源氏の敵は、クツワムシ その2(全3回)
そして、3日目の夜のことだったよ。家来は言ったんだ。
「十郎殿、今夜の虫の鳴き声は妙に激しく聞こえます。敵の軍勢が押し寄せて来たのではございますまいか?」
「臆病者よ、あれは虫の声だ。たかが虫けらに怯える(おびえる)とは何事ぞ。」
とね、十郎が笑いながら答えていると、ガシャガシャ、ワーワーと鬨の声(ときのこえ)を上げて本物の敵が夜討ち(ようち)を掛けてきたんだ。夜討ちとはね、夜中に攻めて来ることをいうんだ。いくら強い十郎と言われていても、準備もしていないのに不意に襲われてしまったのだから、慌てたよ。だからね、家来たちも十郎も、てんでに逃げていったんだ。敵は月明りの中、追いかけて来る。
「かくまってはもらえぬか?」
一軒のお百姓の家に飛び込んで言ったのさ。
「おぉ、十郎どの。こちらへ」
十郎は、かくまってもらったんだ。一休みしていると、またガシャガシャと音が近づいてくる。
「十郎どの、敵が来るようです。お逃げなされ」
十郎はね、また次のお百姓の家へと走って逃げていったんだ。次の村人の家でもかくまってくれたんだけど、敵がすぐそこまで十郎を探しにきているのが分かる。ガシャガシャと音はするし、大声がするからね。十郎はね、また逃げて行ったんだけれど、かくまってもらう家が無くなってしまったんだ。さぁ、どうするか?十郎はね、草の生い茂っている窪地の中に隠れることにしたんだよ。ここなら見つからないと思ったんだ。
「十郎を見つけ出せ!」
「この近くにいるはずだ」
「おぉ、怪しいぞ。この草深いあたりだ。クツワムシが鳴いておらぬ」
「おぉ、確かにクツワムシが鳴いておらぬな。クツワムシが言っておるは、獲物はここなりとなあ、よーし、ここらをぐるり囲んで絞っていけ」
今日はここまで、
さて、十郎は見つかってしまうのか?
明日のお楽しみ、ポン!