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ブレアウィッチを語らずして映画人生を語るな:25年前の汗と涙のドタバタ劇

1999年。当時のインターネットはまだまだ黎明期、スマホなんて影も形もない時代。映画館で映画を観るという行為が、今よりもずっと特別な娯楽だった。そんな中、たなぴょんと私の二人組は無謀にも「年間映画100本観る!」という壮大な目標を掲げた。挫折と再挑戦、そして笑いあり涙ありの週末映画ノルマ生活。その頂点とも言える事件、それが『ブレアウィッチプロジェクト』だった──。


映画100本!? バカなの? 若さなの?

大学時代の友人、通称「たなぴょん」と始めた無謀なチャレンジ、それが「年間100本映画観るぞ計画」。いや、今思えばね、なんでそんな目標を立てたのか、ほんと謎。若さゆえの暴走? それともただの暇人だったのか? いずれにしても、平日はフルタイムで働いてた我々にとって、週末は休息の時間であるべきなのに、なぜか映画館に通い詰めるという謎の行動を選択していたのである。

計画の初期段階で気づいた。「あれ、これシンプルに計算しても週末2本ずつ観て96本しかいかなくない?」←はい、その通り。誰もツッコまなかったのか、あるいは気づいていながら黙殺したのか。いずれにしても、目標はスタート地点から破綻していた。でも若いって怖い。「まあ、やるだけやろう!」と謎のやる気に満ちてた私たち。

週末の自由時間は映画漬け。モーニングショーからレイトショーまで、映画館の椅子とほぼ同化していた記憶すらある。月曜日の朝、早出して職場に行くと、教頭先生が「週末何の映画観たの?」と興味津々で聞いてくる始末。いやいや、何その圧?って思いつつも、「えっと、〇〇と△△です」と答え、なんとなく自己満足に浸っていた私。教頭先生、ありがとうございます←どこかで聞いてるかもしれないので念のため。

とはいえ、毎週2本の映画ってなかなかヘビー。仕事で疲れている上に、映画代も馬鹿にならない。今よりちょっと安いとはいえ、月1万円くらいの出費は痛かった。でもパンフレットも買っちゃうし、ドリンクも欲しい。ええ、お金なんて出せばいいのです←若い頃特有の思考。

無謀な計画と、それを楽しむ若さが混ざり合ったあの頃。振り返れば笑い話だけど、当時は結構ガチでやってたんだよなあ。

12月なのに汗だく!ポップコーンと私の戦い

1999年、あの日私は「たなぴょん」と映画館に向かって全力疾走していた。観る映画は、当時めちゃくちゃ話題になっていた『ブレアウィッチプロジェクト』。でもね、朝寝坊したんだよね、私たち。お互い別々の家で寝坊したのに奇跡的なシンクロ。12月の北海道だというのに、ダッシュしたせいで汗だくだった。しかも、「モーニングショーで観る!」というケチ根性が仇となり、余裕ゼロの状況で会場へ突入。

映画館に到着したのは上映開始5分後。暗闇の中で「すみませんすみません!」と平謝りしつつ、満席状態の中央席に滑り込む。息切れでゼーハー言いながら汗が止まらない私。場内は真っ暗だし、冬用の分厚いコートを脱ぐ余裕もないまま、スクリーンに目を向けたら──あの「ブレブレ映像」が待ち受けていた。

この映画、いわゆるモキュメンタリー形式でね。手持ちカメラのグラグラ映像が続くわけよ。ドキュメンタリーっぽさを演出するための技法だって頭では理解してるんだけど、身体がついてこない。隣の席から漂うバターキャラメルポップコーンの濃厚な香りがトドメを刺す。

「あれ? 気持ち悪いぞ?」と自覚した瞬間、吐き気が押し寄せる。頭痛、汗、そして映画のブレブレ映像。これ全部セットで来るから、もう地獄。「これって映画なの? ただの体力勝負じゃない?」と心の中でツッコミながら、ひたすら耐えた81分間。長かった。いや、本当に長かった。

「次世代の4DXを先取りした映画体験」だなんて後から笑い話にはしてるけど、あれはもう映画じゃなくて拷問。映画館を出た後、たなぴょんと「もう二度と寝坊しない!」と誓ったけど、次の週にはまた遅刻していた私たちなのであった。

ジオシティーズと管理人という肩書き

1999年。当時のインターネットといえば、スマホなんて影も形もなく、みんなパソコンで「ピーゴロゴロ…」というダイヤルアップ接続音を聞きながらネットに繋いでいた時代だ。で、その時代に流行ってたのが「個人ホームページ(通称HP)」。タイトルはほぼ例外なく「〇〇の部屋」だ。今でいうブログやSNSの走りみたいなものだけど、ステータス感がすごかった。「私はHPを持ってます」というだけでちょっとしたヒーローだったのだ。

私もその流行に乗っかり、ホームページビルダーを駆使して自分のHPを作った。「管理人」という肩書きを掲げ、「ようこそ!」という言葉で訪問者を迎えるスタイル。ちなみに無料サーバーはジオシティーズ。今や懐かしい響きだが、当時はこれが主流だった。春には桜が舞い、冬には雪を降らせるようなアニメーションを無駄に仕込んだりして、いろいろ頑張ってたなぁ。

私のHPには映画記録のページがあった。週末に観た映画を淡々と記録し、レビューを書くという真面目なコンテンツ。でも内容は「酔い止め推奨」とか「途中で寝そうになった」といった一言感想ばかり。いや、『ブレアウィッチプロジェクト』なんて、「81分間の耐久テスト」としか記録していない。今思えば、その感想がすべてを物語ってる。

一方で、友人のたなぴょんは映画のイラストを投稿していた。いやいや、イラストのクオリティ高すぎるだろって突っ込みたくなるほどの本気っぷりだったけど、私はそれに合わせてレビューを頑張るつもりはゼロ。適当でも許されるインターネットの草創期、ほんとに自由だったなと思う。

ジオシティーズの閉鎖が発表された時、当時の「管理人」たちはみんな涙したらしいけど、私は記録をどこかに移行することもなくあっさり放置。今さら思い返してみると、あの雑で無計画な自由さが、1999年らしさだったのかもしれない。

映画館、それは人生の特等席

あの汗と涙、そしてポップコーンの匂いに包まれた映画体験も、今ではすっかり懐かしい思い出になった。1999年に駆け込んだ映画館のドタバタ劇や、手ブレ映像に耐えたあの時間が、今ではちょっと愛おしい。最近はサブスクが主流で、家でポチッと再生すればどんな映画も観られる便利な時代だけど、やっぱり映画館で観る特別感は別格だと思う。

今朝も映画館に行って『聖☆おにいさん』を観てきたんだけど、大画面で観る映画ってやっぱりいいなぁと思った。スクリーンの迫力、音響のドーンという重低音、周りの観客のちょっとした反応……。そういう細かい空気感も含めて、映画館で観る映画は一つのイベントだ。サブスクでは味わえない「その場でしか得られない感覚」が詰まってる。

人生は一度きり。だからこそ、時には汗だくになりながら映画を楽しむ価値があるんじゃないかと思う。あの時の『ブレアウィッチプロジェクト』みたいな体調不良フェスティバルも、今となっては笑い話。そして映画館で観た映画の数々が、自分の人生の特等席を埋め尽くしている気がする。映画好きでよかったなぁ、なんてしみじみ思う今日この頃である。

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