Photo by mitomok ☆私にふりそそぐもの 3話 29 紗希 2022年3月13日 18:52 良いお年を〜あちこちで、そんな挨拶をする光景が、多く見られる大晦日。私は昨日で魚屋さんのバイトは終了し、毎年、大晦日の夜から、三ヶ日は、神社で巫女さんのバイトである。大学生の時から毎年の恒例になった。特別、時給が高いわけもない。けれど神社仏閣に興味があるし、とにかく好きだから、巫女さんの助勤。巫女の場合は、アルバイトとは云わない。神様に関わる神職なわけで、バイトという呼び方はやはり合わない。白衣に緋袴。私は、この衣装が大好きだ。気持ちが引き締まる。「はい、咲希ちゃん」同じ巫女の助勤をしている玲子さんから、カイロを渡される。「毎年ありがとう、玲子さん」「お礼なんて云わないでよ。100均のカイロなんだから」「本当に助かる。冷えるからね。今夜は徹夜だしね」彼女とはこの神社で知り合った。玲子さんも毎年、巫女の姿になる。可愛いというより、かなりの美人な彼女には、驚くことにファンがいるらしい。「咲希ちゃん、あと3分で年が明けるよ!」「うん!今夜も頑張ろう!」す、すごい人数の人々。その人達が、参拝を終えると、一斉に、私のいる、お守りや、お札を求めて押しかける。 ドン! ドン! ドン!太鼓の合図だ!年が明けた。「皆様、ゆっくりお進みください。押したりしませんよう、わたくし共からもお頼み申し上げます」住職の声が大好きな私です、な〜んてね。「咲希ちゃん、何笑ってるの?住職の下手な歌が原因?あー来た来た!」参拝を終えた人達が、一斉にここに向かって来てる!毎年、思う「怖い!」って。アッという間に目の前に人間の壁が出来上がった。「これください。あと破魔矢」「ようこそ御参りくださいました。御守りと破魔矢ですね。少々お待ちください」「こっちも急いで」50代の男性がイライラしながら絵馬を手にしている。「ちょっと!押さないでよ!」後ろの方から声が聞こえて来た。「おみくじ引くの〜」「分かってるから、待ちなさい」私は真冬なのに汗をかいているのが自分でもよく分かった。「誰か、甘酒を振る舞うのを手伝ってもらえない?」住職の声を、皆んな無視している。だってこんなに忙しい中、抜けられっこない。「ダメか〜仕方がない、僕が一人でするか」皆んな無言でせっせと商品を袋に入れている。 誰も同情してくれないのが分かった住職は、寂しげに外に出て行った。「手伝いたいわよ!でもこの状態で抜けるなんて出来ないじゃない!」玲子さんがキレ始めてる。 眉間の皺が深くなってきた。毎年恒例とはいえ、せっかく神様に会いに来てくださって、イライラしてたら神様は泣いてますよ〜。 あれ?あの男の人……「咲希ちゃん、どうかしたの?」「ハッキリとは分からないけど、父が居たように見えたもので」「ホントに!良かったじゃない!」「はぁ、本物か、そっくりさんか区別が」「きっと本当にお父さんが、咲希ちゃんを観に来たのよ!」それならなんで、私に一言も云わなかったの?お父さん……。「皆さん、お疲れ様でございます。甘酒で疲れを取ってください」住職が、紙コップに甘酒を入れて一人一人に渡していた。 了 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #連載小説 #年末年始 #大晦日 #お父さん #noteで良かったこと #巫女さん 29