神戸 旧居留地の建築 vol.1
神戸の建築といえば山側の北野異人館街が有名ですが、海側にも明治期以来の西洋文化の香りが色濃く残るエリアがあります。その名も「旧外国人居留地」。短く「旧居留地」とも呼びます。
ご存じの方も多いと思いますが、外国人居留地とは江戸幕末期の開港により定められた外国人の居住・交易エリアのこと。日本人と外国人とのトラブルを避けるために建設されました。
神戸は1868年(慶応3年)に開港。居留地の範囲はごく限られており、北は西国街道(現在の花時計線)、東は旧生田川(現在のフラワーロード)、西は鯉川(現在の鯉川筋)、南は海でした。敷地は整然とした126区画に分割され、現在も当時のままだといいます。
今回取り上げるのは旧居留地にある旧38番館と旧15番館。
下のマップの赤い丸印で囲んだ建築です。まずは旧38番館から。
旧居留地38番館
(旧ナショナルシティバンク神戸支店)
竣工/1929年(昭和4年)
設計/ヴォーリズ建築事務所
施工/竹中工務店
構造/SRC造3階建て
大丸神戸店に隣接し、現在はラグジュアリーブランドなどの店舗に活用されています。南側ファサード(写真上)はイオニア式の円柱が4本並び、両端は目地を際立たせた石積み仕上げ。
東面(写真下)は角柱の付け柱が7本並ぶアメリカン・ボザール様式のデザイン。
旧居留地はかつて「老朽化した古いビルが残るオフィス街」というイメージでしたが、1987年の旧神戸商工会議所ビル(後に解体)の保存運動をきっかけに、同地に建つ大丸神戸店が所有していたこの建築を他に先駆けて店舗化。それを機に周辺の近代建築にもハイブランドのブティックが積極的に出店するようになりました。
「歴史的建築が面として存在する街並み」という付加価値を生み出すことに成功し、「最も神戸らしい洗練された街」に再生するきっかけとなった建物のひとつです。
関連する大丸神戸店も簡単にご紹介しましょう。
[創建]
1927年(昭和2年) 設計・施工 /竹中工務店
[建築家・村野藤吾による増築と創建部分の改修工事]
1936年(昭和11年) 設計/村野藤吾 施工/大林組
[震災復興による部分再建と改修工事]
1997年(平成9年) 設計/日建設計、双星設計 施工/大林組、戸田建
設、三菱建設、北野建設 共同企業体(JV)による共同施工
昭和初期から愛されてきましたが、1995年の阪神淡路大震災で全壊判定を受けた3分の2の部分を取り壊して建て替え、1997年に再建。その際、旧居留地との調和を重視して、御影石を使った外装や街灯の配置といった近代洋風建築のデザインを取り入れています。
建物を取り巻く回廊(写真下)もそのひとつ。東側はカフェのテラス席に利用されており、ヨーロッパの街並みを思わせます(閉店後の撮影のためカフェテーブルは片付けられています)。
続いて旧15番館です。
旧居留地15番館 (旧アメリカ合衆国領事館)
竣工/1880年(明治13年)ごろ
設計・施工/不明
構造/木骨煉瓦造2階建て
現在は『TOOTH TOOTH maison 15th(トゥース トゥース メゾン ジュウゴ)』という神戸キュイジーヌのレストラン。神戸に残る最も古い異人館で国指定重要文化財でもあります。撮影時は建物の前でウェディング関係の撮影が行われていました。
構造は木造軸組の間に煉瓦を積んだ木骨煉瓦造 。南側の両端にペディメントを設け、開放的なベランダを持つコロニアスタイルの洋館です。外壁はスタ ッコ 仕上げで 軒蛇腹(※1) 、胴蛇腹(※2)を回したデザイン。
東側外壁(写真下)は石積み風の目地仕上げ。1899年(明治32年)まで続いた居留地時代の様式を伝えています。
(※1 ※2 洋風建築で、一般に壁の上部や各部を帯状に区切る装飾・コーニスのこと)
旧15番館は第二次世界大戦中の神戸空襲による被害を免れますが、阪神淡路大震災で全壊し、1998年に免震構造を取り入れて復元竣工。
工事に際してはアメリカの公文書館で1886年(明治19年)当時の写真が確認されたことから、石造りの門扉と木柵も復元されています。
東側の玄関前の歩道には日本最古の近代下水道である「旧神戸外国人居留地の下水道」の遺構(登録有形文化財、近代化産業遺産)が。
説明板によれば、この下水道は明治5年ごろに完成。神戸付近で焼かれたレンガが使われ、円形管と卵形管が南北道路に沿って6本1880mが敷設されました。
現在でもその一部が下水道の雨水幹線として使われているとのことです。当時の下水管はレンガ造りだったんですね。
vol.2に続きます。
参考引用資料
平成29年度 兵庫県建築士会明石支部 研修会資料『歴史を刻む神戸旧居留地の建築たち』
#神戸 #建築 #旧居留地 #旧居留地38番館 #旧居留地15番館 #近代建築 #大丸神戸店
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