Photo by kakukaku_m2 #曖昧な言葉 10 紗希 2019年10月15日 07:11 「しばらく会うのはやめよう」夜、車の中であなたから、そう云われた“女の方が引きずらない”そんなことない。私、何年も引きずった。『しばらく』なんだ。だから別れではない。そう自分に言い聞かせてあなたからの連絡をずっと待ってた。でも、連絡はなかった。それでも私は『しばらく』にすがった。夜中に電話した。留守電のあなたの声が聴きたくて。バレンタインにはチョコレートを送った。きっと気味が悪くて捨てただろうね。最初から分かってた。『しばらく』は、別れの言葉だと。『しばらく』なんかじゃなく『ずっと』なんだっていうこと。分かってたよ。ずるい言葉だと思う。それとも優しさのつもり?残酷な優しさだね。あなたは今も独身だと訊いた。でももう心は揺れない。あの時、車の中で、あなたを思い切り引っ叩けばよかった。あなたが私に、酷いことをしたのは2度目だから。今も、新宿の街を歩くと緊張するのよ。あなたと私が務めた職場があるから。もう未練も怒りも感じないくらいの年月が過ぎた。“いい思い出をありがとう”“あなたの幸せを祈ってる”そんな気持ちは、微塵もないから。要領のいい、ズルイ男は大嫌い。あなたに送る言葉、それは《バカヤロー!》そういうこと。 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #超短編小説 #曖昧な言葉 #ズルイ #引きずる女 10