桜は泣かない
私、泣かないもん。
表舞台ではキラキラ笑顔でファンを魅了する
完璧なアイドルの君の口癖だ。
俺は桜と同い年の都内の大学生
今は別々の大学に通っているが、
俺達は中学3年生の時から付き合っている。
桜「私、絶対にアイドルになるんだ」
〇〇「またそれかよ」
桜「なんなのその言い方、私の彼氏なら応援してよ!」
〇〇「なんでそんなアイドルになりたいんだよ」
桜「だってキラキラしてて可愛いもん」
〇〇「それだけ?」
桜「それだけって何?可愛くなりたいの!」
〇〇「はいはい」
桜「もぉ〜」
桜「来月、オーディションあるの。」
〇〇「お、マジか」
桜「だから、応援してね!」
〇〇「当たり前じゃん」
桜は、何度もオーディションに落ちた。
そのたび、元気がなくなる彼女に
俺はかける言葉がなくなっていって
彼女との距離も、少しずつ空いていった気がした。
高校は同じ。
俺はバンド活動に夢中になって、桜は学校に通いながらダンスのレッスンに通ってアイドルのオーディションを受ける日々。
一緒に帰る回数も休日にデートに行くことも減った。
彼女のオーディションがあるたびに俺が送るLINEのメッセージは決まっていた。
「頑張れ、桜なら絶対大丈夫。」
気づけば4月。俺達は高校3年生になっていた。
〇〇「桜、進路は決めたの?」
桜「決めた。」
桜は即答した。
〇〇「どうするの?」
桜「私、保育園の先生になる。そのための学校に行く。」
〇〇「保育士!?どうしたの、急に。」
桜「私、子供好きだから。だから。」
〇〇「...アイドルはどうすんだよ」
桜「...」
〇〇「私、絶対にアイドルになるんだ。」
〇〇「これ、桜の口癖」
桜「やめて。」
〇〇「アイドルは諦めたのか?」
桜「いや...来週...」
〇〇「ん?何?」
桜「来週、最後のオーディションがあるの。」
〇〇「それがダメだったら、諦めるってこと?」
桜「そう...」
〇〇「そうか、、でも大丈夫、桜なら絶対大丈夫」
桜「そればっかり...」
〇〇「.....」
桜「私、もう無理...」
桜の目から涙がこぼれ落ちた。
桜「私、アイドルにはなれないかも。向いてないんだよきっと。もう苦しみたくない...」
〇〇「可愛い顔が台無し。」
俺はハンカチを渡した。
〇〇「笑顔の桜が1番可愛いよ」
桜「ありがとう...」
〇〇「大丈夫、桜なら絶対。だから泣かないで」
桜「うん、、私、泣かないもん。」
〇〇「約束だよ」
桜は、最後と決めたオーディションに合格した。
今は四年制の総合大学に通いながら
キラキラアイドルの日々だ。
「私、泣かないもん」
笑顔でそう言う彼女は、なんだか楽しそうだ。
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