Photo by voice_watanabe #【天使と俺とママチャリと】1 5 紗希 2019年9月25日 22:25 ** 〜1〜**昨日の日曜日、俺は買ったばかりの自転車を盗まれた。くっそー!いくらしたと思ってるんだ!半年間、深夜のコンビニでバイトして買った自転車だぞ!昼間は学校、帰って直ぐにメシを食べてからコンビニに行く生活。おかげで授業中は睡魔との闘いの日々。顧問の先生に頭を下げて大好きなバスケの部活を休ませてもらい、帰宅部になってまでして買った自転車だぞ!自転車を盗まれたのは、これで3回目だ。いったいどうなってるんだこの町は。盗んだのはチンピラか?俺と同じ高校生か?もう盗まれるのは絶対に嫌だったから、無理して1番高い鍵を付けたのに。もちろん警察にも届けたさ。「そんなにいい自転車なら、見つけるのは難しいかもしれないなぁ」なに気の抜けた事を言ってるんだ、この警官は!昨日はあまりのショックで家族には話していない。今日は話さないと…。あー!またお袋に叱られるぞ。そして弟のヤツには馬鹿にされるんだ。アイツ、性根がネジ曲がってるから。いつもなら、バイトを終えて帰宅するまで自転車を漕ぎながら、朝焼けに感動していたが、今は脚を引きずるように歩いている。「ただいま…」「お帰り。なんだか元気がないわね、どうかしたの?」「兄貴、もしや、また自転車を盗まれたりして」「うるさい!」「やっべ、ビンゴだ!」「なに、ビンゴって」「兄貴がまた自転車を盗まれたんだ」「えー!また?だから真には高価過ぎるって言ったのよ」「お袋、怒るのは学校から帰ってきてからにしてくれ、お願いだから」「…それでどうするの、バスは無いし。困ったわね」「貸してくれないかな、お袋の自転車」「あたしのを?別にいいけど。二台あるから」「ありがとう。じゃあ学校に行ってくる」「真、ほら、お弁当」「兄貴、元気だせよ」「お前もさっさと学校へ行けバカ!」家の裏に止めてあるお袋の自転車を引っ張り出す。この自転車には前と後ろにカゴが着いている。お袋はパートに行ってるから、前のカゴにはバックと弁当を。(防犯予防のネット付き)後ろのカゴにはスーパーで買い物したのを入れている。僕は自転車にまたがって漕ぎだした。この町は漁業が盛んで、俺のオヤジも漁師をしている。いったん漁に出るとしばらくは帰らない。魚が旨くて、空気も旨い、そんな町だ。それにしても…盗まれた自転車が、今どうなっているのか気になって、俺の頭の中は、その事でいっぱいだ。売り飛ばされたか?もし変な改造でもしてたらただじゃおかないぞ!「きれいですね、朝の海って。青ではなくて、金色なんですね」「え?何、え?」いま誰かが喋った?俺は自転車を盗まれたショックで、おかしくなってしまったのか?ヤ、ヤバイヤバイヤバイ!俺はヤバイ!「海からいい匂いがしますね」やっぱり聞こえる……。俺は自転車を道の端に寄せて止めた。そして、恐る恐る、後ろを見た。「アレ、もう走らないのですか?」あ、赤ん坊が!赤ん坊が!カゴに入っている!「勝手に乗って、ごめんなさい」赤ん坊なのにちゃんと話してる!綿菓子みたいなふわふわしたクリーム色の髪の毛をして、裸に薄い白っぽい布をまとっている。「き、きみは誰?」「僕は天使です。エンジェルと呼ばれることもあります」「天使…天使って、あの天使?」「あの天使って、どの天使ですか?」「綺麗な女の人に抱っこされてたり、羽根を広げて飛んでたり」俺は自分のボキャブラリーの無さに頭を抱え、しゃがみ込んだ。「たぶんその天使です」うわぁ!うわぁ!うわぁ!どーすんだよ、俺!「あの〜、急いだほうがいいんじゃないですか?驚かせてすみません。でも今は急いだほうがいい気がして」俺はヨレヨレと立ち上がり、やっと脚を上げて自転車にまたがった。学校に行けばなんとかなる!先生だっているし、柔道部員もいる。「ところで、どこに行くのですか?」「……。」** (つづく)** ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #小説 #男子高校生 #海辺の街 #信じられない話 #貴方は間違っていませんby天使 5