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氷河期世代「正社員」エレジー
全ての原因を社会や巡り合わせといった他責にしてなくとも、基幹人事シーズンにぐったりしがちな同世代の仲間に愛を込めて書こうと思います。
きっかけはファンの多い大好きな百貨店のバイヤーさん(明らかに同世代)が「体力的にもう少し緩急つけて働きたかった、頑張るけど」「周りはいなくなっていくのが10数年以上」とポロリとこぼしていたのを見たこと。
すごく自制心のある方であっても思わず出してしまったのもわかりました。
共感しかなかった。
その方の働きはお金になっているだけじゃなく、企業価値も上げるコミュニケーションを絶え間なく続けており、担当産業や業界全体にも貢献していることは明らかです。後輩や仲間もたくさん育ててきた様子もわかります。
でも、よく見た光景すぎて、この手の新たな領域での頑張りや貢献自体が同世代から下にしか気づかれてない?と思ったのです。とても無色透明。
氷河期世代の話題は、生涯独身・非正規雇用ばかり目が向きがちだけど、正社員でも家庭があっても、管理職でも平社員でも状況は厳しい。
既存のあらゆる恩恵を諦めた先を探るエントリーです。
名付けて氷河期世代「正社員」エレジーです。
競争がし烈すぎて正社員が謎の特権化された上に、出口も救いもないならじゃあどうする?を考えないといけないという意味で「ヒルビリー・エレジー」にかけました。(ヴァンス氏が苦手でも読んだ方がいい本)
鶴は恩返しに来ないし、笠地蔵はさらに奪いに来て、兵十はマシンガンで撃ってくる
鶴の恩返しは「命の危機を救ってくれた相手に身を削ってでも恩を返そうとすること」と捉えると…不況下とデフレの中で低コストの激務で事業継続を支えたけど「当たり前」になる状況です。
笠地蔵は「共通の不条理(寒さ)に黙って自ら進んで対処してくれた相手に礼を伝えること」と捉えると…職場の非効率や人手不足に黙って対処したけど「さらにもっと」と求められる状況です。
ごんぎつねは「食べ物を運んでくれたり助けてくれたりした相手を誤解して殺して後悔すること」と捉えると…デジタル化やSNSの活用といった今では当たり前のことを進めようとしたり新しい領域に自ら取り組んで成果を出し始めてると生意気で危険な奴と昇格から無縁になる報復人事やパワハラやセクハラ、退職に追い込む等「爽快感を持った殲滅作戦」が来る状況です。
昔話や童話が「酷い話」になったけど、こんなのよくあるのが、氷河期世代正社員です。せめて自分達の下の世代には味わってほしくないと願い、静かに戦ってきたし、過重労働やセクハラパワハラの再生産は減らせてるはず。
下の世代からも無色透明なんですが…
なんとか立場を守ろうとして起きるのは「差別化」と「細かい仕事の属人化」です。前者は組織では報われず、後者は大局観を失いがち。でも後者だって、好きでなってない可能性もあります。
例えばExcel方眼紙とか謎ワークフローの戦犯として我々責められますよね?
あれ、業務負荷をデジタル化提案しても、IT投資が長らく「現場社員の甘えやサボり」として却下される中、コストゼロで解決するとExcel方眼紙や謎ワークフローになります。DXはコロナでビビり散らかして経営層の重い腰が動いただけです。その恩恵、どうか若年層の皆さんは享受して欲しい。
私たちの昇格は「日本の大企業」の終焉の時
大手企業の管理職は同世代の20%以下の狭き門とはいえ、なかなか昇格しない。昇格した人も「それあなただけの仕事じゃないのでは?」という内容で驚くほどタスクが増えてびっくりします。
なかなか上がらず、上がったら上がったで他管理職より忙殺される。
就社意識が高くお仕事の仕方も固定された56〜57歳の人数はどの組織でもかなり多く、良いポストも埋まっているんですね。
王道の仕事でずば抜けた成果を出すか、自分で領域を作るか、常に試行錯誤して成長する業界に行くしかない。転職が当たり前になったのは氷河期後半から。ちょうど「若者はなぜ3年で辞めるのか?」という本の出版の前後に私も社会人3年目以内で転職しました。氷河期前半の先輩たちはもう少し最初の我慢が長く転職していった感覚があります。
その一方、全員が全員、転職したり生き馬の目を抜くような世界に身を置いたりすることに向いているわけではないから、エレジーが起きます。
ごく普通に、いい働きした人たちが報酬と役職で報われることが、圧倒的に少ない。報われる基準が他世代よりうんと高い。
おそらく、昇格や降格の入替戦がほとんど起きないから。別に管理職に向いてなくてもエキスパート社員としての高い報酬をもらう仕組み自体も無い。
ですので、こういう取り組みは増えて欲しいです。
■管理職に大降格時代 スキルないと2軍、でも実はチャンス:日本経済新聞
きっと私たちが昇格する時って、会社という仕組み自体が終わりを迎える時に近くなります。管理職の年もそうじゃない年もあるし、エキスパート社員のユニットで仕事を動かすこともある。今の組織の姿とは変わります。
既存の安定した仕組み自体が変わる前提で、背負い過ぎず、新たな居場所を自分で作っていくんだろうな…という未来に備えた方が心健やかです。
ただ、多くの経営者がそのことにも気付いてない。Z世代が働かないとか、売り手市場だったミレニアル世代に残って欲しいから抜擢人事で管理職押し付けたら辞めちゃったなんて予兆に過ぎないのですが、気付いていない。
ミレニアル世代やZ世代が仕事の醍醐味を味わい始めて伸び代を広げながらライフステージの変化が起きている頃に、お給料変わらなくて重圧だけ増えるぞ!なんて言われたら、スルッと逃げられて当たり前です。
でも経営者が気づかない原因は、私たち氷河期世代にもあります。
氷河期世代が「昇格チラつかせて数年間生殺しの刑」「管理職にしたらしたで大量タスク鞭打ちの刑」に処されてるのに、生きてるから。
そこを変えるのも氷河期世代で出世した層になるなと考えています。
本格的に変わるのはあと10~15年後かもしれませんね。
※怖いのは、その直前に長年報われなかった層の役職や給与が上がる時、終戦間際のドイツ軍的に「ヤバい!もう将校がいないから死線に送るために上げちゃえ!」みたいな感じで、会社という仕組み終焉の後始末が押し付けられそうであること。(年金とか社会福祉もそうなりそう)
なぜこんなことが起きてるか?に目を向けましょう。
王道の仕事で成果を上げてきた今の経営層の多くは、時代の変化を表層的にしかキャッチできていない可能性が高いと感じています。
とにかく変化という変化にアンテナ感度が鈍い。
表層的に「VUCAの時代だ!」と捉え「新規事業をやろう!」「オープンイノベーションだ!」とか言うけど、「本業とのシナジーがない」「時代の変化が見えず判断できない」「本業と同レベルにすぐ稼げ」になりがちで、明らかにちょい踏ん張れば次世代の芽になるアイデアを活用せず潰してしまいがちで「たいそう良い時代を味わったんですね」に尽きます。
立派な本業も、戦後世代や団塊世代が人口ボーナスを追い風に20年頑張り、権限移譲をしつつ事業部制も生まれたはずなんですが…
「若い時の苦労は買ってでもしろ」という通り、若年期の経験値は大きいです。驚きも苦労もアンテナ感度や引き出しになる。
若く吸収力のある時にあらゆる変化に対処した人と、13〜22歳の時に好景気かつ売り手市場で就職した人で見えているものは違う。
怒っても仕方ないのは、突き上げるような激しい社会変化に鈍くいられる心境は、逆にリアルタイムで変化が直撃した人達も全くわからないから。
一応、世代論自体はフィルターが粗く、各世代にも不平不満や不利益があり個体差も大きいのは留意したいです。全ての理由にはできない。
それでも、評価なき不遇や無理解は「そもそも見えてない」は大きいですし、就活や若手の頃の「お前の代わりはいくらでもいる」が生涯付き纏うのは納得いかない。とはいえ、出口の無さを嘆いても解決しないから「どうすればいいか?」を自分なりに導いてみました。
エレジーには見切りをつけ、人生を楽しむのに軸足を置こう
なかなか報われない氷河期世代「正社員」エレジー。私もその1人です。
例えば、普通の研修に加え管理職研修があっても昇格が無縁ゾーン。立場も脆弱で、上司と相性悪ければ給与は下がり将来の道筋も閉ざされつつ「年齢的に管理職研修いれときゃ勝手に頑張るだろ?」になっちゃう。
気力も体力も経験値もギリギリ揃って脂の乗った黄金期といえる40代に生殺しの刑はキツいです。
おそらくそんな研修より王道の仕事を頑張ったプロパーの5~10歳下の人の方が早く出世していくはず。研修ではこんなことを言われます。
「みなさんは管理職ではないけれど、同じようにリーダーシップを発揮して、部下でなくてもみんなに傾聴して、管理職のように考えて自ら成果を上げてください。コンプライアンスも最新の情報を学び遵守し、周囲に啓発しましょう。」
え?対価は?管理職の責任で万年ヒラ社員なの?
なんだか、もう、疲れてしまいました。
そこで、年明けに一つ決めたことがあります。
エレジーを引き起こしてる仕組みに見切りをつけるということです。
私たちは戦争に行った世代に比べればマシ。団塊の苛烈な働き方に比べればマシ。世代や社会環境を理由にするのも病むからやりたくない。
これ以上のいらん圧と調整弁はご免被る!
やる気のある人とだけ頑張るし、他責的な人や依存的な相手からは全力で距離を置くし、必要以上に他人の面倒を見ることも巻き取ることもリソース的にできない。
報酬相応の働きをして、生きることをサボらず楽しもうと思います。
人生の楽しみに軸足を移すこと自体が「エレジーに見切りをつける」です。
どうせ、私たちは真面目です。言われなくても必要以上やり、常に+αの価値を作り、新しい領域の開拓はし、後輩には丁寧に教えてやったことはマニュアル化し、チームとして動きやすい環境を静かに整える。無色透明。
だからこそ「報酬相応に留め人生を楽しむ」って大事です。
氷河期世代をリブランディングし、束になって交渉していきたい
どんな集団でも同世代と遭遇すると、ちゃんとやる人が多いです。とにかくやることの質がいい。これは正社員かどうかすら関係ない。
だから静かな自尊心を持ち、自由に生きたいなと思いました。
私たちはいつも仕事ができる方。磨き抜かれ、常にアンラーニングして生きてる。ん?リスキリング?息するようにやってるけど何か?
と跳ね返す、良い意味でのブランド力と誇りを同世代同士で持ち続けたい。
心が自由でいるためのお守りみたいなもんです。
そして、勝ち組がリバタリアンになって弱者叩きに勤しむのも良くない。椅子取りゲームから椅子を増やす方に、転換していきたい。
正社員でも、自分の会社を持ってる人が増える世の中に変化させてもいい。
そのためにも、不利益にはしっかり団体交渉をしていけるよう、束になる機会はしっかりと活かすつもりです。
氷河期世代「正社員」エレジーを書いたけど、みんな心のどこかに非正規で働く同世代の椅子を作りたい気持ちはある。社会保険料や年金含め、公助を支えてきた分、苦しい時くらい生活保護は貰ってOKな社会にしてほしい。
束になる意識を常に持つことで、同世代で椅子につける人を増やし、椅子から降りても再起可能な世の中にしていけたら嬉しいのです。
楽しみを最優先にしよう
今日の本題はこれです。これ以上滅私奉公いらない。待っているのは後始末だけなんて、そんな仕組み、こちらから見切りをつけてしまいたい。
努力はきっと普通にできるから、楽しむ方にエネルギーを使いましょう!
です。普通にしてても、他の人よりうんとちゃんとやってるし、たとえ「静かな退職」をしても、働きすぎてる可能性すらありますから。
私たちが嘆いて他責にするだけではなく、人生を楽しむ方にシフトしたら、圧を出せる人口ボリュームはいる。
下の世代にも居心地の良い環境が作れるんじゃないかな?と思っています。
なんというか、最近同世代の話を見聞きする機会があって、この基幹人事の時期に落ち込むの自分だけじゃないな…と思ったので書きました。
氷河期って全ての理由にはできないし、楽しいことは自分で作っていくしかない。
きっとこれからも頑張ると思う。
ただ、せめて、「基幹人事の時期がつらい」から逃げるくらいは許されるんじゃないかな?という話です。