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✨あの夜の蛍✨

生まれて初めて見た蛍は、奈良県の山奥。


何も無い村。あるのは畑と川、そして神社。

真夏の夜。

泊まった民宿にはエアコンどころか扇風機も無い。


狭い部屋には6人ほどが泊まってた。

やっと取れた部屋。

窓を開ければ、そこには人が行き来する

普通の道。


あまりの暑さで窓は全開。

道行く人に覗かれようと構わない。


お風呂から上がると夕飯が並んでいた。

高校の時からの友人と、同じテーブルに座る。


民宿の人には申し訳無いが、苦手な物ばかりが並ぶ。

けれど食べなければ。

後でお腹が空いても食べる物は無いのだから。


夕涼みを兼ねて、2人で散歩に出た。

畑ばかりの景色に中に、何故かグランドがある。


畑より高さが有るグランドの隅に腰を降ろす。

脚をぶらぶらさせながら。

しばらく何も話さず黙っていた。


山間の村は暗くなるのが早い。

私たちは冗談を云って笑った。

パタッと会話は止まった。


真っ直ぐ前を見つめる。


「静かだね」

「そうだね」

彼女は夜空を見ながら

「わぁ!天の川も見える」

「本当だ。暗いし空気が澄んでるから」


「日にち、決まった」

「……そう、決まったか」

ふぅ……。

小さなため息すらよく聴こえるくらいの

静寂。


「これで私は一生お母さんにはなれないのが決定したよ」

「……子供、欲しかった?」

「それがねぇ、考えたことが無かったのよ」


また静寂が訪れた。

その時


「う……わ。すごい!」

「これってホタルだよね!すごい数!」

「ちょっとだけ怖い」

「うん、怖い。数が多すぎて」


360°蛍だらけの畑。


「きっと恋人が出来たら浮気するね」

「そんな奴こっちからバイバイよ」

「でも……さ」

「取ってもらおう」


「は?取る?なにを」

「たんたんタヌキのよ」

「夕食の時のワインが効いて来たようだ、アハハハ」

「そしたら、おあいこ」


「はいはい、さて帰ろうか。果たして寝るスペースはあるのかな」

「無ければ無理矢理作るまでだ」

「怖いよ。さて明日はいよいよブライアン・イーノや細野晴臣さんのライブだ!」


「それもタダで、やったね!」

「じゃあ帰ろ」

「うん、帰ろう」


「話し、訊いてくれて、ありがとう」

「頑張れって、蛍が云ってる」

彼女はうなずいた。


天の川と、すごい数の蛍に見守られながら、私たちは民宿に向かった。


       (完)







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