朗読劇『野武士とB』
◇星野源『Nerd Strut』、フェードイン
◆照明、フェードアウト
◇星野源『Nerd Strut』、フェードアウト
◆照明、フェードイン
「「プロローグ」」
「野武士」
「例えばあなたの周りに『これ、どうやって売るんだ。』というポンコツな商品があるとする。分かりやすく説明するために、当商品を下手くそな女優と見立てよう。
かつて、落合ゆかり、という女優がいたんだ。知らないだろうな。子役の子でね、演技が壊滅的に下手くそだった。おそらく本質的な女優としての商品価値からは、落合ゆかりは遠い存在だと言える。
しかし、それも数十年ほど前、ネットが普及していなかった頃の話だ。
例えば落合ゆかりをネットの住人が『こんな下手くそな演技をする女優がいるぜ』と拡散させればどうだ?
本来はなかった新しい価値が生まれ、落合ゆかりは注目される事となる。
これを私は『バズマーケティング』と呼んでいる。
炎上、ではない。
故意に引き起こすのがバズマーケティングだ。
きっと落合ゆかりにも、今の時代だったらそんなスポットライトの浴び方があったんだろうな。
さてバズマーケティングには引き起こされるための三つの要素が必要なのだが……」
「「シーン1」」
◇清竜人25『ねえねえ…』、カットイン。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
わたしのしょうらいのゆめは、たくさんあります。
きょうは、そのなかの、いちぶを、しょうかいします。
まず、わたしは、およめさんになりたいです。
およめさんになったら、しあわせになります。
それからセーラーマーズにわたしはなりたいです。
きっかけは、セーラームーンのミュージカルです。じょゆうさんが、はしゃぎまわるすがたをみて、ああ、わたしは、セーラーマーズになりたいなあ、と思いました。
なのでわたしは、しょうらい、 セーラーマーズを演じられるような女優さんになりたいです。
で、旦那はタキシード仮面にします。
◇清竜人25『ねえねえ…』、フェードアウト。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
件名:無題
本文:単位をください
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:おそらく『単位ください』という言葉からあなたが学生だという前提で連絡させてもらいますが、まず、自分の身分を名乗ってメールを送って来てください。どこの学部学科で何回生で名前は何と言うのか、それくらいのマナーは最低限弁えてから連絡をするようにお願いします。
「学生」
件名:京都学習院大学経済学部総合国際政策学科4回生😝
本文:単位をくれるという事が分かってから名前は言います👍
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:あなたが私の大学の生徒であるならなおのこと指摘させてもらいますが、単位をメールで催促するという考えが前提として間違っています。しかも、単位が貰えるか分からないから名前を名乗りたくないとは。大体なんでしょうか、その絵文字は。顔をくしゃっとしているそれは。親指を立てているそれらは。あなたのような生徒には例え筆記試験が満点であっても単位認定などしたくありません。
悪いですがこれ以上の連絡は結構です。
「学生」
件名:無題
本文:どうしよう、おハゲちゃん、めっちゃ怒ってるな。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:私のところにありえないメールが送られてきました、誰かに送るメールを誤送信しているのでしょうか。貴方が勝手に単位を欲しいと言ってきたのに、私の事を影でハゲと呼んでいるのですね。残念ながら貴方にあげる単位はありません。あと私はハゲておりません。悪しからず。
「学生」
件名:無題
本文:ごめんなさい。間違って送信しました。でも、はげてはいます。ごめんなさい、そこの嘘はつきたくないです。単位は、ください。
「学生」
本文:本当に、はげています。これは事実です。
「学生」
本文:本当のはげでした、嘘とかじゃない本物の。…単位ください。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:私は貴方が怖いです。その文面でどうやって逆転して単位をもらおうとしたのか理解に苦しみます。もう二度とメールを送らないでください。さようなら。
「学生」
本文:お願いします。この単位が取れないと、私卒業できません。ハゲ、嘘でした。全部、嘘でした。
「野武士」
本文:『本当になんたら48とか46とかの中でもトップクラスになれるんじゃないかと思える可愛いさ!これだけで何しても興奮もの!ああっ。そんな目で、こちらを見ないでくれーい。野武士がっ、この野武士がっ、星5つあげるからお命だけは、お命だけは許してくだせーい、番場奈々葉どの〜。【だめ、許さないわ。】バキューン、うーん恋のヒットマン』
「学生」
本文:え?
「野武士」
本文:忘れてください。
「学生」
本文:なんですか、これは。
「野武士」
本文:忘れてください。
「学生」
本文:『(棒読みで)本当になんたら48とか46とかの中でもトップクラスになれるんじゃないかと思える可愛いさ!これだけで何しても興奮もの!ああっ。そんな目で、こちらを見ないでくれーい。野武士がっ、この野武士がっ、もう星5つあげるからお命だけは、お命だけは許してくだせーい。【だめ、許さないわ。】バキューン、うーん恋のヒットマン』
「野武士」
とても強力なコンピューターウイルスに感染しました。あなたもメールのやりとりをしていると感染してしまうかもしれません。直ちにメールをでのやり取りを止めましょう。
「学生」
本文:スクショしました。
「野武士」
本文:アメリカはすごい質の悪いウイルスをばら撒きますね。
「学生」
本文:このサイトで、際どいグラビアアイドルとかコスプレイヤーの作品を、たくさんレビューしてる”野武士”ってユーザーを見つけました。ひょっとして、教授ですか?(検索した添付画像付き)
「野武士」
本文:わたしではありません。アメリカです。
「学生」
本文:『(棒読みで)【だめ、許さないわ。】バキューン、うーん恋のヒットマン』
「野武士」
本文:アメリカはすごいな。
「学生」
件名:京都学習院大学経済学部総合国際政策学科4回生の者です
本文:野武士さん、単位をください。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:まずは、あなたの名前を教えて下さい。
「「シーン2」」
◇清竜人25『ねえねえ…』、カットイン。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
わたしは、一つ気づいた事があります。
それはじょゆうさんになれば、どんな職業も演じ放題ということです。スチュワーデスさんも、メイドも、看護婦も、先生も。そしてセーラーマーズにも。
女優さんになって、たくさん演技を褒められたい。
そう言うと隣にいる川島くんは「お前の演技は、終わってるぜ。」とか言ってきます。無視です。バーニングマンダラーです。
だから私は、女優さんになって、たくさんの夢を演じられるようになりたいです。
◇清竜人25『ねえねえ…』、フェードアウト。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
件名:京都学習院大学経済部総合国際政策学科4回生です
本文:『(棒読み)うっひょうたまらんぜよ。現役女子大生の初々しさ爆発じゃい。まさかの大爆発グラマーで、こいつは春から縁起がいいや』
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:お願いします。一日おきにレビューをコピー&ペーストして私に送りつけるのはやめてください。
「学生」
件名:(棒読み)野武士のオールナイトニッポンゼロ
本文:『(棒読み)ラジオネーム怪傑ソロリからだ、サンキューな。あの、女友達どころか友達も居ない僕はどうやって生きればいいですか。そんな君には写真集「女友達が一線越えそうな件」をオススメするぜーい。」
するぜーい。
「野武士」
本文:いくら貴方がそのレビューをコピー&ペース として送りつけたとしても、貴方に単位を送る訳にはいきません。それは私自身の職業に対する信頼の問題になります。
「学生」
件名:(だるそうに)現役女子大学生の単位おねだり祭りだー
本文:『(棒読み)いやあ、これはリアリティがない。だいたい単位を挙げるって、相当なこと。嘘すぎて没入できなかったです。現場感がなく残念なイメージビデオ。』
野武士さん、授業料返してください。あと授業、ほとんど誰も聞いてませんよ。
「野武士」
本文:やめてください。その当てつけみたいな選択。ただ、あなたが言った「誰も聞いていない」という言葉は訂正させて欲しいです。私は自分のバスマーケティング経済論の授業に誇りを持っています。
「学生」
件名:(棒読み)ぬるいイメージビデオは番場奈々葉を見習え。
本文:『(棒読み)今作の番場奈々葉はすごいぜ。メイド姿だけじゃなくしまいには、エヴァンゲリオンのコスプレも披露してくれてます。圧倒的な棒読みとエヴァンゲリオンのコスプレのコントラストはひたすらにシュール。』
総合国際政策学科ってなんですか。何をするところなんですか。漢字八文字使っても伝えたいことは一つも伝わりません。彼女を作らずに人生を捧げてきて、総合国際政策学科。あまりにも総合国際政策学科。それはあまりにも総合国際政策学科ではないでしょうか。
「野武士」
本文:総合国際政策学科をそんなに並べられたら、私もなんの学科なのだろうといささか不安になってしまいます。大体、研究に明け暮れていれば、女性とお付き合いする時間なんてものは無くなります。ちなみに、あなたは一度でも授業に出席したことがあるでしょうか。バズマーケティングにおける重要なポイントが三つあることは貴方も既に知っているところであるでしょうが……
「学生」
件名:(気だるげに)枯れ線だからハゲが好き、とか嘘でも嬉し過ぎるよおおおおおおお。
本文:(棒読み)番場奈々葉がウェディング姿なんて僕と結婚することを考えてくれているのかな。よかった、薬指を開けておいて。だってこれは僕なりの愛の特等席だからね。うーん、これはもはやプロポーズ。プロポーズという認識でよろしいかな、菜々葉どの。
教授は、多分結婚できないと思います。自分の世界を持ち過ぎているので。
「野武士」
本文:出来ます。なぜなら私にだって仲間はいるからです。あなたが先ほどからコピー&ペーストしているサイトのレビューには私を含めたレビュアー四天王と呼ばれる人達がいて懇意にさせてもらっていますから。
(デビルマンを歌う野武士)
(あれは誰だの、くだりのみ。)
「野武士」
レビューでもっとも共感を得る男、半袖紳士。
『環境問題よりも彼女はセクシーでサスティナブル。』
専門的な変態性がコアなファンを得る、キモモ軍曹。
『結局、手首。手首のボコってしてるところなのよな。』
同性の指示を得る女性レビュワー、瀬戸内ジャンクション。
『なんだろう、団塊世代の価値観が下駄をはいて歩いているのだろうか』
彼等とは直接の接触はないものの、心の友だと捉えています。
(デビルマンを歌い終わる野武士)
「学生」
本文:いや、そういうところが自分の世界を持ち過ぎてるという話をしていて。……もう、いいです。このままでは埒があきません。一度、お会いしませんか、野武士さん。その時に、単位の話やレビューのことも話しましょう。それから一つ、お願いがあります。
「野武士」
本文:これ以上私に何をお願いするのでしょうか。
「学生」
本文:私を幸せにしてください。
「野武士」
本文:……あなたもアメリカのウイルスに感染したのでしょうか。
「「シーン3」」
◇清竜人25『ねえねえ…』、カットイン。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
私は、ウェディングドレスに憧れます。
セーラームーンはよく物語の中でウェディング姿で出てくるのですが、セーラーマーズはエンディングの曲くらいでしかなりません。だから私は将来ウェディング姿になりたいと思います。
そうしてお母さんに伝えるのです。
「おかあさん、ずっと一人で私を育ててくれてありがとう」
◇清竜人25『ねえねえ…』、フェードアウト。
◆照明、クロスフェード。
「学生」
件名:経済学部総合国際政策学科4回生 落合ゆかり
本文:幸せに、してください。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:お願いします。一時間おきに”幸せ”という言葉を私に送りつけるのはやめてください。
「学生」
本文:僕が幸せにしますからあ。はい、教授、せーの。
「野武士」
本文:往年の武田鉄矢は、やめてください。あなたが単位をせがむのは、私の講義に一度も出席していなかったからじゃないのですか。
「学生」
本文:…私、全部知っていました。だって教授の授業を休んだ事なんて一度も無かったから。うしろの方でだけど、毎日聞いていましたよ。だって空で言えるんですから。バズマーケティングに必要な要素は三つ。誰もが分かると口走ってしまう『共感性』、思わず各SNSで呟いてしまうような『話題性』、そして自分の生活とは直接関係がないという『客観性』、ですよね。だから、幸せにしてください。
「野武士」
本文:『いやあ、デビュー二作目だけど、この番場奈々葉は、僕が好きだったチャイドルの子、『落合ゆかり』にそっくりで最高だなあ。うっひょー、アイアム、キュートなもの好き好き伯爵!必殺技はローリング萌え萌えコンソメビームだ!!!』
私は、こんな人間なんですよ。
「学生」
本文:だからいいんです。自分に正直な人だから。
「野武士」
本文:『いやあ、インスタもツイッターもチェケラーなんで、もう最高なんだよなあ、番場奈々葉。今作はコスプレを披露してくれてるんですが、スッチー姿はもうアテンションプリーズ!!あとはもう、教師姿もグッジョブ!ああだけども、どうしてあのコスプレの時、泣いてたんだろうなあ!もう飲み干したいよお!奈々葉さんの悲しむ顔は見たくないから涙を飲み干してあげたい!涙サーバー!涙サーバーなのか!!』
私は、こんな人間で、しかも、はげていますよ。
「学生」
本文:私は愛おしいですよ、そういうおハゲちゃんが。
「野武士」
本文:貴方を初めてテレビで見た時のことを今でも覚えています。別に見るつもりのなかったテレビでした。それは確かアニメの実写作品で、貴方は、その中のエキストラとして出演していた。
「学生」
本文:知っていたんですね。
「野武士」
本文:その時に、私は、あなたを見て驚きました。演技が本当に下手くそだった。壊滅的だった。けれど一生懸命演技をする姿は私の生きている姿と重なりました。人と付き合うのが苦手であるのに経済の仕組みについて考え研究し、なによりも人と接する機会の多い教授という職業に就こうとした私の指針となったのです。
それからは貴方の事を調べてちょくちょくテレビの脇役やくだらないCМ、また人数が無駄に多いイベントのサクラなどの君を見たりなんかしていて。そんな貴方が芸能界を辞めると聞いて驚いたんです。
だから答えを話す前に、訳を聞かせてください。
落合ゆかりさん、貴方はどうして番場奈々葉なんて名乗るようになったのですか。
「B」
本文:それは野武士さんが一番知ってるんじゃないですか。名前も無いエキストラの女子生徒B。その演技は、だーれにも引っかかることなく、そのまま引退するはずだった。
だけど忘れられなかったのは、スターダムに登りつめる自分の姿、一番を掴み取る自分のイメージ。
「野武士」
本文:現役女子大生のグラビア。この大学出身だなんて知らなかった。それは本当です。
芸能界に戻って来た貴方は、グラビアアイドルとして活動を再開していて。私は驚きました。初めは気のせいか、なんて思っていましたが、あの味のある演技を見て確信しました、これは彼女だ、と。
恥を忍んで聞かせてください、どうして貴方は引退したのですか。
そして、どうして貴方の引退作は、あんな、あんな、我々の心をむしばむ様な内容 だったのですか。
「B」
本文:教授は、このサイトのレビュー以外でインターネットは見ますか?URL貼っておくんで覗いて下さい。
やっぱり私は、ここでも一番になんかなれなかったから。
自分が自分であるかだけを確認するための際どい衣装、あまりよく知らないコスプレ。白々しいレビューが何件か並んでるだけのレビューを見てたら、もういいかなって。
でも、辞めるのは簡単じゃなかったんです。事務所からは辞める代償として、ああいったイメージビデオに出演するように言われました。
「野武士」
本文:そうだったのですね。では一ファンとして書かせてください。
貴方の演技は筆舌にし難いが、被写体としての演技は本当に最高でした。確かに貴方は女優としては有名になれなかった。けれど、グラビアアイドル、コスプレアイドルの番場奈々葉としての演技は最高でした。
世間が貴方を女子学生Bだと認識していても、私には違いました。
他のアイドルのビデオを見て比較した私が言うのです。
間違いありません。
「B」
本文:私、もう大学辞めちゃったんです。教授が単位をくれなかったから。
…いや、それはちょっと意地悪か。他にも色々と盗撮されたり、変な晒され方をされたりもしたから。最後の作品と普段の私を比較したりとかして。
だから教授、あなたと幸せになれればいい。もう女優でも何でもない。私はナンバーワンになれなかった人間だから。
お願いします。せめて、その部分だけは 夢を見させてれませんか。単位の代わりに。
私のことをそこまで見てくれてる人は、あなたしかいません。
「野武士」
本文:ですが、貴方の言葉にお答えする訳にはいきません。単位の代わりに、と言えばなおさらです。それは私自身の職業に対する信頼の問題になります。申し訳ありません。
「B」
本文:『まだ発売されておらずサンプルを見てのコメントになるが、引退作が、これはあんまりではないだろうか。実家での撮影。おまけに小学生のころに書いたであろう作文を読みながら、ほとんど裸のような姿での撮影。幼い頃の夢を語りながら涙ながらにお母さんへの感謝を告げる番場奈々葉。私は、この子の悲しい姿が好きだったのではない。この子の一生懸命な演技が好きだったのだ。撮影中の表情、それは私の中でどんな女優よりも一番だった。輝いていた。彼女が女子学生Bであろうが、番場奈々葉だろうが、それは変わらない。せめてファンがここにいるということだけでも、書かせてほしい。』
最後の、あのコメント嬉しかったです。ありがとうございました。
「「シーン4」」
「B」
私は、ウェディングドレスに憧れます。
セーラームーンはよく物語の中でウェディング姿で出てくるのですが、セーラーマーズはエンディングの曲くらいでしかなりません。だから私は将来ウェディング姿になりたいと思います。
そうしてお母さんに伝えるのです。
「おかあさん、ずっと一人で私を育ててくれてありがとう。」
それから、おかあさん。ごめんなさい。
こんな格好で、ごめんなさい。
こんな女優になっちゃって、ごめんなさい。
◆照明、クロスフェード。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:私は、あなたを見てきました。ずっとずっと見てきました。
だから、もし叶うのなら私が貴方を一番にしてあげたい。
だけど、私は一端の大学教授です。
電通の社員でもなければ、大手プロダクションの社長でもない、まして石油王ですらない私に、あなたを一番にする力はありません。
だけど、私は大学教授なんです。
ずっと研究をしてきました。
私の専門はバズマーケティング。
いわゆる口コミによる経済効果についての経済学です。
私だけでは不可能だ。
だが誰かの力を借りたなら。
さあ、落合さん、授業の復習です。
バズマーケティングを引き起こすための3つの方法を覚えていますか。
◇石田耀子『乙女のポリシー』カットイン
◇照明、カットイン
本文:まずは共感性
これはレビュアー四天王のひとり、もっとも参考にされてる男、半袖紳士。彼の言葉を利用する。
『これはもはや、イメージビデオではない 。ドキュメントだ。はっきり言ってこの内容は可哀想だとは思う。だが、彼女の下手くそな演技も実は彼女が女優志望だったという事実を踏まえると泣けてくる。この物語に救いは無い。だが、救いを作るとするなら僕達ユーザー自身ではないだろうか。』
――――――――――――――――――
番場奈々葉引退作、圏外
――――――――――――――――――
本文:次に話題性
これはレビュアー四天王のひとり、マニアックなキモモ軍曹のレビューを利用しよう。
『泣ける、なんて言葉があるけど、俺はそうは思わない。最高だよ、この作品。だって実家に行ってるんだぜ?多分やらせじゃない。しかも、子どもの頃の文集を読むとか、ヤバすぎる。だから、途中で目から流れてきた水分的な物は決して涙なんかじゃない。抜けるからオススメなんだよ。』
――――――――――――――――――
番場奈々葉引退作、個人の人気順で第一位。
――――――――――――――――――
本文:最後に客観性。
これレビュアー四天王のひとり、唯一の紅一点、瀬戸内ジャンクションの視点を利用しよう。
『彼女が乙女のポリシーを口ずさむ姿で涙が溢れ出るのだ。特に過去作を連なって見ているとその気持ちは増大する』
――――――――――――――――――
番場奈々葉引退作、各カテゴリ内で上位に食い込む。
――――――――――――――――――
本文:更に口コミは広がって行き。
『泣きました』
『泣けました』
『スゲー泣けた』
――――――――――――――――――
番場奈々葉引退作、ランキング圏内。
――――――――――――――――――
本文:その勢いはエックス、インスタ、ティックトックにも。
『ヤバすぎる』
『この女優、可哀想だ』
――――――――――――――――――
10位入り。
――――――――――――――――――
本文:成田悠輔(なりたゆうすけ)のリポスト!
――――――――――――――――――
9、8、7
――――――――――――――――――
本文:浅野忠信がSNSで拡散!
――――――――――――――――――
6、5、4、
――――――――――――――――――
本文:アンミカがテレビで紹介!!
――――――――――――――――――
3、2、
――――――――――――――――――
本文:そして順位はついについについに
――――――――――――――――――
1位!
――――――――――――――――――
本文:これが、これが長年私が研究してきた、経済学の結晶です。
◇石田耀子『乙女のポリシー』フェードアウト
「「シーン5」」
「B」
件名:京都学 習院大学経済部総合国際政策学科4回生 落合ゆかり
本文:セーラームーンの格好でコスプレを撮影した時に、おもわず私は泣いてしまった。
私が演じたかったのはセーラーマーズだったから。
それで、もう何も考えたくなくて私は大学の中で開かれてるいっさい興味のない講義に出席した。
扉を開けて講義室に入る。
そこは、少ない人数の学生が眠りこけてるような、どうしようもない授業で。
教授は冴えないおじさん。
ああ、ちょうどいい下らなさだなあ、なんて思いながら話を聞いてしまったのがいけなかったんだと思う。
「私が、この経済学を研究するようになったのはね、昔、みた子役の女優の事を見て思いついたんだ。すごく下手くそな演技の子でね、市場では商品価値もなく売れ残るような子。名前は言ってもしらないだろうね、落合ゆかりって子なんだけど」
その子が売れるためにどうすればいいんだろう、そうやって考えて生み出したのが口コミで市場を動かすバスマーケティング。
下手くそすらも利点になるような経済学なんだ。
きっと教授は熱心に話してたから知らないだろうけど。
私はその時、号泣していた。私を、私なんかを、見てくれてた人がいたんだって。
「野武士」
件名:京都学習院大学の野々村です
本文:私は君のイメージビデオで論文を書くつもりです。
「B」
本文:やめてください。
「野武士」
本文:貴方は私だけじゃない、みんなの一位になりました。それは貴方という女優自身の力です。…まあ、ここで、なんですが。私がこれから話す言葉は教授として、ではなく、一ファンとして、考えて欲しいのですが。
「B」
本文:はい。
「野武士」
本文:あなたを幸せに、させてください。
「B」
本文:私、こんなんですよ。
「野武士」
本文:こんなんだから、いいんです。
「B」
本文:演技も下手で、どうしようもなくて。
「野武士」
本文:それを私が嬉々としてレビューしていたのを、貴方は知ってるはずです。逆に私でいいですか?ハゲだし人望はないし、レビューも、あんなんで。
「B」
本文:私の方こそ、メイド服着て、先生の服着て、スチュアーデスの服着て。
「野武士」
本文:それも全部知ってます。
「B」
本文:私、女子学生Bですよ。
「野武士」
本文:私にとっては、ずっとナンバーワンです。なんなら今度付き合いますよ、セーラーマーズのコスプレ。私がタキシード仮面のコスプレをして。
「B」
本文:教授にタキシード仮面は似会いません。するなら野武士のコスプレです。
◇ヒャダイン『乙女のポリシーballade ver』カットイン
◆照明、フェードイン
「野武士」
家族に会った。
それがとても幸せで。
なんかねえ、ってお母さんは言っていたけど。
同い年だけど。
結婚って聞いて、楽しそうにしてた。
うれしいな、うれしいな。
だって、こんな事、もうこれから無いと思っていたから。
(ここで踊ってもらえたら嬉しい)
◇ヒャダイン『乙女のポリシーballade ver』フェードアウト
「「エピローグ」」
◇清竜人25『Will You Merry Me?』カットイン
○その流れでクラッカーを鳴らす野武士
「野武士」
件名:野武士だ
本文:今日は早く帰れそうだ。晩ごはんをお願い。
「B」
件名:了解
本文:あ、そうそう、たまたま家族で共有してるパソコンのフォルダー漁ってたら見つかったんだけど、
『(棒読みで)本当にホロライブなんちゃらとかの何百倍の可愛いさ!これだけで何しても興奮もの!ああっ。そんな目で、こちらを見ないでくれーい。落武者がっ、この落武者がっ、もう星5つあげるからお命だけは、お命だけは許してくだせーい、鶴かずは殿ー。【だめ、許さないわ。】バキューン、うーん恋の』』
何これ、おハゲちゃん。
「野武士」
本文:アメリカのウイルスってすごいな。
「B」
本文:は?
「野武士」
本文:ごめんなさい🙇
「B」
わたしのしょうらいのゆめは、およめさん。
けっきょく、ただの、およめさんになっちゃったけど。
だけど、わたしはセーラーマーズで。
あの人は、タキシード姿の野武士。
そんな二人の日々は、今日もまた、続いていく。
泣いたり、笑ったりしながら。
◇清竜人25『Will♡You♡Merry♡Me?』フェードアウト
◆照明、フェードアウト
◇おしまい
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