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エッセイ 《自動車免許証》

今回、私は自動車の免許証を、更新しませんでした。

まだ、返納するほどの歳ではないと思いますが、車を持ってないし、ウン十年も運転していないので、もういいか、と、思いまして。


免許証を取ってから、私が車の運転をしたのは数えるくらいでした。

たまたま、不動産屋に就職した時くらいです。

それも、免許を取ってから、かなりの年数が経っていました。

私は社長に、頼みました。

「私は運転には向いていないので、内勤でお願いします」と。


何とか希望通りに私は家賃管理業務に就きました。

ある日、カチカチと端末に打ち込んでいたら、お客様がいらっしゃっいました。


近所の大学に入学する男の子で、アパートを探していました。

私はひたすら端末の前で仕事を続けてました。


その時です!

「紗希さん、ご案内をお願いします」

と、いう信じられない言葉がかかりました。

「えっ!わ、わたし?」


「あのでも、私は運転は」

「運転出来る人が出払っちゃって紗希さんしか免許証を持ってる人がいないのよ」

「……」


「お客様、いま彼女がご案内致しますので」

体は硬直し、ロボットのような動きで、私は会社の駐車場に向かいました。


すると、そこには一度も運転したことがない自動車しかなかったのです。

でも、お客様が待っている。

行くしかない!


私はその自動車にお客様を乗せて、目的のアパートへ向かいました。

やはり運転がおかしく、車はガタゴトとスピードも出していないのに、荒いものになっていました。


ミラーで後部座席のお客様の大学生をチラッと見ると、やはり緊張しています。


その時、間が悪いことに、雨が降り出しました。

それも、かなりのザーザー降りです。

私はワイパーのスイッチを探しましたが、どれだか分からなくて、取り敢えず、あるスイッチを押しました。


ガラス窓に水がピューピューと、かかり出し、焦った私は別のスイッチも押したところ、今度は後ろのガラス窓に水がピューピューと……。


一向にワイパーにたどり着けません。

私は引きつりながら、お客様に、

「す、すいません、この車は初めてなもので」と、逆に不安を煽るような苦しい言い訳をしました。


男の子は、ウンともスンとも言わず、緊張がピークのようでした。


それでも、何とか目的のアパートに着くことが出来ました。

雨は上がってました。


「お客様、こちらが◯◯荘です。ここではペットを飼うことは禁止になっております」


そう私が説明をしていると、アパートの一階のベランダで芝犬が寛いでました。

見なかったことにして、お部屋をご案内し、不動産屋に戻りました。


事務の女性が、

「お疲れ様でございました。いかがですか、お客様」

そう声を掛けると、男の子は、

「か、借ります」


えっ❗️❗️えーー❗️❗️


あんな運転されて、なのに契約してくださるなんて!

ペット禁止のアパートに芝犬が寛いでいたのに。


とにかく私には車の運転センスが皆無です。

今まで身分証明のために更新してきましたが、マイナンバーカードを作ったので、もういいだろうと思いました。


ペーパーだったので、ゴールド免許のまま、私と自動車との生温かい関係は被害者を出すこともなく、無事終了しました。


    めでたし めでたし


🐱紗希=Yuki

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