をそのままパッケージされたものだということ。その説得力が半端なく完成されたものであったため不良予備軍の夜遊びに憧れる若者たちにとってのバイブルとなったわけだ。
デビューアルバムの一曲目「ぶっちぎりRock'n Roll」で銀蝿は最初のフレーズだけで世界観を完成させている。
走り出したら 止まらないぜ
土曜の夜の 天使さ
唸る直管 闇夜を裂き
朝まで全開 アクセルOn
とんでもないキラーフレーズだ。このフレーズだけで横浜銀蝿の世界観が見事に表現され尽くされている。土曜の夜の天使という言葉を使うことで、意味は分からずとも様々な想像を膨らませることになる。土曜の夜にいったいなにが行われているのだろう。そう思った若者で溢れていたに違いなく、その若者たちを一気に横浜銀蝿ワールドに引き込むことに成功している。そういった意味ではこのアルバム2枚は機能していたのだ。ロックンロールという手段を使って。
シンプルな言葉が連呼される。その繰り返しだ。ロックンロール。車。土曜の夜。踊り明かす。恋をする。そこにはもれなく仲間がついてくる。この生活がいかに楽しいのだろうかと想像する。まだ土曜の夜に深夜のラジオをひとりで聞いて笑っていたような若者たちの頭の中にもっと楽しいものがあるんだぜとナイトライフのお誘いだ。
今そう思うと実に平和で微笑ましい話だ。このナイトライフに憧れて夜遊びしてみたり、車やバイクに興味を持ってみたり、街のディスコに行ってみたり、思い切ってかわいい女の子に声をかけて撃沈したりして土曜の夜が特別なことを学んでいった。
当たり前だが、横浜銀蝿は不良として夜な夜な悪さをして、ゆくゆくは非行少年になることを推奨していたわけじゃない。勘違いして、当時非行少年に憧れてそうなってしまった人もいるとは思うが。
横浜銀蝿が当時ラジオや雑誌でよく言っていたのが「不良少年になっても非行少年にはなるなよ」というメッセージだった。不良と非行の線引きは難しいが、とにかく明るく楽しく他人には迷惑かけずにということだろう。その絶妙なバランス感覚で遊ぶようにロックンロールをやっていた横浜銀蝿。憧れる若者が多く存在したのは事実なのだ。
Pattiといっしょの夜だから
兄貴のスーツで
きどった天使になりすまし
甘い夜でもすごそう
I’m Just Instant Gentleman
Pattiといっしょの夜だから
親父のくるまで
にやけた野郎になりすまし
熱い夜でもおくろう
I’m Just Instant Gentleman
土曜の夜にノックを3回
それが合図でPattiが出てくる
パパに内緒で
Have A Good Time2人の
Have A Good Timeときめき
Pattiといっしょの夜だから
I’m Just Instant Gentleman
Pattiといっしょの夜だから
友達のギターで
いかしたスターになりすまし
愛の唄でもうたおう
I’m Just Instant Gentleman
土曜の夜にノックを3回
それが合図でPattiが出てくる
パパに内緒で
Have A Good Time2人の
Have A Good Timeときめき
Pattiといっしょの夜だから
I’m Just Instant Gentleman…
そう。この歌詞の通り自分自身にはまだ何もなく、憧れで背伸びして兄貴や親父や友達からの借り物で大人になりきって夜の自分を演じていた世代なのだ。お相手のパパにはバレないようにとそのスリルも含めて楽しんでいる。かわいいものだ。
俺とお前のRock’n Roll
口ずさんでる every time
Kissの後は take your home
そしてお前は smile on me
だからいつものRock’n Roll,
Rock’n Roll time all together
お前の好きな Rock’n Roll
うたってやるよ every time
俺のマシンで take your home
涙をふいて smile on Roll,
だからいつものRock’n Roll,
Rock’n Roll time all together
お前だけの Rock’n Roll
聞いているのさ every time
いつもの道を take your home
ふり向きざまに smile on me
だからいつものRock’n Roll,
Rock’n Roll time all together
だからいつものRock’n Roll
だからいつものRock’n Roll
だからいつものRock’n Roll
だからいつものRock’n Roll
だからいつものRock’n Roll
Rock’n Roll time all together
翔くんならでは感覚的な見事なまでの言葉の羅列だ。その行の後半を全て英語の単語を使うことで、どうしても日本語ロックがダサくなってしまう壁を簡単に飛び越えてしまっている。ロックンロールがあればそれ以外は仲間さえいれば何もいらない。バイクは借り物でいいし、恋人なんていなくたってなんとかなる。
そう、そこにロックンロールがあれば楽しくやっていけるんだという横浜銀蝿からのメッセージだ。深夜に外を歩いてるだけでドキドキした。あの感覚にロックンロールがあれば全てが楽しく感じられた時代なのだ。
生まれた時から死ぬ時まで
俺の all days Rock’n Roll
めざめた時からねる時まで
俺のone day Rock’n Roll
ブーツに皮ジャン
くわえタバコはキャメル
グリースつければ
Rock’n Roll 大好き
悲しい時もつらい時も
俺のささえは Rock’n Roll
いつもいつまでもみんなみんな
壱から拾まで Rock’n Roll
頭の先からつま先まで
俺のfashion Rock’n Roll
ハナ唄まじりにうたう唄は
俺のOld Rock’n Roll
ジーンズ グラサン
ジャックナイフは腰に
口笛吹けば Rock’n Roll 大好き
赤いルージュにポニーテール
俺の好みはRock’n Roll
何から何までみんなみんな
壱から拾まで Rock’n Roll
これも翔くんの作詞で、ロックンロールが大好きなこと、それに付随してる言葉やアイテムはそのリズムに乗った言葉であれば、あまり意味を成していないのが分かる。
メンバーもインタビューで語っていたが、あまり言葉の意味には拘っていないという。リズムに乗りやすくて、歌ってて気持ちよければそれでいいんじゃないかと。まさにそれをやり遂げている。Rock'n Rollとはなんぞや?なんて考える隙もなく、Rock'n Roll最高!と言えている自分がいるのである。Rock'n Rollの説明なんてものはどこにも必要なく、ただ単純にリズムに乗せた言葉の羅列で世の中の若者の心を一瞬で掴んだ横浜銀蝿にあっぱれである。
当時はまだ何も持ち合わせていなかった若者にRock'n Rollという魔法をかけてくれた、このデビューからの2枚のアルバムには、若者が憧れるまだ見たことも感じたこともないドキドキする大人の世界があったのだ。あの空気感は圧倒的だったし、説得力があった。オレを含めて数多くの若者を虜にしたのは間違いない。
その後、横浜銀蝿は売れることで、楽しいロックンロールライフだけではなく、もっと若者へのメッセージ性を強くしていくが、デビュー当時のこのタイミングでは、このシンプルisベストな手法が間違っていなかったことを改めて確信している。この時代の空気感をぴったりと当てはめることで若者の心を鷲掴みにしたのだから。
it's only Rock'n Roll
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