【横浜市EBPM座談会②】データ利活用について横浜市職員×研究者×ビジネスパーソンが熱く語る会。
皆様こんにちは。
横浜市政策局データ・ストラテジー担当(広報チーム)です。
横浜市ではデータ利活用を取り入れた政策形成を推進する取組を進めています。本市の取組をご紹介するとともに、データ利活用によって目指す方向性についてみなさんと考えるきっかけになればと思い、noteを立ち上げました。さまざまな関係者にお話を伺いながらデータ利活用の将来像について深掘りしていきたいと思います。
3回に分けてお届けしている今回の座談会開催レポートですが、第1回では「官民でのオープンデータ利活用の実際」についての議論の様子をお届けしました。
第1回記事(リンク)
第2回となる今回は、「子育て分野のEBPM推進におけるデータ利活用の取り組み」に関する議論の内容をご紹介したいと思います。
「第2回 子育て分野のEBPM推進におけるデータ利活用の取り組み」
1 初期段階からの議論が相互理解につながる
官民で連携してEBPMを推進していく上でのポイント等、研究者からのご意見を伺うためこども家庭庁EBPM研究会構成員でもある成育こどもシンクタンクの竹原先生にお話を伺いました。
竹原先生:
「研究と自治体の事業におけるEBPMに対する考え方の大きな違いは、介入とアウトカム(成果)の対応関係です。研究では、介入とアウトカム(成果)が1対1であることが基本です。例えば、血糖値を下げる薬を飲めば本当に血糖値は下がるのか、といったように、ある効果が期待されている薬は、本当に期待される効果があるのかどうかをデータで示したい、といったある種シンプルな関係性です。一方で、自治体の事業はロジックモデルにまとめる作業をしたときに一つのアウトカム(成果)にだけつなげることが難しく、1対1になることはまずありません。また、自治体の予算は年度単位なので、1年以内に完結することが多いですが、研究は1年間で完結するものばかりでないなど、アウトカムの範囲や成果が生まれるまでの時間軸も異なります。行った事業が別の効果を生むといったこともあります。例えば、男性の育休取得を推進する政策は、女性の産後うつ予防や男性の勤務先へのロイヤリティ向上にもつながることが期待されているように効果が幅広く設定されることもあります。
研究と自治体の事業における、EBPMやエビデンス自体のとらえ方について、どちらが良い悪いというものでは全くありませんが、これらは産官学連携にギャップが生じやすい要因の一つだと考えています。一緒に共同研究や事業に取り組んでいくためには、まずこういった違いをお互いに理解することが重要です。」
他の参加者からは、他に思い当たる違いとして、研究は新規性が問われますが、自治体の事業は良いものは参考にすべき、むしろ新しくなくてよい、というスタンスの違いもある、といったコメントがありました。その後も竹原先生は続けます。
竹原先生:
「また、自治体から私たちに相談の声がかかるタイミングは、「既にデータを収集した後」や「事業の大まかな方針が決定した後」であることが多い印象です。これだと、「事実認識に必要となるデータは、こういうものなので、それをまず収集しましょう」や「本当はもっと良い介入方法がある」、といった提案や対応はできず、実際にはちょっとしたサポートしかできません。思い切って、事業プロセスの初期段階(構想の検討、計画の段階)からディスカッションができると双方の理解も深まりますし、良い成果にもつながるのではないでしょうか。」
産官学でEBPMを推進する上で生じやすいギャップの背景を明らかにできたように感じます。そのギャップを解消するためには、これまでとは違った仕組みやプロセスを踏まえた枠組みでの進め方や意識が必要になってくるかもしれません。
2 事例からみたEBPMの気づき
~送迎距離などの可視化により、保活中に生じる情報格差を解消~
自治体と行った事例としてサイバーエージェントも続けます。
サイバーエージェント:
「保活時の情報格差に焦点をあてて行った取組を紹介します。東京大学マーケットデザインセンター、東京都渋谷区と行った「保育所利用申請システムに関する実証実験」です。視覚的にわかりやすい地図を用いることで、保育所を申し込む保護者の選択がより良くなるのでは、というものです。ユーザーインターフェースの改善により、効率的に情報を取得できているという傾向が分析結果から見受けられました。」
本取り組みでは、別領域の先行研究も参考になったと言います。
サイバーエージェント:
「諸外国では、行きたい学校の希望リストを提出することが可能なのですが、例えばニューヨークや中国では受験生に対して学校情報に関する情報介入実験がおこなわれています。そのほか、チリでは希望する学校の申請数が少ない場合に、システムで合格確率を計算して不合格の可能性が高い場合は警告を出すという取組を行っています(参考)。これは日本の保育所申込でも同じような取り組みが有効ではないか、ということで今回の取組に至りました。」
まさに、海外の先行事例や実績データを踏まえて政策を検討する事例です。更に、事業を選択する際の参考として続けます。
サイバーエージェント:
「経済学で言う『フリーランチ』を見つけることが重要だと思っています。無料あるいはごく少しの労力で大きな改善が期待できるコストパフォーマンスの視点です。今回の事例でいうと、例えば同じアウトカムを改善する際に保育所を新規に作り保育士さんを雇う、というアプローチでは多大なコストがかかりますが、保育所をマップで表示するということはそれよりも安価なのは明らかです。政策にはこうした改善の余地はまだある印象です。」
今回の事例を伺い、EBPMにおける先行事例の活用について、気づきを得ました。担当業務を持っていると、同じ分野の事例を調べてしまいがちですが、違った視点で先行事例を調べることで、施策や事業の幅も大きく変わってきます。無意識のうちに施策の幅を狭めていないか、EBPMを進める上での一番初めの課題設定の重要性を改めて感じました。
データ利活用に対する産官学それぞれのとらえ方から見えた重要な点
自治体と研究者ではEBPMときいて連想するものや考え方が異なる
研究機関/民間は事業検討の初期段階を重視している
課題設定が施策・事業の検討幅にも影響するため、先行研究や事例のレビューは大事
第2回ではEBPMに対する考え方の違いと民間企業の具体的な取組みを伺い、考え方や見え方のギャップを改めて認識することができました。より良い政策形成につなげるために、このギャップを埋めるために必要なことを引き続き考えていきたいと思います。
第3回ではデータ利活用に向けた産官学連携を進める上での課題と、そこにどう向き合っていくかについて議論した様子をお届けします。
問い合わせ
今後データ活用に興味関心のある他自治体の皆さんや民間企業の皆さんとも意見交換や連携を図りたいと考えていますので、ご興味のある方は以下のメールアドレスへご連絡ください。
mail: ss-ds@city.yokohama.jp