同人誌の感想:ひざのうらはやお『煤煙~浦安八景~』
ひざのうらはやおさん『煤煙~浦安八景~』を読みました。
※以下、同内容を「尼崎文学だらけ」(あまぶん)の推薦文として投稿しております。
架空の「浦安」を舞台に繰り広げられる、八つの「浦安×○○」。
明るいハレの日を描いたものもあり、かと思えば心中物や陰鬱な怪談めいたものもあり、各話異なる趣を備えています。
作者は浦安市のご出身だそうです。書き手にとって自分の故郷は、ともすれば内輪ネタや独りよがりに終始してしまいそうな難しい題材のように思いますが、そうならずに完成度の高い作品集となっているのは、全編一貫した堅実かつ明晰な文体と、題材に対する絶妙な距離感のためではないかと感じました。
この距離感は、読み手が現実の浦安市に縁があるかないかにかかわらず、「浦安」にとってのストレンジャーに位置づける役割を果たしています。
「余所者」というほど無縁ではないけれど、決して「浦安」の中の人ではなく、かの街に何の影響ももたらし得ない、ほんの一時の逗留者です。
文体によって、読み手の客観性も常に適切に保たれています。それゆえ読み手が「浦安八景」のいずれに心惹かれるかは、その人の嗜好や関心、心のありようを色濃く反映したものになるはずです。
「浦安」はただそこに在るだけで、逗留者たる読み手がそれぞれの瞳に異なるものを映すとしたら、それはまさしく旅そのものではないでしょうか。
私個人としては、「老人と猫」と「夜更けに咲く灰色の花」が強く印象に残りました。
あなたはどうでしたか、と、同じく「浦安」を訪れた人に聞いてみたくなります。
あなたも旅に出てみませんか。
行き先は千葉県浦安市、ただし、架空の。
通販情報
・尼崎文学だらけ(~2021年7月31日まで)
・BOOTH
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