Photo by konami_kise #【天使と俺とママチャリと】2 6 紗希 2019年9月26日 14:43 〜2〜もうすぐだ。もうすぐ学校に着く。「おはよう真!」友達の洋一が、自転車で僕と並走して話しかけてきた。「あれ、自転車どうした?真のじゃないじゃん」洋一、カゴ、変なのが入ってるだろ?「真?どうした?」カゴだよ、カゴ。後ろのカゴを見ろ。「…う、後ろ…」「後ろ?」洋一は自転車を漕ぎながら、チラッと振り返った。「別に何もいないけど」そうじゃない、俺の自転車だよ、裸の赤ん坊が入ってるだろ?天使らしい。「それより自転車はどうしたんだ」「盗られた…」「マジか!カッコよかったのに。だから今朝はママチャリか」洋一、赤ん坊!「あの〜、この自転車に乗っている人にしか、ボクのこのは見えないですよ」「嘘だろ?」「嘘がどうしたって?」「洋一、悪い、先に行っててくれ」「オーケー、また後でな」そういうと、洋一はスピードを上げて自転車を漕いで行った。俺はまた自転車を止めた。「俺にしか見えないって、どういうことだよ」「そういうことです」「俺をからかってるの?」「決してそんなことないです。ボクのことが見えるのは、自転車を使っている人だけなんです。そして、大切なのは、自転車の持ち主が、聖母マリア様を信仰していることです」「マリア様を信仰?」「そうです。最初にこの自転車に乗っていた、ある女性がいました。その人の娘さんが、ある日、急に目が見えなくなってしまったのです。女性は急いで病院へ連れて行きました」「その子は治ったの?」「はい、治りました。その子の目が見えなくなってから、女性はずっと朝夕、マリア様に祈りました」「そうなんだ。アレ?でもその自転車を、なんでお袋が持ってるんだ?」「持ち主だった女性は自転車を盗まれたのです」「その人も盗まれたんだ!」「盗んだのは、酔っ払った男性で、自宅に着くと、近くの公園に自転車を捨てたんです」「ひでえことすんな」「自転車はまだ綺麗だったので、バザーに出した人がいるんです。そして買ったのが、アナタのお母さんです」「なんで買ったんだろう。自転車は持ってるのに」「あれは、ご主人からのプレゼントで、最初のはこれです」「でも、お袋はマリア様を信仰していないけど」 「きっかけはアナタですよ」「俺なの?なんで?」「アナタが小さな頃、突然立つことも、歩くことも出来なくなったこと、覚えてませんか?」「あ、小学校に入る頃にあったかも」「それです」「でも割と直ぐに治ったし」天使は小さなため息をついた気がした。「アナタのお父さんは、漁師をしていますよね」「うん、それが…アッ!」「オヤジの漁師仲間が海で遭難した」「そうでしたね。あの時、お母さんは海で働く事の怖さをはっきりと自覚したのです。それ以来、家族の健康と、お父さんが無事に帰ってくるようにと、マリア様に祈っています」「知らなかった……」「ステキなお母さんですね」「……そうだな」「さあ!行きましょう」俺は少しだけ泣きたい気分だったけど、我慢して学校まで自転車を漕いだ。教室に入ると、俺の斜め上をフワフワ飛んでいた天使の表情が、急に険しくなった。俺は、ヒソヒソと話しかけた。「どうかした?」「この部屋には、かなり追い詰められている人がいます」俺は視線を落とすと、席に着いた。「知っているんですね」俺は周りの人間に聞こえないように、紙に書いた。『虐められてる生徒がいる。クラス中から無視されているんだ』天使は頷くと、こういった。「その人は、絶望しています。だから危険です!」『危険?』「虐めている中心人物は、どの人ですか?」俺は、イヤイヤそいつの方を見た。天使は急いでそいつを見ると、「アッ!」と、声をあげた。俺には何のことだか分からなかったが、天使の顔が事態の深刻さを表していた。「明けの、明星……」「えっなに?意味が分からないよ」「ルシファーがきています!」「誰なの、ルシファーって」「ルシファーは神様の逆鱗に触れ、天界を追放された堕天使です」「堕天使、堕天使ってなに?」天使はゆっくりと、俺を見つめ、「堕天使とは、元は天使だったのですが、今は……」「『悪魔』、そう呼ばれている者です」 ** (つづく)** ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #小説 #天使 #男子高校生 #虐め #海辺の街 #母の愛情 6