見出し画像

勝手にチャレンジ1000 0105 木槿が咲いた

 30年前は、家のぐるりに大小の木槿(むくげ)が植わっていて、いつか数えたら13本だった。いまは、池のそばに4、5本、表に1本。細い幹からしなやかな枝が手指ように広がり、薄く柔らかく、明るい緑の小さい葉が繊細な陰影を作り出している。夏には白い花が咲く。

 あー、こどもたちよ、そろそろ夏だからな、あの木に花をつけにゃならん。花の数も多いしの、ちょっと予定が立て込んどるんで、ささっと、つけに行っておいで。と、神様が、見習いの子供天使達を一斉におつかわしになった。子供天使達は一人一人、お世話役の天使達にはなびらの入ったかごをもらって木槿の木に向かって地上の林や森や町や庭に降りていった。
 こうやって、一枚一枚、きれいに重ねて、きゅっとまとめて、上の方をネジって止めて、ここ丁寧にね。それを、こうして、ぽん!ほら、きれいにつくでしょう!がんばってねー!
雲の上から降りる前に、送り出してくれる大きな天使達から花の付け方を聞いたけど、最後の方は時間もないし、お花はたくさんあるしで、ほとんど聞いたか聞かないかで、子供達はどんどん雲から押し出されていった。
 ふう、もう大分、がんばったな、と思うのに、かごの花びらはなかなか減らない。一人の子供天使がひらひらの花びらを無造作にくしゃくしゃっと丸めると、ぽこぽこ枝につけていった。きれいに畳んで、丁寧につけなさい、と、大きい天使からは言われたけど、神様だってお忙しくてつけてる間がなかったくらいなんだから、僕たちにできるわけないや。早くしないと朝になっちゃう。それをみていた他の子達も、そうだね、とりあえず、くっつけるのが先だよね、とばかりに、みんないっせいに、くしゃくしゃっとまるめてぽんぽんとつけ始めた。
 こうして仕事を終えた子供天使達が天に帰って夜が明けると、きちんと止めてなかった花がふんわりと、もう、ほころび始めていた。

 なんじゃあれは。
 神様は目を細めたり、メガネをかけ直したりしながら地上を眺めた。
 おびただしい数の、白いハンカチがを丸めたようなものが、木々にくっついている。あるものはふんわりと開きかけ、よく見ると花のようでもある。
 おやおや、これは、木槿じゃな。さては子供達、どうやら適当なことをしおったな。仕事は丁寧に、と、言ったのに、困ったことじゃわい。けしからんのー。
 いや、けしからんが、まあ、これは、なかなか、いい風情じゃないか。
 神様は仕事の手を止めて、しばし木槿に見入っておられた。それは、白い大きな蝶々が羽化する姿にも似ていた。
 薄い花弁がしっかりと広がり、大きな花になっても天使達がつけた皺は取れなかった。さざ波のように細かい皺でふちどられた花は風に揺れるように空に浮かんでいた。
 ふむ、これはこれでいい。
神様はそう思った。
 よし、今度からこれにしよう。

 こうやって、手のひらにのせたら、破らないように、くしゃくしゃっと両手で丸めて、ぽん!ほら、いい感じに散らしてくっつけて!ぽわんぽわん、とね。お花が風に揺られて咲くように、自然にね。

 大きな天使達の指導が変わった。

 そういうわけで、木槿は夏の朝、ぽわんぽわん、と、風に揺られながらふんわりと開くのだった。

などと言うお話を、木槿を見ながら考えたのでありました。





いいなと思ったら応援しよう!