Photo by yukiwo ✨あの夜の蛍✨ 36 紗希 2021年3月13日 23:23 生まれて初めて見た蛍は、奈良県の山奥。何も無い村。あるのは畑と川、そして神社。真夏の夜。泊まった民宿にはエアコンどころか扇風機も無い。狭い部屋には6人ほどが泊まってた。やっと取れた部屋。窓を開ければ、そこには人が行き来する普通の道。あまりの暑さで窓は全開。道行く人に覗かれようと構わない。お風呂から上がると夕飯が並んでいた。高校の時からの友人と、同じテーブルに座る。民宿の人には申し訳無いが、苦手な物ばかりが並ぶ。けれど食べなければ。後でお腹が空いても食べる物は無いのだから。夕涼みを兼ねて、2人で散歩に出た。畑ばかりの景色に中に、何故かグランドがある。畑より高さが有るグランドの隅に腰を降ろす。脚をぶらぶらさせながら。しばらく何も話さず黙っていた。山間の村は暗くなるのが早い。私たちは冗談を云って笑った。パタッと会話は止まった。真っ直ぐ前を見つめる。「静かだね」「そうだね」彼女は夜空を見ながら「わぁ!天の川も見える」「本当だ。暗いし空気が澄んでるから」「日にち、決まった」「……そう、決まったか」ふぅ……。小さなため息すらよく聴こえるくらいの静寂。「これで私は一生お母さんにはなれないのが決定したよ」「……子供、欲しかった?」「それがねぇ、考えたことが無かったのよ」また静寂が訪れた。その時「う……わ。すごい!」「これってホタルだよね!すごい数!」「ちょっとだけ怖い」「うん、怖い。数が多すぎて」360°蛍だらけの畑。「きっと恋人が出来たら浮気するね」「そんな奴こっちからバイバイよ」「でも……さ」「取ってもらおう」「は?取る?なにを」「たんたんタヌキのよ」「夕食の時のワインが効いて来たようだ、アハハハ」「そしたら、おあいこ」「はいはい、さて帰ろうか。果たして寝るスペースはあるのかな」「無ければ無理矢理作るまでだ」「怖いよ。さて明日はいよいよブライアン・イーノや細野晴臣さんのライブだ!」「それもタダで、やったね!」「じゃあ帰ろ」「うん、帰ろう」「話し、訊いてくれて、ありがとう」「頑張れって、蛍が云ってる」彼女はうなずいた。天の川と、すごい数の蛍に見守られながら、私たちは民宿に向かった。 (完) ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #蛍 #子宮摘出 #天河村 #奈良の天河神社 36