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#【天使と俺とママチャリと】1

** 〜1〜**

昨日の日曜日、俺は買ったばかりの自転車を盗まれた。

くっそー!いくらしたと思ってるんだ!半年間、深夜のコンビニでバイトして買った自転車だぞ!

昼間は学校、帰って直ぐにメシを食べてからコンビニに行く生活。

おかげで授業中は睡魔との闘いの日々。顧問の先生に頭を下げて大好きなバスケの部活を休ませてもらい、帰宅部になってまでして買った自転車だぞ!

自転車を盗まれたのは、これで3回目だ。いったいどうなってるんだこの町は。盗んだのはチンピラか?俺と同じ高校生か?もう盗まれるのは絶対に嫌だったから、無理して1番高い鍵を付けたのに。

もちろん警察にも届けたさ。

「そんなにいい自転車なら、見つけるのは難しいかもしれないなぁ」

なに気の抜けた事を言ってるんだ、この警官は!

昨日はあまりのショックで家族には話していない。今日は話さないと…。

あー!またお袋に叱られるぞ。

そして弟のヤツには馬鹿にされるんだ。アイツ、性根がネジ曲がってるから。

いつもなら、バイトを終えて帰宅するまで自転車を漕ぎながら、朝焼けに感動していたが、今は脚を引きずるように歩いている。

「ただいま…」

「お帰り。なんだか元気がないわね、どうかしたの?」

「兄貴、もしや、また自転車を盗まれたりして」

「うるさい!」

「やっべ、ビンゴだ!」

「なに、ビンゴって」

「兄貴がまた自転車を盗まれたんだ」

「えー!また?だから真には高価過ぎるって言ったのよ」

「お袋、怒るのは学校から帰ってきてからにしてくれ、お願いだから」

「…それでどうするの、バスは無いし。困ったわね」

「貸してくれないかな、お袋の自転車」

「あたしのを?別にいいけど。二台あるから」

「ありがとう。じゃあ学校に行ってくる」

「真、ほら、お弁当」

「兄貴、元気だせよ」

「お前もさっさと学校へ行けバカ!」

家の裏に止めてあるお袋の自転車を引っ張り出す。

この自転車には前と後ろにカゴが着いている。

お袋はパートに行ってるから、前のカゴにはバックと弁当を。(防犯予防のネット付き)

後ろのカゴにはスーパーで買い物したのを入れている。

僕は自転車にまたがって漕ぎだした。

この町は漁業が盛んで、俺のオヤジも漁師をしている。いったん漁に出るとしばらくは帰らない。

魚が旨くて、空気も旨い、そんな町だ。

それにしても…盗まれた自転車が、今どうなっているのか気になって、俺の頭の中は、その事でいっぱいだ。

売り飛ばされたか?もし変な改造でもしてたらただじゃおかないぞ!

「きれいですね、朝の海って。青ではなくて、金色なんですね」

「え?何、え?」

いま誰かが喋った?

俺は自転車を盗まれたショックで、おかしくなってしまったのか?ヤ、ヤバイヤバイヤバイ!俺はヤバイ!

「海からいい匂いがしますね」

やっぱり聞こえる……。

俺は自転車を道の端に寄せて止めた。

そして、恐る恐る、後ろを見た。

「アレ、もう走らないのですか?」

あ、赤ん坊が!赤ん坊が!カゴに入っている!

「勝手に乗って、ごめんなさい」

赤ん坊なのにちゃんと話してる!

綿菓子みたいなふわふわしたクリーム色の髪の毛をして、裸に薄い白っぽい布をまとっている。

「き、きみは誰?」

「僕は天使です。エンジェルと呼ばれることもあります」

「天使…天使って、あの天使?」

「あの天使って、どの天使ですか?」

「綺麗な女の人に抱っこされてたり、羽根を広げて飛んでたり」

俺は自分のボキャブラリーの無さに頭を抱え、しゃがみ込んだ。

「たぶんその天使です」

うわぁ!うわぁ!うわぁ!どーすんだよ、俺!

「あの〜、急いだほうがいいんじゃないですか?驚かせてすみません。でも今は急いだほうがいい気がして」

俺はヨレヨレと立ち上がり、やっと脚を上げて自転車にまたがった。

学校に行けばなんとかなる!

先生だっているし、柔道部員もいる。

「ところで、どこに行くのですか?」

「……。」

** (つづく)**




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