鏡の湖 前編 24 紗希 2022年3月7日 03:02 この湖は私が作ったもの。たくさん流した私の涙が、いつの間にか広い湖を作り上げていた。真夜中に、私はこっそりと家からここへ、脚が向く。泣きたくなると、ここへ来る。それと……。夫を起こさないように、静かにドアを開けて私は湖へと向かう。辺りは闇だというのに、怖さを感じない。小さな頃から私は毎日、たくさん泣いた。父か大嫌いだった。暴力を振るうから。幼稚園の時から嫌いだった父のこと。怖かった。いつか殺されると本気で怯えて生きて来た。私は姉が大嫌いだった。七歳年上のその人は、毎日毎日ニヤニヤ笑いながら私に云い続けた。〈あなたは絶対に幸せになれないのよ〉〈あなたは何をやっても失敗することになってるの。成功することは無いわ〉〈あなたは、どんなに努力しても無駄に終わる。そう決まってるの〉何年も云われ続けて、刷り込まれた。このことが、私の人生を変えた。無気力になり、生気を吸い取られ、頭では“やりたい”そう思っても、体が動かなくなった。大人になった今でもーー。そして、お母さん。私は子守唄を歌って欲しかったよ。どんなに小さな声でもいい。耳元でお母さんの唄う子守唄を訊きながら眠りたかったんだよ。【あなたが自分の為に唄うといい】私が唄う?【そう、あなたは自分をもっと愛してあげられる。子守唄も歌ってあげることが出来るのよ】自分を愛してあげる……。【そう、大切にしてあげるの】私が湖に来る、もう一つの理由。それは“言葉”を受けた取りたいから。聴こえるのではなく、言葉を感じるのだ。言葉の、主。それは私自身。 前編 了 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する この記事が参加している募集 #自己紹介 273,733件 #自己紹介 #短編小説 #自分との対話 24