次は、髪をみどりに染める!
脳の可塑性(かそせい)、という現象があります。
私たちの脳内には、ニューロンという神経回路が張り巡らされていて、そのそれぞれの結合が決められた身体の機能を司っています。
事故や脳梗塞などの病気で、ニューロンが損傷を受けた場合、当然その部位が担っていた機能は損なわれます。
発語を担う部位が損傷されれば発語が失われ、右腕を動かす機能が失われれば右腕はあっても、動かなくなります。
その失われたはずの機能が、脳内の別の部位が担い始め、動かないはずの右腕が動き始めることや、言葉が戻る、というようなことがあります。
これを脳の可塑性と言います。
ある情熱的なケアワーカーの方からお聞きしたお話です。
身長180㎝、体重90㌔、高校時代はバスケット選手として活躍されていた方が、20代で脳梗塞を発症し、寝たきりになられました。
重度障碍者訪問という制度で、ケアワークを担当することになったその方は、介護されることになったその方と年齢も近く、すぐに打ち解けました。
ケアワークには当然、食事、排せつ、入浴が含まれます。
食事、排せつ、入浴、この3点はは、普通は他人に委ねない、寄せつけないその人の尊厳にかかわる行為です。
尊厳を守りながらも、自分を「介護の変態」と呼ばれるケアワーカさんは、ケアされる方が自分の本当の望みは何か、を伝えたくなる、環境や関係を創ることに心を砕かれたのだろう、と想像するのですが、ある時、寝たきりの彼に「何かやってみたことはない?」と聞いたとき、彼の答えは、「髪を染める」だったそうです。
寝たきりで「髪を染める」
それは一見、寝たきりの生活のクォリティとはかけ離れてた要求で、おそらく「介護の変態」の方でなければ、そんなの「無理」と一蹴された要求だったと思います。
ケアワークの本質は、本人の意欲を育て、その人らしく生きる手助けです。寝たきりであっても「髪を染める」ことが、その人らしいのであれば、実現させるために出来ることをする、それが「仕事」。
「介護の変態」さんの提案によって、関係者会議が開かれ、かかりつけ医も含め「髪を染める」了承が得られました。
彼は、バスケをやっていた時のような色に髪を染めることができました。
髪を染めたことは、脳の機能には関係ありません。
ところが、その後、脳梗塞を発症して以来、退院後も引きこもり、両親にも会おうとしなかった彼に「意欲」が生まれました。徐々に身体を動かすことが出来る様になり、今では車いすに乗ることができるまでになった!というのです。
もちろん、寝たきり→車いすに至るプロセスにも、リハビリだとか、なんだとか沢山の乗り越えられてきた「カベ」があっただろうと想像します。
その「カベ」を乗り越える意欲の源にあったのは、リハビリ以前にあった「髪が染められた」という事実。
本人があきらめていた「最高の未来につながる希望」がかなえられたという事実が起点になっている。
車いす生活をエンジョイし始めている彼の今の望みは「次は髪を緑に染める」だそうです。
あなたの現状を変える起点となる行動はなに?
私たちは望む最高の未来を希望していい
現状が思うように進まないとき、私たちはどうしても、目先の、「簡単にできること」に手を付けて、まるで前進したかのような気分になりがちです。
それと同時に、できない理由を他者に求め、被害者の位置に安住しがち。
それは、
世の中の流れが比較的穏やかで、昨日と同じ今日が訪れることが確実な時代ならそれもでよかったのだと思います。
緊急事態宣言が延長され、これまで以上に厳しい局面に立たされている方もきっといらっしゃると思います。こんな時だからこそ、最高の未来を希望し、その為の第一歩を始める時です。
寝たきりだった彼にとって、最高の未来は、以前と同じように、その時々で好きな色に髪を染めること、でした。
寝たきりの状態で、「髪を染めたい」と言えたこと、それは小さな一歩でしたが、確実に最高の未来につながる第一歩となりました。
お商売の現状を打開する、そんな一歩は必ずあります。
例えその一歩が小さくても、
最高の未来を希望して動き出す一歩と、
意図を持たず、とりあえずやれる目先のことをやる、の一歩では、もし仮に同じことをやっていたとしても、生み出す結果は違います。
その一歩を見つけるために、現在の延長でものごとを考えず、一旦リセット。
制約条件が全くなかったとしたら、本当に実現したいお商売のカタチは何かから構想することが、あなたの最高の未来を創ります。
京都で「知的資産とビジネスモデルの専門家」として、活動しています。現在は内閣府の経営デザインシートの普及に勤めています。